
「きぼう」日本実験棟

(左から)土井、星出、若田宇宙飛行士
Q.2008年の主要なミッションについて教えてください。
2008年および2008年度には、2つの主要ミッションがあります。1つ目は、H-IIAロケットによる2機の衛星打ち上げを予定しています。超高速インターネット衛星「きずな」と温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」です。「きずな」は、広域で誰もが平等にインターネットを使った高速通信サービスを受けられることを目的とした通信衛星で、災害や教育、遠隔医療などの分野への実用が期待されています。「GOSAT」は、地球温暖化の原因となる、世界各地域の温室効果ガスの濃度分布や吸収・排出を観測することを目的としています。
2つ目は、今年から日本初の有人宇宙施設である「きぼう」日本実験棟が、スペースシャトルによって3回に分けて打ち上げられ、国際宇宙ステーションに取り付けられ、運用が開始されます。また、「きぼう」の組立の中で、日本人の宇宙飛行士が、連続して宇宙へ行きます。「きぼう」打ち上げの第1便には土井宇宙飛行士、第2便には星出宇宙飛行士が搭乗し、第3便では若田宇宙飛行士が約3ヵ月間の長期滞在の後、帰還します。1年の間に、日本人宇宙飛行士のフライトが3回、その内1回は日本人初の長期滞在ということで、「きぼう」打ち上げと、それに関わるこれらの宇宙飛行が、今年最大のミッションではないかと思います。

「きぼう」船内実験室
Q.国際宇宙ステーションを今後どのように活用していきたいですか?
国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」は、日本が初めて作った一種の有人宇宙施設です。それが宇宙でちゃんと機能することをまず検証したいです。これによって日本も有人宇宙施設を製造・運用する能力を持ったということを証明できます。次に、公募によって選定した宇宙環境利用実験を実施します。2008年から2010年の第1期分については既に決まっていますが、第2期分については、現在、公募で集められた実験テーマの選定作業を行っています。このような形で、今後も公募を続けて、「きぼう」を利用した科学実験の成果を着実に上げたいと思います。さらに、日本人初の宇宙長期滞在が実現しますので、長期滞在における人体への影響など、医学的臨床をきちんと行いたいと思います。日本人宇宙飛行士が被験者となれるので、ぜひ日本の医学者の方々に参加いただきたいと思います。
また、これは新しい活用方法ですが、「きぼう」を有償で利用していただきたいと思います。利用者の方に費用をご負担いただきますが、そこで得られた成果を独占的に使用することができます。ですから、企業の研究開発からコマーシャルのような商業利用など、利用者の自由な発想で宇宙を活用していただきたいと思います。昨年末に、第1回目の公募を行いましたので、これからその選定を行い、実現性を追求していきます。
このように、「きぼう」の利用には多くの可能性があります。日本で初めての宇宙実験棟が打ち上がる今年は、日本にとって、新しい有人宇宙飛行時代の幕開けとなる重要な1年になると思います。
Q.主要ミッション以外で積極的に進めていきたい分野は何ですか?

次期固体ロケット

静粛超音速研究機

ロケット、衛星、宇宙科学、航空関係さまざまなプロジェクトを進めていますが、まずロケットは、引き続き、基幹ロケットであるH-IIAロケットの信頼性向上を図るほか、、H-IIBロケットや宇宙ステーション補給機(HTV)の開発を進めます。また、将来に向けたLNG(液化天然ガス)エンジンの開発と、M-Vロケットの後継機となる次期固体ロケットの研究開発を着実に進めていきたいと思います。
利用分野の衛星としては、環境、災害対策や測位を目的とした3つの衛星、全球降水観測衛星「GPM」、地球環境変動観測ミッション「GCOM」、準天頂衛星の実現に向けて取り組みます。将来的には、年間3機の基幹ロケットの打ち上げを目指したいと思っていますので、確実に衛星の開発を進めていくことが重要です。また、今年打ち上げを予定している温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」と一緒に、大学や企業などが作った6機の小型衛星を打ち上げるという初の試みにも挑戦します。これを成功させて、大学や企業などが作った小型衛星の相乗りミッションを、毎年行えるようにできればと思います。
宇宙科学・月惑星探査では、金星探査機「PLANET-C」の開発や、水星探査機「BepiColombo」、電波天文衛星「ASTRO-G」の研究開発を進めるほか、将来の月・惑星の探査計画について、一定の結論を出したいと思います。小惑星探査機「はやぶさ」や月周回衛星「かぐや」の後継機となる「はやぶさ2」、「かぐや2」の準備をそろそろ始めたいと思います。これについては、次世代の天文衛星も含め、ぜひ国際協調の枠組みで行いたいです。太陽の光の圧力を利用して太陽系空間を自由に飛翔する「ソーラーセイル」などの野心的な技術も魅力的ですね。
航空は、超音速機の研究開発を軌道に乗せたいと思います。超音速旅客機コンコルド以降、どこの国も超音速旅客機を飛ばしていません。コンコルドの大きな問題点の1つはソニックブームという騒音でしたから、JAXAではこれを解決する「静粛超音速機」の技術開発を行っています。その実現を目指して、プロトタイプによる飛行実験の準備を進めたいと思います。