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次期X線天文衛星ASTRO-H 宇宙の謎への挑戦 X線で見るダイナミックな激しい宇宙 X線天文衛星ASTRO-H プロジェクトマネージャ 高橋忠幸

新しい目で宇宙の謎を解く

隠された宇宙の法則を見つけたい

異分野への展開で信頼性を高める

X線で始まった日本の天文学

国際プロジェクトでASTRO-Hを実現へ

高いエネルギーの現象が面白い

新しい目で宇宙の謎を解く

Q. X線天文衛星ASTRO-Hの目的は何でしょうか?

次期X線天文衛星ASTRO-H
次期X線天文衛星ASTRO-H
よりエネルギーが高い波長域での撮影を可能にする硬X線イメージャ
よりエネルギーが高い波長域での撮影を可能にする硬X線イメージャ
エネルギー分解能が非常に高いマイクロカロリメーター
エネルギー分解能が非常に高いマイクロカロリメーター

ASTRO-Hは、銀河団の中にある高温ガスや、ブラックホールのごく近傍、超新星の爆発した跡などの、宇宙で極めて活動の激しい場所をX線で観測します。X線は、温度が数百万度から数億度という非常に高温のものから出る光です。最近の研究によれば、私たちが観測できる宇宙の物質の80%〜90%は高温の状態にあり、X線でしか見ることができません。宇宙は私たちが目(可視光)では見ることのできない光、X線で満ちているのです。
宇宙では、銀河どうしが衝突や合体を起こしたり、寿命を迎えた星が大爆発を起こすなど、非常に激しい活動現象が見られます。ASTRO-Hはそのような激しい世界をかつてない分解能で見るために、特別に開発されました。これまでにない高性能の観測装置で、今まではっきり見えなかったもの、きっとこうなるに違いないと考えていたものを実際に測定します。
銀河団とは、数100個もの銀河が暗黒物質に引き寄せられてしまったものです。ASTRO-Hは、その銀河団の中で毎秒数百kmもの速度で渦巻いていると言われる超高温のガスの速度を実測できるだけでなく、どんな重元素が、どのような状態で存在をしているかまで分かります。例えば、宇宙の高エネルギー現象では鉄がイオン化していますが、その結果放射される輝線の微細構造までが分かるのです。ASATRO-Hは、まだ誰も知らない宇宙を私たちに見せてくれるはずです。

Q. ASTRO-Hの最大の売りは何でしょうか?

一言で言うと、宇宙のダイナミックな運動を見ることができることです。それに、これまで厚いガスで隠れていた、生まれたての銀河の中心にある巨大ブラックホールも見つけることができます。ASTRO-Hによって、宇宙の構造や進化の謎を解明する手がかりがつかめるのです。
それを実現するために、世界一のものを作るという思いで観測機器の開発を進めています。一般には、衛星に搭載する観測機器は地上で実績のある検出器を応用するというのが普通ですが、ASTRO-Hでは、最先端の機器を最初に宇宙で使う事を念頭に置いて開発をしています。また通常、観測装置の性能が1桁向上すると新しい世界が見られると言われていますが、ASTRO-Hの観測装置はこうした桁違いに高性能なものばかりです。地上の実験でも使ったことがないような最新鋭の観測機器、つまり、全く新しい目で宇宙の謎を解きたいと思います。

隠された宇宙の法則を見つけたい

Q. 先生がASTRO-Hを用いて特に研究したいことは何でしょうか?

X線で見たM82銀河。銀河の中心にはブラックホールが存在する。X線のエネルギーが高い順に青、緑、赤で示す。(提供:NASA/SAO/G.Fabbiano et al.)
X線で見たM82銀河。銀河の中心にはブラックホールが存在する。X線のエネルギーが高い順に青、緑、赤で示す。(提供:NASA/SAO/G.Fabbiano et al.)

