Q. ASTRO-Gはどのような衛星でしょうか?
電波望遠鏡を搭載したASTRO-Gは、天体が出す電波をとらえる衛星です。スペースVLBIという技術を使い、史上最高の空間分解能で銀河や星などを詳細に調べます。
スペースVLBIとは、宇宙の電波天文衛星と、地上にある複数の電波望遠鏡が協力して天体観測を行う技術で、1997年に打ち上げられた電波天文衛星「はるか」によって初めて実証されました。VLBI (Very Long Baseline Interferometry:超長基線干渉計)とは、地上の複数のアンテナで受信した信号を磁気テープに記録し、それぞれのデータを1ヵ所に集めて相関器で再生し、干渉させて画像を出す技術です。スペースVLBIは、衛星と地上のアンテナを組み合わせることによって、仮想的な巨大アンテナを作ります。例えば、100km離れた2つの望遠鏡が協力して観測をすると、直径(口径)100kmの望遠鏡を使った場合と同じくらいの観測結果が得られます。望遠鏡の間の距離のことを「基線」といいますが、基線が離れているほど、分解能が高くなります。これは、電波望遠鏡のアンテナの直径が大きいほど分解能が高いという原理と同じです。ASTRO-Gは、日本国内だけでなく世界中の電波望遠鏡と協力し、地球の直径よりも長い、直径35,000kmの仮想アンテナを構築し、40μm(マイクロメートル)秒の角度分解能を実現します。この分解能を例えると、地球から月を見たときに、月面にある球の大きさが、ソフトボールかピンポン球かの違いが分かるほどです。ASTRO-Gは、人類史上最高の分解能を持つ電波天文衛星なのです。
Q.主に何を観測するのでしょうか?
活動銀河核です。銀河のなかには、その中心で激しい活動をおこしているものがあり、このような天体を「活動銀河核」と呼んでいます。その中心には、太陽の何百万倍以上もの質量がある見えない天体、ブラックホールが存在し、その周りではいろいろな現象が起きています。例えば、100万光年以上の長さをもつ高エネルギーのジェットが噴き出ています。このジェットはどのように生成され、加速をするのか? また、ガスや塵などの物質が回転しながらブラックホールに吸い込まれていきますが、その際に、円盤状のもの(降着円盤)がブラックホール周辺にできます。その降着円盤はどのような構造をしているのでしょうか。実際はどうなっているのかを、降着円盤の構造や大きさなどを調べて明らかにします。ASTRO-Gは活動銀河核を直接撮像できますので、多くの謎を解明できると思います。
天体の中には、「メーザー輝線」という強い電波を発するものがあります。それが非常に明るく光りますので、これを基に、星がどう運動しているかを調べることができます。ASTRO-Gは、水蒸気のメーザー輝線を観測し、星形成のメカニズムに迫ります。また、私たちが住む銀河系の外に存在する銀河、系外銀河の中心核には、メガメーザーと呼ばれる非常に強いメーザー輝線が存在します。ASTRO-Gは、何百万光年先の系外銀河の水蒸気メガメーザーを観測し、活動銀河核の質量や温度、密度、ブラックホールへの質量降着率などを調べます。さらに、誕生初期の恒星(原始星)の磁気圏で見られるフレア爆発など、活動銀河核以外のさまざまな天体現象も高感度で観測する予定です。
Q.1997年に打ち上げた電波天文衛星「はるか」ではどのような成果が得られ、それを今回のASTRO-Gでどのように発展させていくのでしょうか?
「はるか」は、国際共同によるVSOP計画の中心として、スペースVLBI観測の技術を実証するために開発された工学実験衛星です。VSOPとは、VLBI Space Observatory Programme(VLBI技術による人工衛星天文台計画)の略です。「はるか」は、宇宙空間での大型アンテナの展開や、 VLBI干渉技術などの実験を成功させ、史上初のスペースVLBI観測衛星となりました。
「はるか」による大きな成果は、活動銀河核のジェット、その中でも最も活動的な「クェーサー」の撮像を行い、ブラックホールの周りの磁場の様子を明らかにしたこと、また、プラズマの円盤が存在することなどを発見したことです。しかし、それは一部分が見えたに過ぎず、その詳細な構造までは分かっていません。VSOP-2計画に位置づけされるASTRO-Gでは、「はるか」で確立した技術をさらに発展させ、活動銀河の中心を詳細に調べます。ASTRO-Gは「はるか」の10倍の分解能で、天体の磁場構造の観測を本格的に行う予定です。中心核からジェットが吹き出るには、磁場が大きく関係していると考えられますので、磁場の構造を知ることは、ジェットがどうしてできるのかを解明する手がかりになるはずです。