![]() |
![]() ![]() ファイルサイズ:13.4MB フォーマット:MPEG |
![]() |
Q.困難を乗り越えても宇宙開発を進めていかなければならない理由とは何でしょうか? 私たちがアメリカで宇宙開発を擁護する際は、21世紀の主要国にとって必要不可欠なものなので実用的なメリットがあることを主張し、また一方で、世界中の人々が自信を失いかけている今、宇宙開発には非常に大きな精神的な価値があるということを主張します。人は物質主義にあまりにもとらわれすぎています。我々はどこに向かっているのか? 何をしようとしているのか? そのような問いかけに対して宇宙開発は人々のニーズにも精神面にも貢献することが可能なのです。 実用的なメリットには、商業的な理由があります。統合された産業にとって宇宙は非常に重要なのです。日本にとって最近の主要な競争相手といえば、私の意見では中国でしょう。中国は宇宙計画において非常に野心的ですし、政治的、実際的な結果両面から見ても、日本は中国を意識せざるを得ないでしょう。日本と中国はそれぞれ1970年にはじめての人工衛星を打ち上げました。日本がその当時の日本とは違うように、中国もまた当時の中国ではありません。両国とも今は全く違う国になっているのです。 実用的なメリットの中には、気象衛星がもたらす気象情報が挙げられます。気象情報とはハリケーンがやってくるなどの情報だけを指すわけではありません。浸食による地形の変化も現代における重要な情報の1つなのです。日本がグローバル化した社会の一員であろうとすれば、国際的な地球環境観測プロジェクトに参加することもできますし、他国と情報を分け合い、地球規模の情報化社会の一員となることができます。非常に重要なことです。 そして実用分野の最後は防衛です。日本には北朝鮮問題があります。日本を横断するロケット(ミサイル)を発射するという攻撃的な行為を見せられては、もはや傍観することはできません。日本は自国の安全保障を評価する道具を所持していなくてはならないのです。宇宙はその重要な一部です。こういったものが実用的なメリットです。 英語には「人はパンのみにて生くるものにあらず」ということわざがあります。物質的な要素だけでは足りず、精神的な要素が必要なのだと。宇宙探査(開発)から直接得られる高揚感と人間の精神の拡大――私にとってはそれが一番重要なことです。 「スピリット」が火星に着陸した時にも私は精神が高揚しました。私やあなたと何ら変わらない血と肉でできたパサディナ(JPL)の技術者と科学者が、空に浮かぶ赤い点「火星」からデータを入手し、それを私たちに届けてくれる。人間が火星に到達したわけではありませんが、火星からもたらされたものは重要なものです。それは人間の心に大きな影響を与えます。これは今の若い世代の人々に多大な影響を与えるでしょうし、アメリカでは非常に重要なことです。日本でも同じなのではないでしょうか。 過去現在なかったものが将来には存在する、未来は良くなる、少なくとも今とは違ったものになるという考え。今そういう活動をしているということは、未来の構築に参加することに等しいのです。日本がこのようなプログラムを実施しなければ、未来の構築に参加することは簡単にはできないでしょう。「のぞみ」はそういったプログラムの一部でしたし、だからこそ「のぞみ」は不可欠な存在だったのです。日本はそういったプログラムを何度失敗しようとも今後も継続していかなければなりませんし、その中でもっと積極果敢になる必要があります。 |
![]() |
||||||
![]() ![]() ファイルサイズ:9.8MB フォーマット:MPEG |
![]() |
最後は有人宇宙飛行についてです。「なぜ有人飛行を実施するのか。ロボットでいいのではないか」という質問をお持ちかもしれませんね。アメリカのコロンビア号の事故以来何度も聞かれる質問です。ただロボットでは十分とはいえないのです。ロボットは人間が作り出したものですし、私たちの一部であるのは確かです。しかし人間が実際に宇宙で経験を積むのと同じではありません。そして今世紀の主要なテーマのひとつに、火星が居住可能な惑星なのかどうか結論付けることがあります。火星は人間が活動できる惑星なのか? 月はそうではないと思います。火星では炭素、水素、酸素、窒素が簡単に地表で手に入ります。ですから私たちは決意を固めるのです。火星に温室を設置し、太陽発電、またはもっと可能性が高い原子力を利用し、時間をかけて熱を生み出し、食物を栽培することができるかもしれません。地中に豊富にあることがわかっている氷から呼吸に必要な酸素、そして水を作り出すことができるかもしれません。ですから火星というのは本当に時間をかければ少なくとも人間が居住する可能性を与えてくれる場所なのです。この場合最大の疑問というのは、それは本当に時間をかければ現実となる可能性があるのかどうかということでしょう。 初めて人類が南極に到達してからおよそ100年の歳月が流れました。100年前、スコットとアムンゼンが南極点到達を争いました。その後、南極探検は第一次大戦で中断し、第二次大戦後まで再開されませんでした。時が流れ南極探検はもっと科学的なものになり、日本も重要な役割を果たしてきました。そして今は恒久的な科学調査基地を有しています。南極では1年のうち半年は闇に包まれ、言ってみれば火星のようなものです。火星ほど寒くはなりませんが、非常に寒い。私は同じことが今世紀の半ばか後半に火星でも起こると予想しています。 日本の若者は傍観者としてこれを黙って見ていたいと思っているのでしょうか。それとも当事者として参加したいと思っているのでしょうか。答えがどちらかは非常にはっきりしているでしょう。ですから日本政府はプログラムを維持するべきです。アメリカの有人飛行プログラムが窮境に陥っているのは事実ではあります。しかし、火星到達のような重要な目標を持って、それをもっと合理的なプログラムに発展させる手助けをすることは、日本の長期的な利益に適うものです。それこそが精神的な側面なのです。
[ インタビュー収録:2004.1.5 ]
|