Q. 大学や他の研究機関との協力体制はいかがでしょうか?

天の川銀河中心にある1千万度の「プラズマの川」(a)とその源流の「プラズマの湖」(b)。この場所は淡い構造のためX線の検出が難しいが、「すざく」の高い分解能により発見できた。(提供:Tsuru et al. PASJ, 61, S219-S223(2009))
JAXAの宇宙科学研究所を拠点として、全国の大学や研究機関だけでなく、米国やヨーロッパ、カナダなど海外の研究者が集まって大きな国際チームを結成しています。チームのメンバーがいろんな所で開発に貢献しているのです。ASTRO-Hは、打ち上げ後しばらくすると国際公募のフェーズに入り、誰でもが観測を提案することができるようになります。ASTRO-Hは、これまでのX線天文衛星にはない能力を持つばかりではなく、現在活躍中の海外のX線天文衛星が、ASTRO-Hの打ち上げの頃には寿命も迎えるということもあって、世界からの期待が高まっているのです。
日本はX線天文学の分野では、これまで5つのX線天文衛星を打ち上げ、その技術と観測実績があります。この分野で世界をリードしてきた強力なコミュニティーを持っているのです。宇宙論やブラックホールの研究者だけでなく、最先端の検出器を研究する人など、いろいろな人たちが一緒になって、ASTRO-Hの成功を目指して取り組んでいます。彼らの力がないとASTRO-Hは実現できません。ですから、これは単に日本のJAXAのプロジェクトではなく、世界の科学者が参加するみんなのプロジェクトなのです。
Q. 日本のX線天文衛星はどのような特徴がありますか?
アメリカが、低エネルギーのX線を用いて高い分解能の画像を撮ることに特化してきたのとは対照的に、日本は、高いエネルギーのX線を用いてエネルギー分解能を高くするという、異なるアプローチをとってきました。高解像度の画像を撮ることよりも、感度の高いスペクトル観測を行うことに重点を置いてきたのです。
X線で天体のきれいな画像を撮るためには、重くてよく磨かれた角度分解能の高い鏡が必要です。その技術はヨーロッパやアメリカが強かったんですね。それにそんな重い望遠鏡を載せることのできるような大きな衛星は、なかなか作れませんでした。そこで、日本は自分たちでも勝てる道を探したんです。規模が小さく、ほどほどの角度分解能であっても、より高いエネルギーのX線をとらえ、1つ1つのX線のエネルギーをより正確に測ることのできる望遠鏡や観測装置を作ることで、世界と勝負したのです。そしてその戦略は成功しました。日本は、コンパクトだけど挑戦的な検出器を載せ、独自のX線天文衛星を連続して打ち上げることによって、新しいサイエンスを常に切り開いてきたのです。
これまで日本はいくつかのX線天文衛星を打ち上げてきました。1979年には「はくちょう」を打ち上げ、1983年には「てんま」、1987年に「ぎんが」、1993年に「あすか」、そして2005年に打ち上げて現在でも観測を行っている「すざく」です。それぞれの衛星が非常に大きな成果を挙げていて、日本のX線天文衛星を用いた研究論文が「ネイチャー」や「サイエンス」などをはじめとした学術誌に数多く発表されています。