プレスリリース

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月周回衛星「かぐや(SELENE)」の
地形カメラおよびマルチバンドイメージャによる観測について

平成19年11月16日

宇宙航空研究開発機構

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、高度約100kmの月周回観測軌道に投入した月周回衛星「かぐや(SELENE)」の初期機能確認の一環として地形カメラ(TC)およびマルチバンドイメージャ(MI)の観測を平成19年11月3日(日本時間)に実施し、その後のデータ処理を経て、これらの観測機器で正常に観測ができていることを確認しました。月の裏側や極域での地形カメラによる10mの空間分解能での月の立体視観測およびマルチバンドイメージャによる20mの空間分解能での複数のバンドによる観測は世界で初めてのことです。

 なお、臼田宇宙空間観測所で受信したテレメトリデータにより、衛星の状態は正常であることを確認しています。

地形カメラ(TC)

 地形カメラ(TC)は、可視域波長帯で衛星の真下に対してやや斜め前方・後方を撮影する2台のカメラで、世界で初めて、10mという非常に高い分解能による月全球の立体視(ステレオ)観測を月の昼間の領域に対して行います。平成19年11月3日に地形カメラの初期機能確認を行い、南極域の夏の時期の立体視観測に成功しました(図1図2)。その後、立体視観測データをもとに3次元地形画像を作成しました(図3)。
 地形カメラの高解像度での立体視観測により得られる精密な3次元地形画像は、月に特徴的な地形がどのようにできたのかをあきらかにする重要なデータとなります。また、クレータの分布の詳細な調査によって、月面の様々な地域がいつできたのかを、これまで以上の確かさをもって推定できるようになり、月がどのように生まれ、その後、月の内部やその表面がどのように変化してきたかをより詳しく調べることができるようになります。さらに、地形カメラのデータは、地形や日照条件など将来の月面拠点の設置をはじめ、月面上での有人活動の検討へ利用されることが期待されます。






出典 http://www.lpi.usra.edu/resources/mapcatalog
図1  地形カメラ初画像データ
(南緯89°東経240°)
月の裏側で、南極点から約30kmの位置




図2 地形カメラとクレメンタイン高空間分解能カメラの取得画像の比較
地形カメラ初画像データの図1の黄色の領域とクレメンタイン衛星高空間分解能カメラのデータを比較したもの。地形カメラでは、クレメンタイン高空間分解能カメラでは見られない、微細なクレータ(数10mサイズ)や、クレータ内の微細な構造が映し出されていることがわかります。



図3 地形カメラ立体視データから作成した3次元地形画像
図1に示された範囲の立体視観測から作成したもの。
左上の画像: 西から東を見る。右上の画像: 南から北を見る。左下の画像: 北から南をみる。右下の画像:東から西を見る。



マルチバンドイメージャ(MI)

 マルチバンドイメージャ(MI)は可視から近赤外波長域の9つの観測バンドで反射光を分析して鉱物分布を計測する観測機器です。マルチバンドイメージャの初期機能確認を平成19年11月3日に行い、初めて月を観測することに成功しました。
 異なる波長の画像を比較(比演算)することにより、鉱物分布やクレータ形成により月表層に掘り起こされた物質分布などの詳しい地質情報を得ることが出来ます(図1図2)。マルチバンドイメージャは最高20mの空間分解能を有しており、これまでの月探査機に比べ1桁高い空間分解能を持ちます(図3)。
 マルチバンドイメージャにより何十億年もの間に起こった月表層のさまざまな地質形成に関する情報を得ることができ、これを通じて月の起源と進化の研究を大きく発展させるとともに、有用鉱物の分布の解明などを通じて将来の月面上での有人活動へ貢献すると期待されています。






図1 マルチバンドイメージャの初画像
月面のカラー画像(擬似カラー画像)はMIの9つのバンドのうち、900nm、750nm、415nmの3つのバンドをそれぞれ赤・緑・青(RGB)に割り当てたものです。比演算画像は、750nm/1000nmという2つのバンドの強度比を色であらわしたものです。複数の波長バンドの観測画像を画像処理することによって、クレータ形成の際の衝突の規模や方向などを知るために必要な月の内部から表面に掘り起こされた物質の量や飛散方向、及びクレータの地下に存在する鉱物の化学組成について知ることができます。本画像は強度の較正前のものですが、単バンド画像と比べ、比演算を実施することによりクレータ周辺に飛散した物質の分布の不均一性がより鮮明にわかります。高地斜長岩表土(濃い青)の上にクレータ生成により掘り起こされた物質(強度比が大きい)が多い領域が赤〜黄色〜黄緑に見えているものと考えられます。





図2 マルチバンドイメージャの初画像の観測場所



マルチバンドイメージャ
(750nm単バンド画像 20m分解能)
クレメンタイン紫外・可視波長域(UV-VIS)カメラ
(100m分解能)

図3 マルチバンドイメージャとクレメンタイン紫外・可視波長域(UV-VIS)カメラの取得画像の比較 (図1中の黄色枠地域を拡大した画像)