私が面白いと思うのは、宇宙のダイナミクスです。どのようにして宇宙の中でエネルギーの集中がおこり、宇宙線が超高エネルギーにまで加速されていくのか、それが今の宇宙の形成にどう影響を与えるのか、その仕組みを知りたいです。また、宇宙の歴史の中でブラックホールが、銀河の形成にどのような影響を与えているかを明らかにしたいと思います。
銀河の真ん中には巨大なブラックホールがありますが、そのブラックホールの質量と銀河の質量は相関関係にあることが分かってきました。どうやら、ブラックホールと銀河が一緒に成長する、つまり共進化するような仕組みがあるのです。また、銀河が集まる銀河団についても、巨大なブラックホールが何かしらの影響を与えているようです。ブラックホールは物を吸い込むだけでなく、落ちきれなかった物質やエネルギーが外に向かって放出されていますが、そのエネルギーが銀河や銀河団の形成に影響を与えていると言うのです。最近では暗黒物質と暗黒エネルギーが、宇宙の歴史の中で銀河や銀河団の形成を通じて、宇宙の構造を形づくる役目を担っていると言われています。ダイナミックな宇宙の「反応」を探ることで、そこに隠された基本的な法則をぜひ見つけたいと思います。

異分野への展開で信頼性を高める

Q. ASTRO-Hはどのような計画で開発が進められていますか?

かに星雲。1054年に爆発をした星の名残。超新星爆発など宇宙の激しい活動を見る観測機器が、地上の生活に応用される。(提供:X-ray: NASA/CXC/ASU/J.Hester et al.; Optical: NASA/ESA/ASU/J.Hester & A.Loll; Infrared: NASA/JPL-Caltech/Univ. Minn./R.Gehrz)
かに星雲。1054年に爆発をした星の名残。超新星爆発など宇宙の激しい活動を見る観測機器が、地上の生活に応用される。(提供:X-ray: NASA/CXC/ASU/J.Hester et al.; Optical: NASA/ESA/ASU/J.Hester & A.Loll; Infrared: NASA/JPL-Caltech/Univ. Minn./R.Gehrz)

2013年度(※)の打ち上げを予定し、現在は詳細設計の段階にあります。開発は順調に進んでいます。しかし先ほどお話したように、最新鋭の機器ばかり搭載しますので、打ち上げ前にあらゆる手段を用いた実証試験が必要です。開発の過程では、上空40km近くまで上昇できる大気球に観測機器を載せた試験も行ってきました。これからもたくさんの試験が予定されています。ちょっとした間違いも見逃すことはできません。
実は、ASTRO-Hの軟ガンマ線観測用のガンマ線カメラを、医療診断や治療、あるいはガンマ線源の可視化による放射線モニターなどに活用しようと、現在、さまざまな研究者と共同研究を行っています。このカメラを使えば、どこにガンがあるか1回の健診で分かる可能性があるのです。どこからガンマ線がやってくるか、その方向と強度や分布を正確に知る事も可能です。
このような実社会への応用というのも、実証の1つです。宇宙用の機器を製造する際に大量生産のプロセスを応用できれば、信頼性が向上しますからね。
(※ 2011年4月時点)

Q. 2005年に打ち上げたX線天文衛星「すざく」は、X線微小熱量計が使用不能になりました。このときに得た教訓はどう活かしているのでしょうか?

「すざく」だけではなく、過去の衛星の失敗は原因をすべて精査し、2度と誤りを起こさない態勢をとっています。「すざく」の場合は、マイクロカロリメーター(微小熱量計)の冷却用液体へリウムが、打ち上げ後に思わぬ条件下で蒸発してしまい観測できませんでした。ASTRO-Hにもマイクロカロリメーターを搭載しますが、ヘリウムが蒸発しないように、また例えヘリウムがなくなっても、ちゃんと観測ができるように、より信頼性の高い設計に改めています。
また、自分たちだけで検討するのではなく、経験の豊富な国内や海外の研究者にも、助言を受けるようにしています。宇宙関係ばかりでなく、素粒子実験や低温実験などいろいろな分野の専門家たちを集めていますが、彼らから素直に学ぶよう心がけていますね。「ここはきっと大丈夫」という思い込みを捨て、とにかくみんなで緊張感を持ってやるよう心がけています。

  
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