
FJR710ファンジェットエンジン

低騒音STOL実験機「飛鳥」
Q. 航空プログラムグループではどのようなことをしているのですか?
日本の航空機産業の発展に貢献するために、要となるような先端技術の研究開発を行っています。旅客機の国産化に向けた技術、環境に適応したエンジンの技術、次世代超音速機の技術、航空機を安全に運航するための技術、気象観測や災害監視に役立つ無人機の技術など、先導的・基盤的なさまざまな技術を開発し、その成果を日本の航空産業全体に還元しています。可能性のある新しい技術の基礎的な研究を行い、その技術を成長させて確実なものにしてから民間に渡す、というのが私たちの役目です。
また、航空機技術の試験には大掛かりな設備が必要ですから、一企業ですべてを行うのは困難です。ですから、日本で唯一の大型試験設備を整備し、民間企業にも提供しています。さらに、私たちはコンピュータを利用した計算空気力学(CFD)などの解析技術や設計技術を得意としています。開発した解析ソフトは、民間の会社でも使えるようにしています。このように、官民が連携して研究開発を進めているのです。
私たちが基盤技術を開発し、民間に技術移転した例としては、FJR710ファンジェットエンジンや、炭素繊維複合材を使った航空機製造技術などがあります。FJR710は1971年から旧航空宇宙技術研究所(現JAXA)で開発が行われ、その技術は国際的にも高く評価されました。その結果、5カ国(米国、英国、ドイツ、イタリア、日本)共同開発エンジン V2500へと発展しました。 V2500はエアバスやボーイングなど多くの機体に搭載され、世界70以上のエアラインで運航中です。戦後一切の航空機の開発・製造を禁止され、世界から大きく遅れをとった日本の航空機産業を盛り上げたパイオニア的存在といってもよいでしょう。V2500の基になったFJR710は、機械学会の創立110周年記念事業として創設した「機械遺産」にも認定されています。一方、炭素繊維複合材を航空機の尾翼に使用することが計画された「飛鳥」は、1985年に初飛行に成功しました。炭素繊維とは、軽くて強い素材で、スポーツ用品や釣り竿などさまざまな用途に使用されています。残念ながら「飛鳥」の機体は売れませんでしたが、炭素繊維を航空機の複合材料に使用していく技術は、2008年に初飛行が予定されている「ボーイング787」という最新航空機に活かされています。ボーイング787のボディや主翼には、従来のアルミ合金に代わって炭素繊維の複合材(繊維強化プラスチック)が主に使われています。しかも、主翼を製造するのは日本の企業(三菱重工)です。ボーイング社が主翼を他の会社に作らせるのは史上初めてのことです。これによって現在、日本の航空機産業の売り上げはとても伸びています。これらは先端的な基礎研究が草の根となり、いろいろな方面へと広がっていった典型例です。
Q. JAXAが航空機の技術を開発する意義は何でしょうか?
誰もがやっていない先進的な技術を国が中心となって開発し、その成果を日本の航空産業の能力向上に役立てることです。これから切り開く技術の障害が取り除けると証明できれば、新しい可能性が広がります。また、成果が世界に認められれば、いざ実用化となり、国際共同開発を行うにしても、日本が主体となって参加することができるでしょう。しかし、日本の技術を世界に発信し、実証しただけではだめです。航空機の場合、商品化され、一般の方に利用されなければ、目的を達成したとはいえません。しかも、日本国内だけではそんなに売れませんから、世界市場で戦えるような国際商品にしなければなりません。私たちのゴールは、自分たちが開発した技術が世界規模で民間機に使われることです。それを目標にして技術開発を行っています。

クリーンエンジン(概念図)
Q. クリーンエンジンとは、どのようなエンジンですか?
有害な排気ガスを出さない、静かで、しかも燃費が良いという、環境に配慮されたエンジンです。具体的に言うと、有害成分である窒素酸化物(NOx)の排出量が少なくて、騒音も低く、二酸化炭素の排出量が低減され、少量の燃料で長距離、長時間飛べるエンジンです。
Q. クリーンエンジン技術の開発目的は何でしょうか?
現在、地球にとって深刻な環境問題に適応したエンジンの技術を、我が国で獲得することです。エンジン自体の製造や設計は民間企業が行いますが、私たちは、その基本となる技術を完成させ、民間へ技術移転していきます。現在、地球温暖化が世界で問題になっていますが、これは私たち人間の活動が及ぼしたことです。これまでは、早く目的地に着きたいとか、遠くへ速く行きたいといった人間のさまざまな欲望を満たすために、航空機技術の開発が行われてきました。その結果、旅客機が世界中を行き来するようになり、人々の生活は便利になりましたが、航空機用エンジンからの排出ガスによる大気汚染が懸念されるようになりました。何も対策をとらず、このまま地球温暖化が進むと、将来、私たちは安全安心な環境で生活できなくなります。地球の環境を守るために、環境への負荷を減らす技術を開発することは、人間社会にとってとても重要なことなのです。
そのため国際民間航空機関(ICAO)は、民間航空機からの騒音やエンジンの有害排出物についての国際的基準を定めていますが、規制は年々厳しくなっています。そのため、先の基準を見据えて、現在の基準値よりもさらに低いレベルまで排出物を削減したエンジンを開発しなければなりません。
このような国際的なニーズをふまえ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も経済産業省の助成を受け、2003年度から「環境適応型小型航空機用エンジン研究開発」(通称:小型エコエンジンプロジェクト)を始めました。このプロジェクトでは、低コストで環境対策にも優れた、次世代民間旅客機用の純国産エンジンの商品化を目指しています。JAXAはNEDOのプロジェクトに共同研究機関として参加し、技術的に支援をしています。エコエンジンを実用化することも、私たちがクリーンエンジン技術を開発する目的の1つです。
Q. クリーンエンジンの実用化に向けて、どのようなロードマップをお考えですか?
2003年度に技術開発がスタートし、2004年度から2006年度にかけてエンジンの要素技術の開発を行いました。要素技術というのは、有害成分の排出量を減らすための鍵となる燃焼器や、タービンの冷却技術のことです。2007年度から数年間は実証開発で、実験用のエンジンを作って技術実証を行います。そして、2011年度までには、JAXAが開発した新しい燃焼器やタービンなどの技術を組み込んだクリーンエンジンを製作し、エンジンの性能実証を行う予定です。また、この計画は、NEDOのエコエンジンプロジェクトの各開発段階の目標と整合されるように設定されています。エコエンジンプロジェクトと連携しながら研究開発を進め、国産ジェットエンジンの実現化を目指したいと思います。