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次期X線天文衛星ASTRO-H 宇宙の謎への挑戦 宇宙の巨大加速器、超新星爆発の謎を解く スタンフォード大学・SLAC国立加速器研究所研究員 准教授 内山泰伸

温度がない宇宙を超広帯域でとらえる

重い星が最期を迎えるときの大爆発

宇宙と生命のつながりを解き明かす

X線だから見られる超新星残骸

宇宙線の起源は超新星爆発にある

宇宙は謎の宝庫である

温度がない宇宙を超広帯域でとらえる

Q. 先生が専門とされている研究は何でしょうか?

超新星爆発の想像図(提供:NASA/CXC/M.Weiss)
超新星爆発の想像図(提供:NASA/CXC/M.Weiss)

私が研究しているのは「宇宙の非熱的現象」です。地球上の全ての自然現象には温度がありますが、宇宙では温度という概念が成り立たない物質があらゆるところで見られます。温度というのはその物質の分子や原子の運動エネルギーであり、その運動エネルギーの大きさが熱エネルギーの大きさになる。運動が激しいほど温度が高くなりますが、宇宙では熱や温度に関する物理法則が成り立たない現象が見られます。それらを非熱的現象と言っています。つまり、何°Cという温度を定義できないものです。
例えば超新星爆発による衝撃波、ブラックホールのごく近くから放出される高速のジェットなどで、非熱的な粒子が発見されています。そして非熱的粒子は、地上では実現できないほどの非常に高いエネルギーにまで加速されます。しかし、その非熱的粒子がどのように作られ、加速されているかなど詳細はまだ分かっていません。

Q. X線天文衛星ASTRO-Hを使ってどのような研究をしたいですか?

ASTRO-Hの最大の特徴は、従来の数十倍のエネルギー分解能を持ち、超広帯域で観測できることです。超新星爆発の衝撃波に見られる非熱的粒子が、どのようなプラズマの中で高いエネルギーにまで加速されているのか、その運動状態を詳細に測定したいと思います。

重い星が最期を迎えるときの大爆発

Q. なぜ超新星爆発に興味を持ったのでしょうか?

超新星爆発から約330年経った超新星残骸「カシオペア座A」のX線画像。X線のエネルギーが高い順に青、緑、赤で示す。(提供:NASA/CXC/UMass Amherst/M.D.Stage et al.)
超新星爆発から約330年経った超新星残骸「カシオペア座A」のX線画像。X線のエネルギーが高い順に青、緑、赤で示す。(提供:NASA/CXC/UMass Amherst/M.D.Stage et al.)
ティコの超新星残骸のX線画像。 外縁に見える紫色の領域は衝撃波で、ここで高いエネルギーの非熱的粒子が加速されている。(提供: NASA/CXC/Rutgers/J. Warren & J. Hughes et al.)
ティコの超新星残骸のX線画像。 外縁に見える紫色の領域は衝撃波で、ここで高いエネルギーの非熱的粒子が加速されている。(提供: NASA/CXC/Rutgers/J. Warren & J. Hughes et al.)

超新星爆発によってできた粒子が、ものすごく高いエネルギーまで加速していることに興味を持ちました。私はエネルギーの高い現象に惹かれるんです。また、地上にあるもの全てに温度がありますが、超新星残骸には温度がない粒子がある。地上で全く見られない現象というのが、超新星爆発やその残骸の面白いところです。その非熱的な現象は偶然見られるのではなく、普遍的に宇宙のあらゆるところで見えていますので、何か非常に重要なことが隠されている可能性が高いと思います。それも魅力的です。
そして、超新星残骸の写真を見ると、とても綺麗で美しいというのも、私が興味を持った理由の1つですね。

Q. そもそも超新星爆発や超新星残骸とは何でしょうか?

超新星爆発は、星が最期を迎えて爆発する現象です。例として重い星を考えましょう。重いというのは、太陽の10倍以上の質量です。まず星は、宇宙空間にあるガスの雲が重力により引き寄せられ収縮してできます。そして星の中心では、水素ガスが燃焼してヘリウムに変わる核融合が起き、外向きの圧力が生まれます。その圧力と星の重力が釣り合っているからこそ、星はその形を保つことができます。また、星が輝くのも核融合反応によるものです。
やがて核融合は星の「芯」で鉄を合成するに至ります。ところが鉄より安定な原子核がないため、それ以上の核融合は起こりえず、誕生から100万年ほど経つと“鉄の光分解”という破滅が訪れます。「芯」の圧力は急激に低下し、重力に耐えられなくなった星は一気にガシャッと潰れ、その反動で大爆発を起こします。これが重い星の超新星爆発です。
超新星爆発の時にはものすごく大きなエネルギーが解放され、衝撃波が宇宙空間に広がります。超新星の爆発1回で、星が1000億個集まったほどの明るさで光ります。また、衝撃波からはX線やそれよりも高いエネルギーのガンマ線が放射されます。このような、星の大爆発によって生じる衝撃波を、超新星残骸と言います。超新星の爆発自体はほんの数秒ですが、超新星残骸は10万年以上、宇宙空間に存在します。

宇宙と生命のつながりを解き明かす

Q. 超新星爆発やその残骸を調べることで何が分かってくるのでしょうか?

超新星残骸G292.0+1.8。星は核融合が限界に達すると 、中心核で重力崩壊を起こして大爆発をする。そのとき宇宙に放出された重元素が生命の素となった。この残骸では酸素が非常に多く見られる。(提供:X-ray: NASA/CXC/Penn State/S.Park et al.; Optical: Pal.Obs. DSS)
超新星残骸G292.0+1.8。星は核融合が限界に達すると 、中心核で重力崩壊を起こして大爆発をする。そのとき宇宙に放出された重元素が生命の素となった。この残骸では酸素が非常に多く見られる。(提供:X-ray: NASA/CXC/Penn State/S.Park et al.; Optical: Pal.Obs. DSS)

宇宙がどのようにして現在の姿になったかという進化の道筋とともに、私たちの生命がどこから来たのかが分かってきます。実は私たちの身体を作っている元素の源は、超新星爆発にあるんです。超新星の爆発がなければ、生命は誕生しなかったでしょう。
今私たちの周りにある酸素や窒素など、鉄より軽いほとんどの元素は、星の中の核融合で作られたもので、それが星の大爆発で宇宙空間にばらまかれました。そして、それらがまた集まって、私たち地球や生命の素になったと考えられています。さらに、鉄より重い元素は、自然界にある最重のウランに至るまで、星が爆発する瞬間に作られて、宇宙空間にまき散らされた元素が多いことが分かっています。人類が特別な価値をおく「金」などもそうです。超新星残骸を調べることで、私たちの身の回りにある元素が、どこで、どのように作られたかを理解することができるのです。
また、超新星爆発は宇宙線の発生源と言われています。宇宙線とは、高速で宇宙空間を飛び交う高エネルギーの粒子です。超新星残骸からは、宇宙線の存在を示すX線や超高エネルギーのガンマ線が放射されています。衝撃波にある高エネルギーの粒子、つまり、非熱的な粒子こそが、宇宙線であるというのが有力な説です。宇宙線は私たちが住む地球にも降り注いでいますが、その発見から100年経っても、起源は分かっていません。また宇宙線は、星の形成にも重要な役割をしているという考えもあります。さらに、電池に使われるリチウムは宇宙空間で宇宙線が星間ガスと衝突して作られています。このように、全てがつながっています。ですから、超新星残骸についての理解が深まれば、これまで分からなかった宇宙や生命の謎が次々と解明されるかもしれません。これはとても興味深いことです。

  
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