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パネルディスカッション 写真 パネルディスカッション
			「宇宙と生命――未知にいどむ研究のフロンティア」
「フロンティアへ」
高柳教授

知性を持った生き物にとってはチャレンジする対象が必要なのだと思います。
それがなくなることは、ある種の自殺行為ではないでしょうか。
知的文明探しも「生き物の進化の中で文明ができて、文明とはどれだけもろいものかということを探しているのだ」と聞いたことがあります。今、私たちが背負い込んだ課題は、チャレンジすべき別のフロンティアへ向かうことだと思います。

長沼博士

フロンティアに人を送ることのコストパフォーマンスは、まじめに考える必要があります。
私は有人潜水調査船「しんかい6500」に携わっています。これも、人をよりロボットを送ったほうがいいのではないかという問題を抱えています。毛利さんは宇宙にも行って「しんかい6500」でも潜ってらっしゃる。深海の闇と宇宙の闇の区別ができる人です。それは人間だからです。
私も、「しんかい6500」に乗船し海底火山のそばで生き物に接した時に、言い表すことができないくらいの感動を覚えました。そして、なんとも言えない、つながりというものを感じました。私はこの地球と完璧につながっているというイマジネーションが、空間だけでなく、時間にまで及んだのです。フロンティアに行って、地球の一員になったことをそこで初めて感じました。だからこそ人間はフロンティアに行くのではないでしょうか。行ける人は確かに少ない。だからこそ、その人たちがちゃんと伝えなければならないと思います。
つながりを感じられる気持ち、「イマジネーション」。これは日本語にすると想像力ですし、私は「思いやり」という言葉の別名だと思っています。コストパフォーマンスを声高に叫んでサイエンスをがんじがらめにすることによって、想像力がどんどん減らされていき、結局理科離れを生む、社会の大人や青少年の思いやりの欠如を生む。国益とはなんなのでしょうか。それは、われわれが欲するもの。心を豊かにすることではないでしょうか。だとすれば、フロンティアに人を送り、その人を通してイマジネーションを広げたいというのが私の考えるところです。

高橋博士

冷静に考えれば、長沼先生を「しんかい6500」に乗せて海の中に沈めるよりも、ロボットを使って48時間でも60何時間でも潜ったほうがいい映像も撮れるわけです。しかしそれでは、長沼先生の熱い感情というのは沸いてこない。
私が高校3年生の1969年、アポロがはじめて月に着陸したとき、ある種のビリビリするような感情をすごく強く持ちました。それは決して私だけではなく、全世界の地球の人類が20世紀に感じた一番大きな感激というものだったのです。
アポロで300kgの月の岩石が地球に持ち帰られ、それによって太陽系の初期のことがずい分わかるようになってきました。もし10回の無人ミッションで300kgの石が戻ってきたのだとしたら、私たちはおそらく20世紀の年表に月探査のことは書き込まなかったでしょう。それほど、人間が行くということのインパクトは大きいものなのです。
300kgの火星の石を持って帰ってくれば、相当の研究ができるでしょう。ですが、人間が感情的に受けとるもののことを考えれば、やはり人間が行くべきなのではないでしょうか。

向井宇宙飛行士

人間には何かチャレンジするものが必要なのだと私も思います。
宇宙でも生命でもどこにでもフロンティアはあると思います。機材を作る、知識を得る、あるいはテクニックを得る、それもフロンティアです。けれど、自分の心の中で自分の知らないことを広げていく――自分自身の心を豊かにしていく、明日の自分は今日の自分と違う――そして、環境を広げていく。そのことがフロンティアだと思うのです。
短い人生なのだから、よりポジティブに楽しく、そして百年後の子どもたちのことも考えて自分が今できると思って信じることを一生懸命にやっていくことが、フロンティアを推進していくのではないでしょうか。

おわりに
江崎博士

私たちの人生や研究生活には、成功と失敗があります。
成功は、もろさやうぬぼれをともない、自意識過剰になって誘惑に陥りやすいものです。私たちは、分別を持って成功を味わいます。
一方で失敗の場合は、そこから抜け出さなければならない。人間は創造性を発揮して、いかに失敗から抜け出し、どう活用するかという道を探るチャンスを与えられるのです。
私自身もそうですが、人類や文明には、成功や失敗がありました。その中で、失敗に与えられたチャンスをどのように活かすか、それが一番重要なことだと思っています。

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