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Q.2 1962年、初めて宇宙からのX線を見つけたときの装置について、
   またそのときどう感じたかもお聞かせください。
「すだれコリメータ」に見入る2人 写真 ジャッコーニ博士へのノーベル物理学賞は「X線天文学の開拓」という業績に対して与えられたもの。この分野の黎明期、ジャッコーニ博士は元ISAS所長の小田稔博士(故人)らと緊密な共同研究を行っていた。写真は「すだれコリメータ」に見入る2人。X線源の方向を正確に決定する「すだれコリメータ」は小田博士のアイデアに基づくものでX線天文学の分野での日本の貢献を象徴する観測装置である
 宇宙からのX線は地球の分厚い大気を貫いて地上に達することができません。ですから、X線星などの天体の発見は、観測装置を大気圏外まで運べるロケットの開発を待たなければなりませんでした。
 1962年以前にも、長年にわたりX線の研究は行われており、とくにフリードマン氏率いる海軍研究所のグループが行った実験は大きな成果を上げていました。終戦後にアメリカがドイツから獲得した「V2ロケット」を使用して、地球に最も近い恒星である太陽と、そこから放射されるX線を研究していたのです。そして、太陽のコロナは非常に高温であり、そのコロナからX線が放射されていることを発見しました。その後もグループは研究を続けましたが、彼らが使用していた検出器は、太陽以外の天体からの微弱なX線をとらえるほどの感度はありませんでした。
 太陽と同じほどの明るさでX線を放射する恒星を、地球に最も近い部類の恒星の位置に置いてみても、そもそも距離が非常に遠いため、放射されたX線は地球に届くまでに太陽の100万分の1にまで減ってしまいます。ですから私は、こうした非常に遠く「暗い」天体でもとらえることができる装置を設計しようしたのです。
 そのために私は2つのプロジェクトを進めました。2つのうちどちらが機能するか分からなかったためです。
ジャコーニ氏写真

講演前の立食パーティーで談笑するジャコーニ氏。日本科学未来館にて
 1つ目のプロジェクトは、フリードマン氏が使用していた検出器と同じようなものをベースにし、バックグラウンド粒子を除去するための機能を加え、従来のものよりはるかに優れた感度を実現しようとするシステムでした。天球上のどんなX線天体をも見落とさないように、当時使用されていたどんなものよりも大型で感度の高い検出器を製作しようとつとめたのです。その結果、最初の飛行は爆発して失敗に終わったものの、2回目と3回目の実験でそれまでの100倍の感度を達成することができました。
 しかし、私たちがさそり座X-1からのX線を発見できたのは、この天体がまったく予想をしていなかったほどX線で明るかったからです。誰もが予想しなかった新しい部類の星、新しいX線放出のメカニズムが存在しました。
 2つ目のプロジェクトは、X線を検出する「望遠鏡」の開発です。当時予想していたX線天体は大変暗いもので、検出のためには集光装置やより高度な検出器が必要だと考えていたからでした。この技術は何年もの歳月を経て現実となりましたが、私たちは幸運にも1つ目のプロジェクトで成功を収めることができたのです。



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