Q. JAXAの国際展開の中で、アジアはどのような位置づけなのでしょうか? JAXAはなぜアジアを重視しているのでしょうか?
JAXAが掲げる長期ビジョンには、「宇宙航空技術を活用することで、安全で豊かな社会に貢献する」という大方針があり、アジアについては、自然災害など地域の問題解決に宇宙技術を使ったシステムを実現、展開していくというビジョンが設定されています。
地球観測には、災害管理支援システムと地球環境観測予測システムという、2つの大きな柱がありますが、私たちの安全安心な社会をつくるために、アジア諸国との連携が欠かせません。気候変動などの地球環境問題にしても、産業経済にしても、アジア諸国は日本にとって、言わずもがな、隣国・隣人であり、密接に関係していますから、そういう意味でアジアは重要な地域だと思います。
また日本は、アジア地域における宇宙の先駆者として、気象衛星「ひまわり」の衛星情報をアジア太平洋地域30数ヵ国の防災に役立てるなど、貢献してきました。ですから、今後もアジアにおける宇宙先進国として、 JAXAがリーダーシップを発揮していくことが必要だと思います。「宇宙外交の推進」は、この6月に定められた「宇宙基本計画」にも国の方針として明記されていますので、JAXAはその方針に従ってシステムや衛星の開発利用を行い、アジアとの連携をさらに発展させていきたいと思います。
Q. APRSAFとは、どのような取り組みですか? なぜ、ASRSAFを設立したのでしょうか?
APRSAFは「Asia-Pacific Regional Space Agency Forum:アジア太平洋地域宇宙機関会議」の略で、アジアの宇宙機関が集まって、宇宙技術の開発と利用の協力を推進するという国際的な会合です。宇宙利用を進めるためには、宇宙機関だけではなく、利用機関やアジア各国の政府機関などの協力も必要ですので、そういった方々にも参加していただき、宇宙技術やその利用について議論して、進めています。
APRSAFは1993年に設立され、これまでに15回、ほぼ一年に一回のペースで、開催されています。1992年の「国際宇宙年」では、アジア太平洋地域で宇宙関係の会合が開催され、そこで、アジアが協力する枠組みを作るべきだという意見が多く出ました。そこで、国際宇宙年でアジア地域のイニシアチブをとっていた日本が中心となってAPRSAFを設立しました。当時はアジア各国で宇宙機関が発足し、宇宙開発への取り組みが始まった頃でした。その中で、アジア太平洋地域の国々が協力して一つになり、平和目的のために宇宙技術の発展と利用を推進するというのが、APRSAF設立の目的です。
Q. APRSAFを15回続けてきて、メンバーは増えていますか? また、メンバーの宇宙開発、宇宙利用に対する意識は変わってきていますか?

第15回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF-15)はベトナムで開催(提供:APRSAF)
APRSAFは自主的な参加による会合ですから、国連のような決まったメンバーや、あるいは、会員制度というのはありません。宇宙機関のほか、主な利用機関や産業界などにも声をかけていますので、参加機関は確実に増えていると思います。昨年の12月にベトナムで開催された第15回APRSAFでは、20ヵ国から、200人以上の関係者が集まりました。最近は、この宇宙を通じたアジアの国際協力平和活動をアジア各国の政治家や国際協力機関にもご理解、ご支援してもらえるように、参加を呼びかけていますので、そういう点でも活性化してきていると思います。
また、参加者たちの意識も変わってきていると思います。やはり、宇宙技術を自分たちの地域の問題解決に役立てたいという期待感が大きいのと、実際に、「センチネル・アジア」による地球観測衛星の画像が災害時に役立つという協力の成果が出てきましたので、宇宙利用のメリットを実感する方たちが増えてきました。そして、宇宙を利用することによって実際に利益を受けた機関が、積極的に参加してきています。
実は、APRSAFが設立されてからの最初の10年間は、各国の技術者を中心とした宇宙開発に関する情報交換が主な取り組みで、その意味では、宇宙の平和利用のための技術者の交流という一定の成果は得ていたのですが、2003年頃から、APRSAFとして何か、アジアの宇宙機関が協力して具体的な宇宙利用の成果を出していこうと、プロジェクト型に切り替えることになりました。そして2006年に、アジア太平洋地域の自然災害の監視を目的とした、「センチネル・アジア」という国際協力プロジェクトを発足させたのです。このような方向転換を行った結果、参加者の意識がより具体的な成果を求めるように変わってきていると思います。
Q. ASRSAFのメンバー国から、日本のどのようなことに期待が持たれているのでしょうか?
日本が期待されているのは、利用の観点からいうと、やはり災害監視です。日本は、「だいち」のような、最先端の地球観測衛星をもっているので、災害が起きたときの緊急観測やデータの提供など、災害監視に対する協力への期待は非常に大きいと思います。次に、環境監視の必要性も徐々に高まっています。日本は、今年1月に温室効果ガス観測衛星「いぶき」を打ち上げました。また、宇宙の技術、特に小型衛星を持ちたいというニーズがあり、そのための技術者の人材育成をしてほしいという要望があります。