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ブルース・マレー博士 インタビューパート2 JAXA復活への証言
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Q.宇宙航空三機関が統合されたJAXAは、どのように競合を作っていけばいいのでしょうか?

方法はいくつか考えられますね。JAXAにとって、以前は存在しなかった機会が今はあります。以前日本にはISAS(文部科学省宇宙科学研究所)とNASDA(宇宙開発事業団)がありましたが、両者は協力することに幾分後ろ向きだったように思います。確かに協力はしていたのですが、限界がありました。ISASのミッション、NASDAのミッションという形で分割されていましたからね。 機関が統合されてJAXAが誕生した今、ミッションも統合され、「全てJAXAのミッションだ。最高のリソースを活用する。JAXA内部で競争が生まれるようにする。例えば、旧NASDAの技術者、科学者、メーカーを宇宙科学ミッションで競合させる。旧ISASの科学者、技術者、メーカーを地球観測ミッションで競合させる」などと言えるようになりました。これは一例です。競争という行為そのものが行われることで、人は自分の行動をもっと注意深く考えるようになるのです。

 もう1つには、私は'90年代、一時期日本に住んでいたことがあります。その時、日本の航空宇宙産業と政府組織の関係を理解しようと努めました。日本の契約企業を管理するメカニズムは、文化的にアメリカのものとは非常に異なるものでした。 政府機関が費用を支払えない場合に、契約企業の支援を受ける必要があるため、契約企業間の競合が最大限に行われているかどうかよく分からなかったのです。企業の支援を受けるのは早い段階で、比較的大きな予算を使ってプロジェクトの概念やその実行方法を定義し、そういった要求事項が確立したらオープンな形で競合が生まれるようにするという予算編成が必要なのかもしれません。これはアメリカ的な手法ですがどうでしょうか。 私はあまり多くを語れるほど日本通ではありませんし、日本がこれまで多くの分野で実績を残していることを考えると大それたことは言えませんが、競争は重要ですし、競争をいかにして生み出していくかということが重要だと言えるでしょう。


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 最後にもっと大きな問題についてお話したいと思います。
 JAXAが日本の宇宙機関を代表する大規模組織となったことで、政府およびJAXAがどの程度、海外と協力すれば日本の国益にかなうのかということについて、決定できるようになりました。比較的小規模の組織でそれを実行するのは難しいと思います。
 海外との協力は大きな案件ですし、それを実現させるためには、日本には解決しなければならない問題が数多くあります。考えてみると、もし火星探査など、実施したいミッションがあるならば、別の国と協力関係を持つことで、そのミッションのある程度の部分に関しては契約企業を競合にかけることができます。そうすれば日本の宇宙開発の基盤が広がったことになるのです。
 私は日本に対して協力的でありたいと常に思っていますし、共感の気持ちを持っています。私が'90年代に日本に滞在していた時に「目標は何ですか? 何を達成しようとしているのですか?」と聞いて回ったものです。それに対する答えは「追いつけ」と言うことでした。それはある種のスローガンでした。第二次大戦後、ひどく破壊された日本社会はまず製造業で、さらにはもっと高度な技術を要する製品の分野で欧米に追いつくべく国民が一丸となりました。「追いつけ」というスローガンが、当時はうまく機能したわけです。特に日本は、米ソ対立の中で莫大な防衛費を負担する必要がなく、見事に成長を遂げることができました。しかしその時代にはピリオドが打たれました。1990年に冷戦が終わりを迎えたのです。それはちょうど日本のバブル経済が崩壊した頃のことでした。

 現在のような状況の中、日本の宇宙開発は大きな問題を抱えています。その問題とはコロンビア号事故調査委員会の批判と同じです。批判の中心はアメリカには有人飛行プログラムの目的やゴールがないというものでした。
 日本の宇宙開発も目的やゴールが稀薄だという問題をいささか抱えてしまっています。「追いつけ」がスローガンであるうちは、物事は単純で、素晴らしい結果を収めてきました。しかし、日本は成長を遂げました。日本は大国となり、その事実からもはや逃れることはできません。世界にはアメリカ、ロシア、欧州各国のような大国がありますが、日本はその中で「世界で自らが果たすべき役割とは何か?」という難しい課題を突きつけられて行き詰まっています。日本は今、どのような10年後、20年後、30年後の姿を思い描いているのでしょうか? 統合し拡大したJAXAは、日本の今後の目標について、人々と政府の間で相互に対話し、生み出すことが可能でしょう。日本には新しいスローガンが必要です。



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