ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


パネルディスカッション 写真 パネルディスカッション 「宇宙と生命――未知にいどむ研究のフロンティア」
パネルディスカッション 写真 江崎玲於奈博士をコーディネータに迎え、向井千秋宇宙飛行士、ブルース・マレー博士、高橋栄一博士、長沼毅博士、高柳雄一教授がパネリストとして参加して、盛んな意見交換が行われました。
「宇宙と生命」について
長沼博士

私たちは、宇宙生命探査といえば、いつも「宇宙の知的探査」――宇宙人探しだと思っています。もちろん、私も宇宙人に会ってみたいと思っています。
“知的生命探査”という言葉がありますが、句読点の打ちかたによって『知的生命の探査』と『知的な生命探査』と2つの意味になります。知的生命を探査することと、生命を知的に探査することは別です。今までは、生命探査そのものが知的活動であるということが論じられていませんでした。
私は、“脱知的”生命探査ということを強調したいと思います。脱知的というのは、われわれ自身が“知的”という呪縛から逃れることです。まさに、知的という言葉自体がブルーフィルターかもしれないのです。

高橋博士

私が専門とする地球科学は、非常に特殊な惑星の進化を研究している科学です。
私は「歴史」がとても好きです。歴史というのは、特定な事柄の、非常に特定な進化を対象としています。地球科学と歴史学という人間の進化を問う学問を通じて、生命の分野はつながっているんだという気がします。
地球を理解することは、人間が住む惑星の生活の科学、生存のための科学の知識を得ることになります。天文観測によって惑星系の普遍性とわれわれの特殊性を相対的に見るための理解が広がりつつある中で、特殊解をきちんと理解することは、一般解を展開することができるようになるということなのです。
私は、特殊解としての地球をできるだけ深く理解し、その上で天文学の方たちの知識をいただき、もう少し普遍的な目で地球を眺めてみたいと思っています。

マレー博士
IIT技術は非常に速いスピードで進化し、それにともなってコストが下がっています。その技術は、宇宙だけではなくあらゆるところを網羅し、私たちは'60年代とはまったく違う世界に暮らしています。人類は、より内面的に、そしてより相互に情報伝達を行う種へと変化しているともいえるのです。社会が変わり、世界が変わっています。私たちはいわば非常におもしろい歴史の道筋の中にいるということになると思います。おそらく何らかの境界にいるといっても過言でもないでしょう。

テクノロジーが進むにつれて、ロボットが宇宙へ送り出され、新しい世界が広がっていきます。そして、次に人間が行くかというとそうではありません。有人飛行の発展のスピードは、ITの進歩のような段階には至っていないのです。現時点では、最も優れた人たちを選んで宇宙へ送っているわけで、毎年増えていくわけではありません。コストを考えると、宇宙へ行くのは当面“どこにでも行くことができる”ロボットということになるでしょう。一方で、人間はロボットを情報のツールとして使うユーザーとなり、見つけたものを総合的に判断する本来の意味での探検家となるのです。

国際宇宙ステーションやスペースシャトルは、1970年代の概念であり、これは、明確なビジョンがあった1950〜'60年代の新しい夢や希望を反映したものなのです。
今こそ、ロシア、日本、アメリカ、中国などが、何らかの形で有人宇宙開発をIT技術の時代に合わせ、もっと安価で効果的なものにしていく必要があると思います。そうしなければ、継続的な宇宙開発は、金銭的な負担に耐えられなくなってしまうでしょう。
なぜロボットが安いのか。それはテクノロジーが進んでいるから、そして、地球に戻って来る必要がないからです。テクノロジーの進歩は、コストを下げ、地球上の発展も進めるでしょう。
アメリカは、1999年の火星探査機マーズ・ポーラー・ランダーとマーズ・クライミット・オービターを失った時のような悲しみを、もうこれ以上味わいたくありません。その思いが、今回のスピリットとオポチュニティという2台の火星探査機を成功に導いたのです。一方で、アメリカ政府はコロンビアの事故以来2年間以上も人を宇宙へ送っていません。今後の有人宇宙飛行に対してはこれまで以上の費用をかけることになるでしょう。



向井宇宙飛行士
人間とロボット――それは車の両輪のようなもので、どちらも必要です。ロボットをどんどん利用し、そのロボットを人間が使っていく。人間は、私たちにしかできないことをやる。科学技術が進んでくれば、肉体労働をはじめとするさまざまなことは、機材を使った方が楽になってきます。ですから、人間がやることを絞れば、少ない予算の中でもより多くの宇宙探査ができるのではないでしょうか。
ローバーが火星に行き、その姿を観察しています。これを人間だけでやろうとしたら、いつまでたっても不可能です。ロボットやセンサーが宇宙へ飛んで行き、私たちの目の代わりに見て、映像を送ってくれるというのは素晴らしいことです。私たちは、その映像を見ることによってイマジネーションを掻き立てられて、新たな研究を進めることができるのだと思います。

「地球」は、宇宙の中の一環境にすぎません。その中で非常に特殊な環境だからこそ、他の星にはない高等生物や環境が生まれたのです。
自分が今いるところをよく知るためには、自分が帰属しているエリアを大きくして、その端から振り返って見なければわからないと思います。だから、人間は、自分の環境を越えて宇宙や外に出て探査するのです。
ブルーフィルターを通して見ると、ブルーのものは見えない。外したときにようやく見える。重力もひとつのブルーフィルターなのですが、想像力によってフィルターの向こうにあるブルーのものを見ることができる人たちもいるのです。
青い鳥はなぜ見つからないのでしょう。青い鳥に囲まれている人たちは、青い鳥が見えない。失ってはじめて、今まで自分が持っていた機能なり環境が素晴らしいものだったということがわかるのだと思います。つまり、地球環境という宇宙の中で特殊な環境に育まれてきた生命体をよく理解するには、その環境を一度外してみないとわからないのです。

江崎博士

宇宙と生命はまさに知識のフロンティアであり、われわれの知識欲が非常に燃え上がる分野なのでおもしろい。ところが、政治家のように、その知識がどのように役に立つのかということをすぐに考えたがる人たちもいます。役に立つというのは技術の問題で、サイエンスというのはあくまで新しい知識をどこまで求めるか、そして、それがどういう技術に結びつくかということなのです。知識と何に役立つかということは別々な考えであり、知識はそれ自身に価値があることなのです。

    1  2  3 次へ  
目次ページへ戻る