ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


環境に優しい航空機技術の開発 〜クリーンエンジンと超音速機〜
静粛超音速機技術の研究開発
次世代超音速旅客機(想像図)
次世代超音速旅客機(想像図)

Q. JAXAが目標とする超音速機はどのような航空機ですか?

かつて民間で唯一の超音速旅客機として運航されたコンコルドよりも、ソニックブームの衝撃音と離着陸時の騒音が半減する超音速機で、30〜50人乗りの小型のものを考えています。ソニックブームとは、航空機が音速を超えて飛行する際に、機体周辺に発生する衝撃波が地面に到達し、バーンという爆音を出す現象です。ソニックブームの衝撃波によって窓ガラスが割れることもありますので、コンコルドは陸上での超音速飛行が禁止され、就航できる路線も限定されていました。また、燃費がとても悪いうえに、乗客定員が100人と少なかったため、航空運賃が高額でした。それでも、パリ、ロンドンからニューヨーク、ワシントンDCまで3時間半で航行するコンコルドは、世界中を飛び回るビジネスマンにとって、とても魅力的な交通手段だったのです。コンコルドは、2000年にパリで起こした事故がきっかけとなり、2003年に運航が停止されましたが、商業的に失敗した大きな理由は、このソニックブームの騒音と、燃費が悪かったことだと言われています。
JAXAでは、ソニックブーム低減、離着陸時の空港周辺での騒音を低減した環境にやさしい超音速機を目指しています。また、機体の軽量化や飛行時の空気抵抗を抑えることによって、機体の効率を良くして燃費を向上させる、経済性にも優れた超音速機の技術を研究開発しています。

静粛超音速研究機(概念図)
静粛超音速研究機(概念図)
Q. どのような計画で超音速機の技術研究が進められているのでしょうか?

1997年に超音速機技術の研究開発がスタートし、機体システムの概念研究、空力技術や構造技術など要素技術の研究を行ってきました。最近はコンピュータによる数値計算の技術が高精度化しましたので、航空機をどのように設計すれば空気抵抗を抑えることができるか、騒音を低減することができるかという見込みをコンピュータ上で出すことができます。しかし、数値計算をしただけでは誰も信じませんから、風洞を使った検証試験や、実験機による飛行試験によって、それらの技術を実証します。2005年には、空気抵抗を下げる機体設計技術を実証する、小型超音速実験機による飛行実験に成功し、多くのデータを取得することができました。また、ソニックブームや騒音を低減する技術を実証する目的で、静粛超音速研究機を作って飛行実験する計画を検討しています。ソニックブーム低減については、機体前方のソニックブームを低減する技術がアメリカで実証されていますが、 JAXAでは、機体全体でのソニックブーム低減技術の実証を考えています。2010年代の中頃までに、超音速機のソニックブームを半減する技術を確立し、2020年代には超音速機を実用化したいと考えています。

Q. 世界でも超音速機の開発が行われているのでしょうか?

大型の旅客機ではなく、数人から十数人程度を定員とする超音速ビジネスジェットの技術開発が、アメリカとヨーロッパで進められています。ソニックブーム低減に関しては、どこもまだ研究段階ですから、もし日本が真っ先に実証試験に成功し、一歩先に出ることができれば、世界的な優位技術を獲得することになります。
超音速機の開発には多額の費用がかかるうえ、先端技術を結集させるという意味では、とても1国だけでできるようなプロジェクトではありません。いずれは、国際共同開発をすることになるかもしれません。その時に日本が超音速機の基盤技術を持っていれば、共同開発に参加できますが、もし何も先進的技術を持っていなければ、声をかけられることもないでしょう。例えば、何千台も売れたV2500エンジンにしても、日本が長年の研究で、エンジンの技術を蓄積していたために、世界5カ国の共同プロジェクトに参加することができました。また、ボーイング787の主翼を日本で生産することになったのも、複合材料の研究を30年間続けてきたからです。将来を見通す先見性を持って、新しい技術をちゃんと蓄積しておかないと、いざ実用化となった時に、日本は国際共同プロジェクトに参加できなくなってしまい、科学技術立国を掲げる我が国とって、大きな損失です。
超音速機の時代はいずれやって来ると思いますが、今はまだビジネスになるという保証はありません。そのため民間の一企業が超音速機の研究・開発をするのは困難です。ただ、興味を持っている人はたくさんいます。だからこそ、JAXAがまず研究を始めるのです。私たちが研究をすれば、そこには民間の技術者が集まってきます。そこで、1つにまとまった「日本の技術」を作ることができます。超音速機に限らず、先端的・基盤的な技術は、国でなければできない研究だと思います。

