―― 先生のご専門の「デトネーション」、耳慣れない言葉ですが日本語ではどう説明されますか? 松尾 「爆轟(ばくごう)」と言われますが、「デトネーション」のほうが通りがいいと思います。 ―― 身近な現象でご説明いただくと……。 松尾 日常生活ではまず経験することがない現象です。ガス爆発が生じた際ごくまれに、ある条件を満たしたときに、発生することがあります。 ―― ふつうの燃焼と何が違いますか? 松尾 ふつうの炎は、物理でいう「拡散」現象に応じて広がります。しかし「デトネーション」の場合は、そこで生じる衝撃波が、伝播に大きく影響します。そこで何が一番違うかといえば、時間のスケールが違いますね。たとえば燃焼の波面は1秒間に2000m進むような燃え方になります。いったん火がついてしまうとアッという間に燃焼が進む。拡散で燃焼伝播していくのとはだいぶ違いますよね。それほど速いものだから、そこで生じる衝撃波と燃焼の干渉がすごく大きいわけです。 ―― 衝撃波と聞いて思い出すのが「音速の壁」。ライトスタッフという映画にもなったくらいで、これを破るのに人類はたいへんな苦労をしました。 松尾 デトネーションも、まさに壁の向う側の世界です。ふつうの燃焼に比べ、エネルギーレベルは3桁も4桁も高く、伝播の速度もきわめて速いわけですから。うまく使えば、非常にシンプルな構造で出力の大きいエンジンを作ることもできるようになるかもしれない。人類はまだ、この「デトネーション」を制御しきれてはいないんです。 ―― 先生はそれを数値計算で解明しようという研究に取り組んでおられるわけですよね。流体で、圧縮性で、燃焼で、数値実験をやろうとすると、ポーカーのロイヤルストレートフラッシュのような非常に難易度の高い分野ではないかと……。 松尾 いやポーカーというよりオイチョカブの「ブタ」みたいなものですよ(笑い)。それぞれに難しくて相性の悪いものばっかりを、ひとくくりにして扱わなければいけません。こんな小さな空間(左写真)で起こる、マイクロ秒の現象をシミュレーションするだけでも、1週間ぐらいかかったりするわけです。 ―― たとえば「地球シミュレータ」のような超高速スパコンを利用できれば、どんどん業績を上げられるわけですか?
松尾 そこはちょっと違いまして、速いコンピュータを使ったからできたシミュレーションは、5年経てば誰でもできるようになるわけです。単なる計算機パワーだけではないところを狙わないと、研究としては面白くない、と思っています。
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