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「分かりやすい天気解説」の秘訣は何ですか。
僕は、1969年に気象協会というところに入って、気象庁が出した予報を分かりやすく作り直して必要とする企業に送ったり、テレビやラジオで解説したり、調査をしたりという業務に携わっていました。
入ってからは勉強しましたけど、はじめは、気象に関する知識はほとんどゼロでした。だから自分で言うのもなんですが、何も知らずに入ったから、何もわからない人のことがわかりますし、理解してもらうためにはどうすればいいかを考えた上で解説することができました。はじめは「気圧の谷」と言われても何のことなのかわからなかった。専門家にとっては基礎中の基礎のことでも、普通の人にはわからないものなんです。一般の人にわかりやすい言い方はないかと、自分なりに考えました。ただ、どうしても、やっているうちに少しずつ難しくなっていくんですが、見ている人もついてこれるようになるんですよ。その繰り返しだったんじゃないかと思いますけどね。
では、一般の人に専門的な情報を伝えるときは、何に気をつければよいのでしょうか。
科学者って、自分の研究対象にしか興味がないから、それ以外を伝えようとしないでしょう。もっとわかりやすく説明していくことが必要ですよね。科学者の方が、「もっとわかってほしい」と言っていかないと、予算だって削られていくのではないでしょうか。
研究者と普通の人、解説者と普通の人とは、視点が違います。僕は、専門家でない普通の人の感覚というのは素直に喜びを感じるところだと思うんです。「人体の不思議展」に行って、何がおもしろいかというと、見たり触ったりして「え〜、これが本当の人間なの!?」、「え〜うそだろう!?」と感じることだと思うんです。そこにどんな臓器があるかというのは関係ない。みんなの興味や関心は、素朴な感情から入るものなのではないでしょうか。
その間を埋めるにはどうしたらいいと思われますか?
専門家になってしまうと、どこかで普通の人の視点を忘れてしまうんです。僕もプロになってしまっているから、忘れかけてしまっているところはあります。「初心忘るべからず」は、すごく真理を突いている言葉だと思います。何かに最初に接した時に「え〜そうなんだ」と感じた驚きが知識になっていくんです。自分の知識になってしまうと、あたかもそれを昔から知っているかのように言ってしまいがちですが、自分が感じた驚きを忘れずに覚えておいて、それを繰り返し伝えていくことが大事なのだと思います。宇宙の画像だって、衛星画像だって、本当にもっと驚きを与えられるようなものがあると思うんです。
ただし、普通の人の目線は大事だけれど、科学者はそれだけではだめなんですよね。普通の人の目線を忘れずに、そこから一歩進めていくってことなんだと思います。そういう意味で、バランスの取れた、専門バカと言われない科学者が増えるといいですね。
情報を受け取る側の知識を育成することも必要だと思います。例えば、都市気候と地球温暖化をごちゃ混ぜにしてしまわないような、科学的な考え方を身に付けたほうがいいと思います。これは、大人になってから急に習得できることではなく、小さい時からの訓練が必要なことでしょうし、われわれの側からも、もっと科学的な素養を身に付けてもらえるような教育活動をしていかなければならないのでしょうね。
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