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JAXAよ、シャキッと胸を張れ  慶應義塾大学助教授 松尾亜紀子
松尾亜紀子さんの写真 まつお・あきこ 慶應義塾大学理工学部機械工学科助教授。専門は数値流体力学、とくに圧縮性流体の化学反応流解析。国土交通省の「航空・鉄道事故調査委員会」航空部会の委員(非常勤)に史上最年少で選ばれ、話題を呼ぶ。佐賀県出身
壁の向こう側の世界で起こる高エネルギー現象に取り組む
 

―― 先生のご専門の「デトネーション」、耳慣れない言葉ですが日本語ではどう説明されますか?

松尾 「爆轟(ばくごう)」と言われますが、「デトネーション」のほうが通りがいいと思います。

―― 身近な現象でご説明いただくと……。

松尾 日常生活ではまず経験することがない現象です。ガス爆発が生じた際ごくまれに、ある条件を満たしたときに、発生することがあります。

―― ふつうの燃焼と何が違いますか?

松尾 ふつうの炎は、物理でいう「拡散」現象に応じて広がります。しかし「デトネーション」の場合は、そこで生じる衝撃波が、伝播に大きく影響します。そこで何が一番違うかといえば、時間のスケールが違いますね。たとえば燃焼の波面は1秒間に2000m進むような燃え方になります。いったん火がついてしまうとアッという間に燃焼が進む。拡散で燃焼伝播していくのとはだいぶ違いますよね。それほど速いものだから、そこで生じる衝撃波と燃焼の干渉がすごく大きいわけです。

小さな空間を表現する松尾亜紀子さんの写真―― 衝撃波と聞いて思い出すのが「音速の壁」。ライトスタッフという映画にもなったくらいで、これを破るのに人類はたいへんな苦労をしました。

松尾 デトネーションも、まさに壁の向う側の世界です。ふつうの燃焼に比べ、エネルギーレベルは3桁も4桁も高く、伝播の速度もきわめて速いわけですから。うまく使えば、非常にシンプルな構造で出力の大きいエンジンを作ることもできるようになるかもしれない。人類はまだ、この「デトネーション」を制御しきれてはいないんです。

―― 先生はそれを数値計算で解明しようという研究に取り組んでおられるわけですよね。流体で、圧縮性で、燃焼で、数値実験をやろうとすると、ポーカーのロイヤルストレートフラッシュのような非常に難易度の高い分野ではないかと……。

松尾 いやポーカーというよりオイチョカブの「ブタ」みたいなものですよ(笑い)。それぞれに難しくて相性の悪いものばっかりを、ひとくくりにして扱わなければいけません。こんな小さな空間(左写真)で起こる、マイクロ秒の現象をシミュレーションするだけでも、1週間ぐらいかかったりするわけです。

「2次元デトネーションの伝播の様子」 桁違いの高エネルギー現象だが、まるで抽象画のような美しさ。
ムービー縮小版 2.00MB ムービー縮大版 6.99MB

―― たとえば「地球シミュレータ」のような超高速スパコンを利用できれば、どんどん業績を上げられるわけですか?

松尾 そこはちょっと違いまして、速いコンピュータを使ったからできたシミュレーションは、5年経てば誰でもできるようになるわけです。単なる計算機パワーだけではないところを狙わないと、研究としては面白くない、と思っています。








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