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世界のために役立つ宇宙開発

   宇宙開発自体は、世界のどこを見ても国家が行っています。国の事業は、ビジネスとして成り立たなければ意味がないという民間企業とは価値観が違います。直接的な利益があるかどうかではなく、国民あるいは世界のために役立つかどうかという判断で行われるべきなのです。
 ただし今後は、プライム制を取り入れ、標準型ロケットの打ち上げを民間に移行する方向で進めていくなど、JAXAと民間企業の役割は変化していきます。
 かつて私が携わっていた通信事業も、国の事業としてはじまったものです。当初は多額の投資が必要で、国家主導で行わなければ困難でしたが、インフラや設備投資のコストが減り、1980年代になって民間でもできる状況になりました。そして市場が拡大し、競争原理を導入することになったのです。ただし、通信政策については、いまでも国の一元性を維持しています。
 今後の宇宙開発も、研究は一元的に行い、実用化して利用する点については、民間の競争原理が必要になってくると思います。


日本の宇宙開発が実用で成功するために

衛星間を光で結ぶ光衛星間通信実験衛星(OICETS)。光通信技術は、将来のデータ中継衛星に必須となる技術と期待される。JAXAではこの他にも、私たちの暮らしに役立つ多くのミッションが進められている JAXA理事長の職に就いて、日本の宇宙開発分野のGDP(総生産高)の少なさに驚きました。この規模だと、多数の企業が参入して競争しても産業は成り立ちません。産業を育てるためには一定の市場規模が必要です。そのためには市場を形成できるだけの需要が不可欠です。その点では日本の宇宙開発はまだまだ難しい段階にあります。需要の拡大がなければ、産業としての自立はありません。
 まずは日本の市場がターゲットとなるでしょう。現在、宇宙を積極的に利用している分野は、通信、放送、測位で、通信と放送はすでにビジネスとして成り立っています。無料で利用できる測位衛星は、民間で大いに活用されていますし、日本の会社のいくつかは、米国の民間衛星の撮影した画像を販売するようになってきています。今後は、さらに多方面に衛星の利用を拡張していくべきでしょう。
 ビジネスが成立するかどうか分からない官の需要は、これから開拓すべき分野のひとつです。また、衛星で宇宙から地球を見る地球観測の分野は、気象だけではなく、陸域、海洋、大気の観測も同じですが、今すぐビジネスになる状況ではありません。この段階は、国が支援していくべきだと思います。
 また、衛星を利用するのは、打ち上げた国だけにとどまりません。世界中の国で利用可能となるわけですから、宇宙開発は地球国家のためにやっていると考えるべきです。日本で需要を先駆者的に開拓して、それを世界に展開するという発想もあっていいのではないでしょうか。衛星の打ち上げも、各国が持ち回りで行ってもいいのではないかと思っています。



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