Q. 日本の宇宙開発の最近の失敗については、どのようにお考えですか?
どういう理由で失敗をしたのか私には分かりませんが、私たちの失敗とアメリカの失敗を分析した経験では、ほとんどのケースで地上テストの確実性が問題になりました。地上でのテストが十分に重視されていなかったということです。地上にいる時にできるだけ多くの費用を使い、すべての過程をシミュレーション、テストしなければなりません。私たちの失敗の大部分の理由は、地上テストの資金を節約し、急いで進めたことです。宇宙ロケット技術の場合は、地上段階での資金を節約してはいけません。スケジュールを変更しても遅れても構いませんから、すべて確実にやらなければならないと思います。
ここ一連の日本の失敗は、今後の日本の宇宙開発を見直す良いきっかけではないでしょうか。何故なら、日本が有人宇宙飛行できる第4の国になるチャンスがあるからです。2003年初めに起きたアメリカのコロンビア事故の後、国際宇宙ステーションの存続は完全にロシアの宇宙輸送システムによって維持されています。これらソユーズ宇宙船とプログレス補給船の開発には私も携わりましたが、その信頼性に私は確信を持っています。
今、ロシアは、宇宙飛行士や国際宇宙ステーションの存続に必要な物資を、軌道上に輸送する技術を世界で唯一持つ国です。しかし、残念なことに、ロシアは長引く経済危機の解決ができず、自分たちの力だけでは、国際宇宙ステーションの発展と維持のための資金を出すことができません。とても足りないのです。
もし、日本が国際宇宙ステーションへの有人飛行と貨物輸送飛行の回数を増やすために、ロシアへ経済支援と技術支援を行えば、2つのことを実現することができます。
その1つは、日本・ロシアの共同ミッションによるソユーズ宇宙船で、日本の宇宙飛行士を国際宇宙ステーションに送ることができます。また、ソユーズ宇宙船の技術をベースに日本の技術を参加させて、より確実な新しい改良型ソユーズ宇宙船を作ることもできます。私たちは初の有人宇宙船ウォストークを、ゼロから2年間で開発しましたが、その経験を活かせば早急に実現することができ、日本はロシア、アメリカ、中国に次ぐ有人飛行を実現できる第4の国となるのです。
また、それによって、アメリカ、ロシアと並んで、国際宇宙ステーションの活動を維持するための、宇宙飛行士の派遣や物資の輸送ができるようになります。それは、日本の宇宙開発を今後より発展させるための大きな勉強となるでしょう。この経験によって、独自の宇宙開発能力や信頼性も高くなると思います。
更に、私は将来の世代のために、ソユーズ宇宙船だけでなく、月面基地の共同建設も日本に提案します。
私は10年前に日本製のテレビを買い、今も使っています。そのテレビが映らなくなった時に私は修理屋を呼びましたが、彼が拳でテレビをたたくと突然映像が出たのです。そこで101ルーブルを要求した修理屋に、私は「拳を一度たたいただけでこんなに要求してはいけない」と怒って言いました。すると彼は「拳でたたいた代金は1ルーブルだけです。たたく場所が正確に分かった知識への代金が100ルーブルです」と答えました。
これは冗談ですが、闇雲に開発するよりも、これまでの知識や経験を有効活用するということは、決して悪いことではないと思います。
Q. 先程おっしゃった日露共同のソユーズ宇宙船の開発を、どのようにして実現できるとお考えですか?
両国の政治的合意があれば、すぐにでも学者と技術者が1つのテーブルに集まって打ち合わせすることができます。あくまでも私の考えですが、もし私が日本の宇宙機関のトップであれば、まず日本人の技術者をロシアで働かせて技術の勉強をさせます。それと平行して、プログレス補給船の製造を始めることを提案します。それを日本で作るか、または合弁企業を設立して作るかは、どちらの方が有利かを考えて決めればよいと思います。それよりも重要なのは、機械ではなく、人、専門家が何をどうやって作るかを理解することです。
私はいろいろな事故究明委員会の責任者になったことがあります。事故の原因究明をした時に、ほとんどの場合、科学や技術の問題ではなく、お互いの理解が不十分であった「人」に問題がありました。ですから大事なことは、ロシア人と日本人が理解し合うことです。日本の技術のレベルがあれば、私たちが持つ技術の習得はそんなに難しくないはずです。
一方で、国家間の技術協力は、科学や技術の問題よりも、政治的な問題が大きな影響を与えます。その問題が解決されれば、共同で作った日露ソユーズ宇宙船で、日本とロシアによる共同飛行が可能になるでしょう。共同で開発を行えば、数年後には日本人による国際宇宙ステーションへの飛行が実現できるようになると思いますが、もしも日本が独自で行えば、中国の経験からいっても最低15年はかかると思います。
しかし、これは私たちではなく、まずは日本人が、宇宙開発で何が必要なのかを考え、その課題を解決するために、ロシアの協力を依頼するのかどうかという方針を決めなければなりません。日本人は才能があり、知識のある学者は大勢いると思います。自分自身で、今後の日本の宇宙開発をどうすればよいかを決定できると私は信じています。
私が今言えることは、ソユーズ宇宙船の日露共同開発が可能であるということだけです。現在のソユーズ宇宙船は、たくさんの荷物を運ばなければならない関係で3人乗りですが、将来的には新しい宇宙船を開発し6人乗りくらいまで搭乗員を増やす予定です。
一方で、ヨーロッパは私たちの協力によって、国際宇宙ステーション用の補給船の開発を行っています。プログレス補給船を参考にして、ヨーロッパ独自のものを作っていますが、作業はあまり進んでいません。
アメリカは2014年までに新しいロケット・宇宙船を開発する計画を発表しましたが、日露共同宇宙船がそれよりも先に実現すればよいと期待しています。