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新しい有人宇宙活動の時代へ 〜10年ぶりの日本人宇宙飛行士募集〜
宇宙で仕事をしたいという強い情熱 若田 光一 JAXA宇宙飛行士
「きぼう」日本実験棟が国際宇宙ステーションに取り付けられ、本格的な運用が始まり、日本人宇宙飛行士の活躍の場も益々拡がっていきます。限りない夢を与えてくれる宇宙のフロンティアを切り拓き、地球人として世界の人々に貢献できる仕事があなたを待っています。
Q.宇宙空間での宇宙飛行士の仕事とはどのようなものでしょうか?

「きぼう」船内保管室の取り付け準備を行うSTS-123の宇宙飛行士(提供:NASA)
「きぼう」船内保管室の取り付け準備を行うSTS-123の宇宙飛行士(提供:NASA)


宇宙空間で宇宙飛行士が行う仕事には様々なものがありますが、現在は、国際宇宙ステーション(ISS)の組立てや長期滞在におけるISS内での様々なシステムの運用や実験・観測などの作業が多くなっています。ISSの組立てには、ロボットアームを使ってISSの「モジュール」と呼ばれる区画を取り付ける作業、船外活動で様々な機器を取り付けたり、電気配線や熱制御システムの冷媒ホース等を接続したりする作業、取り付けられた新しいシステムを起動する作業などが含まれます。
そして、今まさにISSは「建設」の段階から本格的な「利用」の段階に入ろうとしています。例えば「きぼう」日本実験棟の場合、「船内実験室」と「船外実験プラットホーム」という大きな実験施設が宇宙にできるわけですが、「きぼう」の軌道上組立てが完成した後はそれらの実験施設を使った様々な実験や観測が軌道上で行われていきます。本格的な「きぼう」の利用の時代の幕開けです。
今後ISSでの日本人の長期滞在が次々に実現していきますが、将来的には、月面基地の建設や、惑星探査等へと有人宇宙活動の領域が展開されていく事が予想され、宇宙飛行士が担当する仕事の内容もさらに大きく広がっていく事になるでしょう。

Q.ミッションに任命されてから飛行するまでの間は、どのような訓練、生活をしているのでしょうか?

船外活動訓練の前の若田宇宙飛行士(右)と野口宇宙飛行士(左)
船外活動訓練の前の若田宇宙飛行士(右)と野口宇宙飛行士(左)

現在日本人宇宙飛行士が従事している宇宙飛行は大きく分けて2種類あります。スペースシャトルに搭乗してISSを組立てるための飛行と、ISSでの何ヶ月間にも渡る長期滞在飛行です。それぞれの宇宙飛行に向けた訓練の内容はかなり異なっています。先月、第1回目の「きぼう」組立てミッションでは土井隆雄宇宙飛行士が大活躍してくれましたし、目前に迫った第2回目の「きぼう」組立てミッションでも星出彰彦宇宙飛行士が素晴らしい仕事をしてくれるでしょう。
土井宇宙飛行士や星出宇宙飛行士が参加するスペースシャトルミッションによるISS組立て飛行の場合は、「きぼう」組立てのための訓練を筑波で実施する以外は、訓練のほとんどが、アメリカのヒューストンにあるNASAジョンソン宇宙センターで行われます。打ち上げの少なくとも1年くらい前にミッションに任命され、ヒューストンを中心にしてスペースシャトルの各システムやISSのロボットアーム、船外活動等を駆使して宇宙で行う組立作業に必要な訓練を行います。「きぼう」をISS側に取り付けた後の、「きぼう」の制御・データ系、電気系、熱・環境制御系などの装置類を起動する訓練などは、筑波とヒューストンの両方で行われます。
一方、ISS長期滞在の訓練の場合は、フライトの少なくても約2年前から本格的な訓練が始まります。ISSは、日本をはじめ、世界の15ヵ国が協力して進めているプロジェクトで、各国がそれぞれ実験室やシステムを開発してきました。長期滞在する宇宙飛行士はそれらすべてを操作・運用しなくてはならないので、実験室や構成要素を作った国が、責任を持って宇宙飛行士の訓練も行うという取り決めになっています。ですからISSに長期滞在する宇宙飛行士は、フライトまでの少なくても約2年間、日本、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、カナダのISS参加各国に実際に行って、それぞれの国が開発し運用しているシステム、宇宙船、実験装置等の訓練を行います。その中で、長い訓練期間が割り当てられているのが、多くのモジュールや宇宙往還システムを提供するアメリカとロシアです。

Q.普段の生活で、禁止されていることはあるのでしょうか?

普段の生活で、特段禁じられているものはありませんが、フライトの1年前からは、危険度の高い活動として、レース競技(自動車・ボート・航空機・オートバイ等)、スキー、スカイダイビング、消防活動への参加等が禁止されており、またフライトの8ヶ月前からは、野球、ソフトボール、バスケットボール等のスポーツ競技が禁止されています。いずれも宇宙飛行士の怪我等が原因で宇宙飛行が実施できなくなる事を避けるためのものです。

Q.ミッションに任命されていない宇宙飛行士はどのような仕事をしていますか?