極超音速機(想像図)
極超音速機(想像図)

Q. 超音速機が実現されると、もっと速い極超音速機が求められると思いますが、それについてJAXAはどのような取り組みを行っているのでしょうか?

2025年の実現を目指し、マッハ5(音速の5倍)程度で飛べる極超音速機の技術研究を行っています。極超音速機で最も難しいのはエンジンです。極超音速で飛行をすると、空気が急激に圧縮されて1000℃くらいまで温度が上昇するため、普通のジェットエンジンでは壊れてしまいます。そこで、JAXAでは、予冷ターボエンジンの技術研究を行っています。予冷ターボエンジンは、ジェットエンジンに入る空気を、液体水素のような冷たい燃料で冷却することで、大きな推力を出します。燃料として液体水素を使用しますので、二酸化炭素を排出しない、環境に適応したエンジンでもあります。2007年にエンジンの地上燃焼試験に成功しましたので、2008年にはぜひ気球を用いた飛行実験を行いたいと思います。

持続可能な発展のための技術を
石川 隆司 写真

Q. 現在の仕事につながるきっかけは何だったのでしょうか?

小学生の時に兄が持っていた「航空の驚異」という本を読んで、飛行機に興味を持つようになりました。子供の頃は、よく飛行機の模型を作って遊んでいましたね。高校生になると、大学では航空学科に行きたいという目標を持つようになり、それを実現することができました。大学ではグライダー部に入りましたが、当時、グライダーの構造が木製や鋼管からガラス繊維の複合材に移り変わる時期だったのです。それがきっかけとなり、複合材料の研究を行うようになりました。炭素繊維の複合材が世に出てきたのもちょうどその頃です。大学卒業後も炭素繊維の航空複合材料の研究を長年やっていましたので、実際に炭素繊維の複合材が旅客機の構造に使われる、しかもその製造を、共同研究してきた日本の企業が行うと知った時は感無量でした。

Q. 今後の目標や夢があったら教えてください。

まずは、クリーンエンジンや超音速機などのプログラムが予定通りに進み、実現化することが第一の目標です。個人的には、自分が研究してきた複合材料が、航空機だけでなく、二酸化炭素の排出量削減などいろいろなことに貢献してほしいという夢があります。実際に、さまざまな方面で炭素繊維複合材料が使われるようになってきましたが、その新しい素材を発明したことは、人類の宝であり、私たちの持続発展型の社会に大いに貢献していると思います。このように、JAXAが開発する技術が、航空宇宙をベースにしながらいろいろな方面に広がり、持続的に発展していくことを切に望んでいます。

石川隆司(いしかわたかし)
JAXA 航空プログラムグループ 航空プログラムディレクタ。工学博士。
1972年、東京大学工学部航空学科卒業。1977年、東京大学大学院工学系研究科航空学専攻博士課程修了。1977年、旧東京大学宇宙航空研究所に入所。1978年、旧科学技術庁航空宇宙技術研究所(現JAXA)へ移籍。1980〜82年、米国デラウェア大学留学。1985年、デラウェア大学客員助教授に従事。2001年、旧航空宇宙技術研究所(現JAXA)先進複合材技術開発センター長。1995〜2005年にかけて東京大学、日本大学、東京理科大学などの客員教授歴任。2005年から現職。日本航空宇宙学会副会長。
Back
1   2
  

コーナートップに戻る