Q. 環境対策において、どのような仕事をなさっていますか?
地理情報システム(GIS)と衛星リモートセンシング技術を使って、ベトナムの森林管理と保護を行う仕事をしています。具体的には、NASAの地球観測衛星、TerraやAquaに搭載された光学センサMODISと、アメリカ海洋大気庁の気象観測衛星NOAAの観測画像を受信する地上局の管理をはじめ、それらの衛星の観測画像やベトナム水文気象局からのデータをもとに、森林火災の危険予測と早期発見のための情報を配信するウェブサイトの運営を行っています。また、MODISやNOAAのデータだけでなく、アメリカの地球資源衛星LANDSATのデータを用いた森林地図や植生指標図なども使い、森林変化のモニタリングを行っています。

ハノイで起きた洪水の様子(提供:ベトナム農業農村開発省)
Q. 現在ベトナムが抱える環境問題はどのようなことでしょうか?
ベトナムは、世界の多くの国と同様に、洪水や地滑り、水や大気汚染、重油汚染など、地球温暖化や気候変動によるものだけでなく、経済成長による開発がもたらしたものなど、さまざまな環境問題を抱えています。私たちは、それらの問題を監視し、解決するために、人員強化や技術開発を進めるほか、国際協力による取り組みも行っています。例えば、メコン地域における国境を越えた越境煙霧(ヘイズ)汚染については、東南アジア諸国連合(ASEAN)で協定を結び、問題を解決するために国際協力で取り組んでいます。
Q. 昨年、SAFEプロジェクトの試験システムがベトナムで作られたそうですが、それはどのようなシステムですか?そのシステムによって効果が出てきていますか?
NASAの地球観測衛星に搭載された光学センサMODISやJAXAの陸域観測技術衛星「だいち」、フランスの地球観測衛星SPOTの観測画像を用いた森林資源管理の試験システムが、昨年、私たちの組織で稼動し始めました。システムの構築と運用においては、JAXAと東京大学生産技術研究所に強力な支援をしていただいています。
このシステムによって、ベトナムの森林資源モニタリングの精度はとても向上しました。森林管理のための衛星データの処理能力をさらに上げるため、今年の夏に東京大学を訪れて、新しい方法を勉強する予定です。
Q. SAFEプロジェクトによって、ベトナムでの環境対策がどのように変わると思いますか?

ベトナムでのSAFEプロジェクト関連会議の様子(提供:ベトナム農業農村開発省)
SAFEプロジェクトは、試験システム(プロトタイプ)の実施、技術支援、データ提供という役割を持つ3つの機関が密接に協力しながら進めています。より良い環境づくりを目指して、いくつかの機関が連携をとるという、SAFEプロジェクトの取り組みは素晴らしいと思います。
昨年行われたSAFEプロジェクトに関するトレーニングにおいて、私たちは、リモートセンシング技術を用いてどのように森林資源管理を行うかを学びました。森林火災や伐採によって森林の変化を見つけるということだけでなく、現在の森林の状態をどう知るかについて、集中的に教わりました。そして、この時に得た知識を、洪水の監視など他の問題を解決するためにも広げることができました。SAFEプロジェクトに参加したことにより、ベトナムのさまざまな環境対策に貢献できるのではと思います。
Q. 自然災害を監視する「センチネル・アジア」の活動について、どう思われますか?
私は2006年に、ハノイで行われた「センチネル・アジア」に関するJAXAの会合に参加し、このプロジェクトは、津波などいくつかの自然災害が多いアジア地域にとても役に立つと実感しました。アジアには数十億人が住んでおり、私たちは自然災害の被害に直面しています。そして、実際に「センチネル・アジア」はとても成功していると思います。アジア地域の多くの組織が参加したこと、また、ウェブサイトで災害情報を迅速に提供する仕組みを構築したことが、成功に結びついたのだと思います。
Q. 衛星を災害や環境問題対策に活用することについて、どう思われますか?
衛星を使えばすぐに災害の状況を知ることができますし、一度に広い範囲を見ることもできます。迅速に対応し、広い領域を把握することは、災害や環境問題に関して早期に対策をとるために重要です。アジア太平洋地域だけでなく世界の他の地域にとっても、衛星を活用することは、災害や環境対策を実行するために最も適した方法だと思います。
Q. ベトナムではどのような宇宙利用が進められているのでしょうか?また、今後はどのようなことが期待されていますか?
ベトナムには、宇宙を利用する2つの大きな政府機関があります。天然資源環境省と、私が所属する農業農村開発省です。私たちは、主に土地利用、天候予測、森林火災の監視をするために衛星データを利用してきました。
これからは、林業、農業、水産養殖、水資源の管理などの分野と同様に、災害や環境管理のために宇宙をもっと利用したいと思います。そのためにも、人材育成(キャパシティ・ビルディング)を実施し、また、JAXAやほかの関係機関からのサポートを引き続き期待したいと思います。
Q. アジアの宇宙機関が連携を強めることについてどう思われますか?
アジアの宇宙機関が連携を強めることで、私たちはリモートセンシング技術に関する多くの知識を得ることができますし、いろいろな経験をすることができました。ですから、アジアが連携を強めることは重要であり、私たちの生活に直接、役に立つことだと思います。
Q. 今後JAXAに期待することは何でしょうか?
これまでのJAXAの協力には感謝しています。その協力によって、リモートセンシング技術の構築において、私たちは成功をおさめることができました。今後も親密な協力体制を続け、お互いにメリットのある取り組みを行っていきたいと思います。