「きぼう」運用管制室にて、STS-123クルーと交信して宇宙飛行を支援する山崎宇宙飛行士
「きぼう」運用管制室にて、STS-123クルーと交信して宇宙飛行を支援する山崎宇宙飛行士


実はミッションに任命されていない時の仕事の方が宇宙飛行士の仕事の大部分を占めていて、業務の内容も多岐に渡ります。例えば、地上のミッションコントロールセンターの管制チームの一員として、ISSやスペースシャトルに搭乗している宇宙飛行士と交信して、宇宙飛行の支援を行う「CAPCOM (キャプコム)」と呼ばれる仕事があります。また、スペースシャトルやISS、さらに米国の次世代宇宙船である「Orion」など様々な宇宙システムの開発に参加し、操作性評価試験等を通して実際の宇宙での運用経験を開発に生かしていくのも宇宙飛行士の重要な地上業務のひとつです。また、飛行中の宇宙飛行士の家族の支援をするのも仲間の宇宙飛行士の仕事です。フライトごとに家族支援の宇宙飛行士が任命され、宇宙に出張中の宇宙飛行士の家族と宇宙飛行士室との間の連絡係をしたり、打ち上げや着陸の際に家族の現地での支援もします。宇宙飛行や訓練の経験を持つ気心の知れた仲間が自分の家族を見守ってくれるのは、本当に心強く感じます。
私は、「きぼう」日本実験棟の様々なシステム、特にロボットアームと船外活動の開発に長い間参加してきました。実際にものづくりをなさっている技術者の方たちと一緒に開発会議に参加し、使い勝手がよいか、宇宙で問題なく安全かつ確実に操作できるかといったことを評価するためのシミュレーション等にもかなりの回数参加しました。
その他にも、ISSやスペースシャトルのシステムを運用していくための技術支援、訓練を支援する教官宇宙飛行士業務、また医学を専門とする宇宙飛行士が中心となって、宇宙飛行士が被験者となる医学実験の安全性検討を行う仕事等、様々な地上業務があります。

Q.国民の生活に密着した宇宙飛行士の活動の例として、どのようなものがあるでしょうか?

土井宇宙飛行士のSTS-123帰国報告会の様子
土井宇宙飛行士のSTS-123帰国報告会の様子

広報業務は、宇宙飛行士の仕事の中で、国民の皆さんと接する機会が非常に多い仕事だと思います。講演会や広報イベント、教育プログラム、メディア対応などの広報・普及活動を通して、宇宙科学、宇宙開発の素晴らしさ、楽しさをみなさんにお伝えすることは、国民生活に密着している宇宙飛行士の仕事の代表例です。
宇宙開発・探査全般を通して、日常生活に役に立つ新たな知見や様々な技術が生み出されてきています。それを「スピンオフ」と言っていますが、宇宙船をつくったり、宇宙飛行士が長期間にわたって宇宙で生活していくための技術開発や、私たちが宇宙で行う実験や観測の成果からは、実に多くのスピンオフの例を見ることができます。例えば、宇宙船をつくるために必要な、構造の強さを計算するコンピュータのプログラムは、船や電車、乗用車などの強度の設計にはもちろんのこと、私たちが毎日使う靴、特に、ジョギングシューズなどの設計などにも生かされています。また、JAXAでは28種類もの認定された宇宙日本食をISSに搭載する予定ですが、宇宙食の開発技術が、一般食品の安全性や、食品衛生の管理にも応用されています。ISSでは、限られた量の水を再利用しながら使っていく必要がありますが、その水の浄化技術も宇宙開発を通じて地上での日常生活を豊かにするために広がっていった技術の1つです。さらに、宇宙実験の成果が新たな医薬品の開発に貢献している例もあります。
「きぼう」日本実験棟が完成すると、日本人が長期滞在をする機会が増えますが、宇宙医学の分野でも、更に貴重なデータや技術が次々に得られてくる事になります。例えば、遠隔医療があげられます。私がISSに長期滞在する時には、アメリカ人、ロシア人と私の3名の宇宙飛行士が数ヵ月にわたって宇宙で仕事をしますが、その時に、地上にいる医師の支援の下で、宇宙飛行士の健康状態をチェックする機器やシステムが使われます。そういった機器は、災害時などに医師が離れた場所から患者さんを診断・治療するための遠隔医療の技術にも応用されて行きます。また、無重力の宇宙に長時間滞在すると、男性でも女性でも年齢にかかわらず骨の密度が低下し、骨がもろくなる現象が起きます。骨粗しょう症です。それを防ぐためにいろいろな研究が進められていますが、宇宙での骨粗しょう症発生のメカニズムを解明できれば、それを地上での医療にも活かせると思います。このように、宇宙飛行士が参加する有人宇宙活動からは、地上での日常生活に直接結びつく様々な成果がもたらされているのです。

  
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