Q. ASTRO-Hはどのような計画で開発が進められていますか?

かに星雲。1054年に爆発をした星の名残。超新星爆発など宇宙の激しい活動を見る観測機器が、地上の生活に応用される。(提供:X-ray: NASA/CXC/ASU/J.Hester et al.; Optical: NASA/ESA/ASU/J.Hester & A.Loll; Infrared: NASA/JPL-Caltech/Univ. Minn./R.Gehrz)
2013年度(※)の打ち上げを予定し、現在は詳細設計の段階にあります。開発は順調に進んでいます。しかし先ほどお話したように、最新鋭の機器ばかり搭載しますので、打ち上げ前にあらゆる手段を用いた実証試験が必要です。開発の過程では、上空40km近くまで上昇できる大気球に観測機器を載せた試験も行ってきました。これからもたくさんの試験が予定されています。ちょっとした間違いも見逃すことはできません。
実は、ASTRO-Hの軟ガンマ線観測用のガンマ線カメラを、医療診断や治療、あるいはガンマ線源の可視化による放射線モニターなどに活用しようと、現在、さまざまな研究者と共同研究を行っています。このカメラを使えば、どこにガンがあるか1回の健診で分かる可能性があるのです。どこからガンマ線がやってくるか、その方向と強度や分布を正確に知る事も可能です。
このような実社会への応用というのも、実証の1つです。宇宙用の機器を製造する際に大量生産のプロセスを応用できれば、信頼性が向上しますからね。
(※ 2011年4月時点)
Q. 2005年に打ち上げたX線天文衛星「すざく」は、X線微小熱量計が使用不能になりました。このときに得た教訓はどう活かしているのでしょうか?
「すざく」だけではなく、過去の衛星の失敗は原因をすべて精査し、2度と誤りを起こさない態勢をとっています。「すざく」の場合は、マイクロカロリメーター(微小熱量計)の冷却用液体へリウムが、打ち上げ後に思わぬ条件下で蒸発してしまい観測できませんでした。ASTRO-Hにもマイクロカロリメーターを搭載しますが、ヘリウムが蒸発しないように、また例えヘリウムがなくなっても、ちゃんと観測ができるように、より信頼性の高い設計に改めています。
また、自分たちだけで検討するのではなく、経験の豊富な国内や海外の研究者にも、助言を受けるようにしています。宇宙関係ばかりでなく、素粒子実験や低温実験などいろいろな分野の専門家たちを集めていますが、彼らから素直に学ぶよう心がけていますね。「ここはきっと大丈夫」という思い込みを捨て、とにかくみんなで緊張感を持ってやるよう心がけています。