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次期X線天文衛星ASTRO-H 宇宙の謎への挑戦

X線だから見られる超新星残骸

Q. 超新星残骸を調べるのにX線は有効的だと思いますか?

X線天文衛星チャンドラが観測した大マゼラン雲にある超新星残骸SNR 0540-69.3。中央で白く輝くのは高エネルギーの粒子。周囲に広がっているのは高温ガスで、直径40光年ほど。(提供:NASA/CXC/SAO)
X線天文衛星チャンドラが観測した大マゼラン雲にある超新星残骸SNR 0540-69.3。中央で白く輝くのは高エネルギーの粒子。周囲に広がっているのは高温ガスで、直径40光年ほど。(提供:NASA/CXC/SAO)

はい。さらに言うと、超新星残骸の本質に迫る観測はX線でこそできるのです。なぜなら、超新星残骸が1000万〜1億°Cという超高温の現象だからです。それほど高い温度のところで放射されるのはX線ですから、X線でしか観測できないのです。X線の特徴は超高温の世界を見られることです。また、超新星残骸では宇宙線が生成されている様子がはっきりと捉えられています。それもX線だから見ることができます。

Q. ASTRO-Hに最も期待することは何でしょうか?

ASTRO-Hにはこれまでにない技術を結集した観測機器を搭載しますので、それが予定通りに動けば、歴史に残る成果を出すのは確実です。宇宙の環境は地上と全く違いますので何が起こっても不思議ではありませんが、とにかく全ての機器を問題なく稼動させることが世界的にも期待されています。私個人としても、これは、強い願いですね。
X線天文学は1979年に打ち上げたX線天文衛星「はくちょう」に始まり、日本のお家芸と言われるほど多くの成果を上げてきました。ASTRO-Hはその集大成ともいえる衛星ですから、その実力を世界に示す最大のチャンスだと思います。

宇宙線の起源は超新星爆発にある

Q. 先生の研究のこれまでの代表的な成果を教えていただけますか?

超新星残骸 RX J1713.7-3946。右の画像は左の(b)(c)の拡大図。4桁の数字は観測年。黄色の矢印の先にあるX線は時間の経過とともに変化する。これは宇宙線が高エネルギーに加速されたことを示す。(提供:Uchiyama et al. Nature 2007)
超新星残骸 RX J1713.7-3946。右の画像は左の(b)(c)の拡大図。4桁の数字は観測年。黄色の矢印の先にあるX線は時間の経過とともに変化する。これは宇宙線が高エネルギーに加速されたことを示す。(提供:Uchiyama et al. Nature 2007)
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日本のX線天文衛星「すざく」とアメリカのX線天文衛星「チャンドラ」によって、超新星残骸の衝撃波を観測し、非熱的粒子が加速される瞬間を初めてとらえました。観測したのはさそり座の方向、約3000光年の距離にある超新星残骸RX J1713.7-3946です。この天体は、宇宙線の存在を示すX線や超高エネルギーのガンマ線を放射しているため、宇宙線と深く関係があるのではと考えられていました。
この超新星残骸の高エネルギー粒子の分布を1年ごとに調べたところ、2000年、2005年、2006年にとらえた画像に、時間の経過とともに変化するX線が見られました。この変化は、非熱的粒子が高いエネルギーにまで加速される経過を示しています。つまり、宇宙線の加速現場をとらえたのです。
また、宇宙線の主な成分は陽子ですが、これまでの超新星残骸の観測では電子しか見つかっていませんでした。ところが私たちは、超新星残骸の非熱的粒子が、宇宙線と同じ陽子によって作られていると論じました。これにより、宇宙線の起源が超新星爆発にあるという説がますます有力になったと思います。

Q. これまでの日本のX線天文衛星の成果で特に印象に残っていることは何でしょうか?

X線天文衛星「あすか」による観測で超新星残骸から非熱的粒子の存在が見つかり、その粒子が非常に高いエネルギーを持っていることが分かりました。この成果は世界的にも有名ですが、大学院生の時にこれを知って面白いと思い、今の私の研究につながっています。

宇宙は謎の宝庫である

Q. 先生は海外で研究をされてますが、海外の研究者はASTRO-Hをどう見ていますか?

内山先生

海外の研究者からの期待は非常に大きいです。それには事情があって、先ほど話題に出たアメリカの「チャンドラ」が打ち上がったのは1999年。同じ年にヨーロッパも「ニュートン」というX線天文衛星を打ち上げ、日本の「すざく」が打ち上がったのは2005年です。アメリカやヨーロッパの衛星は打ち上げから10年が経っていますので、次のミッションが必要なんですね。しかし世界的に見て、ASTRO-Hほど大きなX線天文のミッションは他にないんです。ですからみんなASTRO-Hを待ち望んでいますし、アメリカやヨーロッパの研究者たちもASTRO-Hの研究グループに入っています。X線を使う世界中の天文学者がASTRO-Hに期待をしているのです。

Q. 先生にとって天文学の魅力とは?

謎が尽きないところです。目の前に壮大な謎があるので、それを解きたいという気持ちです。超新星爆発や宇宙線については、まだまだ分かっていないことばかりで、しかもその不思議な現象は簡単には理解できなさそうです。ですから、この先かなり長い間、謎解きが楽しめるというのも魅力ですね。私にとって、宇宙は謎の宝庫なのです。

内山泰伸(うちやまやすのぶ)

スタンフォード大学・SLAC国立加速器研究所研究員 准教授。博士(理学)
1998年、東京大学理学部物理学科卒業。2003年、同大学大学院理学系研究科物理学科博士課程修了。同年、イェール大学物理学科研究員。2006年、JAXA宇宙科学研究所研究員。2008年からスタンフォード大学、SLAC国立加速器研究所にて、フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡を用いた研究などに従事。2003年、「非熱的X線放射の研究」における業績により宇宙線物理学奨励賞。2009年、「超新星残骸における粒子加速と宇宙線起源の研究」において、第21回日本天文学会研究奨励賞を受賞。

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