Q. ロシアの宇宙開発はこれからどのようになると予測されますか?


人類は、地球のすべてのことを知りたくて、ただ理解をしたいという動機で宇宙に興味を持ち始めました。アメリカ大陸が発見される相当前から惑星間旅行の夢を思い描いていました。たしかギリシャ時代の頃からです。もちろん、その後の旧ソ連とアメリカの冷戦を予測した人はいません。ただ単に、遠くにあるものへの探求心のみでした。
冷戦という国家間の政治競争は、宇宙探査を促進するための良い動機になったとは思います。私たちは、宇宙に進出し、自分たちの軍事力を強化し、国力の優位を証明しようと思いました。アメリカの議員が宇宙開発のための資金を集めるためには、私たちの勝利も必要だったと思います。何故なら、アメリカの有人月飛行計画は、ガガーリンによる有人飛行に対抗するかのように発表されたからです。アメリカは大国としての名声を復活させなければならなかったのです。
1960年代中頃にアメリカで行われた宇宙開発に関する討議の記録を見ると、20世紀の終わり頃には月面基地や火星基地が建設され、運用されていると自信をもって予測していました。私たちもそう信じていました。しかし実現には至っていません。ですから、予測とは確実性のないことなのです。
ただ、あえて私の考えを申し上げるとすると、ロシアは現在の経済危機を乗り越えない限り、今後の宇宙開発の発展に遅れをとると思います。ロシアは膨大な科学技術の可能性を持ち、宇宙開発の研究も幅広く展開できる力を持っていますが、それらはすべて経済力に制約されています。ソ連崩壊以前、宇宙分野は、産業や経済とは別の分野として位置づけられていたように思います。しかし今日、宇宙産業は、アメリカを見ても分かる通り、多くの最先端技術と密接に関わっています。現在のロシア経済は、石油や天然ガスなどのエネルギービジネスに依存しており、最先端技術産業があまり育っていません。そうである限り、ロシアの宇宙産業の発展は非常に限られていると思います。
2003年10月に成功した中国の有人宇宙飛行についての私の考えですが、次のことを思い出さなければなりません。1955年に中華人民共和国の政府は我が国の政府に対して、長距離弾道ミサイルのロケット兵器の開発の技術援助を依頼しました。国家間の協定に従い、主任設計者のセルゲイ・コロリョフは中国側に、600キロの飛行距離をもつR-2ロケットの書類と技術情報を渡し、専門家グループを派遣しました。ロシア人の専門家は家族を連れて中国で生活し、長距離弾道ロケットの設計、生産技術の指導を行ったのです。中国はゼロから始め、非常にやる気がありました。
専門家の派遣から約3年後の1960年11月に、600キロを飛行する、初の中国製弾道ロケットの打ち上げが成功しました。しかし、数年後に両国間の政治的関係が冷たくなり、1967年から中国は自力でロケット開発を行うようになったのです。
ご存知の通り、ロケットというものは、宇宙開発のための基本的なものです。中国では、技術官僚、実はその多くは旧ソ連で勉強をしていましたが、彼らが権力の座に就いた時、現代科学の知識と宇宙ロケット技術で国民に貢献しようという新しい時代になりました。宇宙分野は国防を強めるだけでなく、その他の科学研究を発展させる技術開発のために役立てることができると分かったのです。
しかし、中国の指導者は、技術者にとても難しい課題を与えました。それは、旧ソ連とアメリカの過去の経験や失敗を細かく検討し、既に製品になったものを買うのではなく、知識を買い、それを基本として、自分たちだけの手で、中国にある材料を使って自国で作るという課題でした。そして、中国の技術者たちはこの課題を立派に実現したのです。
最初の中国産の長距離弾道ロケットの打ち上げから、中国の有人宇宙飛行まで43年間かかりました。旧ソ連ではその間の期間は13年間で、アメリカは14年間でした。これら両国は、既に産業大国になってから宇宙開発を始めましたが、中国が始めた当初は科学技術的に非常に遅れた国でした。それなのに、驚くほどの成功を収めたのです。産業、科学、技術の面で、中国は先進国に追いつきました。特に注目すべきことは、中国がアメリカや私たちと交流することなく、自分ですべて実現するという目標を持っていることです。今のテンポで開発を続ければ、15〜20年後に月面基地の建設を自力で行っているかもしれません。
その中国に対抗するという意味だけではありませんが、今、ロシアと日本は小規模な個別の交流をするのではなく、長期で大規模な共同計画をする必要があると私は思います。また、その計画が実現されることを期待しています。日本の高度技術分野、最先端分野、特に電子、制御工学などの非常に高い能力を活かし、それにロシアの有人飛行の経験をプラスすれば、地球規模のとても優れた宇宙開発ができます。
不思議なことに、共産主義である中国の指導者と、資本主義のアメリカの大統領が「宇宙を目指すのは自分自身のためであり、その探求によって生み出された知識や発見は新しい技術的進歩を生み出すであろう」と同じような内容の表明をしました。しかし、何故そう語るのがロシアと日本の指導者ではないのでしょうか。私たちの国の若い世代は、宇宙開発の場でチャレンジし、夢を実現するには相応しくないのでしょうか。
私の考えでは、今のロシアと日本の指導者は、宇宙分野で成功を収めることが、社会や国民の独特な精神的高揚を生むことを考慮に入れた方が良いと思います。有人飛行を成功させた中国にもその例が見られました。以前、私たちの国でもガガーリンによる初の有人宇宙飛行成功後や、アメリカのアポロ11号による初の有人月面着陸の後もそうでした。国民の気持ちが1つになったと思います。ですから、宇宙分野での成功は、技術発展の源だけでなく、人々の精神的団結の源でもあると私は思っています。