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日本人初めての宇宙長期滞在を達成して 〜若田宇宙飛行士による国際宇宙ステーション長期滞在〜
国際宇宙ステーション長期滞在を経験して JAXA宇宙飛行士 若田光一 (Koichi Wakata)

最後まで緊張感のある長期ミッション

Q. 4ヵ月半にわたって国際宇宙ステーションに滞在した今回のミッションを振り返ってどう思われますか?

ISSに取り付けられた「きぼう」船外実験プラットフォーム(提供:NASA)
ISSに取り付けられた「きぼう」船外実験プラットフォーム(提供:NASA)

私にとって宇宙長期滞在は初めての経験です。打ち上げ前は、行きと帰りのスペースシャトルのドッキング中は短距離走で、国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在は、マラソンをしているような感じだろうと思っていました。しかし実際には、行きに搭乗したスペースシャトル・ディスカバリー号が去り、第18次長期滞在クルーがソユーズ宇宙船で帰還した後、ロシアのパダルカ宇宙飛行士、アメリカのバラット宇宙飛行士と3人で宇宙ステーションの軌道上での運用を行っていた2ヵ月間は、スペースシャトルの飛行のように非常に忙しい毎日でした。これは予想外でしたね。その後5月末にソユーズ宇宙船で新たな3人の仲間が到着して、ISSで初めての6人体制が実現すると、生活にゆとりが出てきました。日曜日に休みがとれるようになり、「きぼう」の窓のシャッターを開けて美しい地球を見ながら読書をしたり、好きな音楽を聴く時間も取れました。宇宙から地球を眺める時が、心も身体もリラックスできる時間だったと思います。
一方、シャトルのフライトは予想通り100メートルダッシュのような毎日でした。行きのフライト、STS-119ミッションでは、S6トラスという太陽電池パネルの基部構造の取り付け、帰る前にはSTS-127ミッションで「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームの取り付け等を行いました。「きぼう」の組み立てを締めくくるという仕事の大きなヤマ場が帰還直前にあったので、最後まで緊張感が抜けない長期滞在ミッションだったと思います。

Q. 軌道上での健康管理はどのように行われていたのですか?

食事中の第20次長期滞在クルー(提供:NASA)
食事中の第20次長期滞在クルー(提供:NASA)

JAXAの医師の方々とのテレビ会議による軌道上医学面接が週に1回、心理・精神科の面接が2週間に1回あり、それらを通して私の健康状態はしっかりモニターされていました。面接では、私からの主観的な報告をするだけでなく、軌道上で取得している医学データに基づいて、栄養指導などを含めた総合的なアドバイスを与えてもらえます。ですから、長期間、宇宙で健康に過ごすために、とても重要な面接だったと思います。また、面接はプライベートなもので、日本語で話すことができましたので、とてもリラックスできました。なぜなら、ISSの公用語は英語とロシア語のため、JAXA筑波宇宙センターの運用管制室の方たちと話すときも、作業手順や運用については、英語で話さなければならないのです。そういう意味で、母語である日本語を使って面接をできたことは、心理的な大きな支えになったと思います。
また、今回は、JAXAと食品メーカーの皆さんの協力で作っていただいた28種類の宇宙日本食を、宇宙へ持って行くことができました。小さい頃から慣れ親しんだ日本食を食べていると「今日も頑張ろう」という気持ちになれました。宇宙ステーションのような閉鎖環境で長期滞在をしてみて初めて、人間の生活において、食文化がいかに心の支えになっているかを感じました。

世界に誇れる有人宇宙施設、「きぼう」の完成

Q. 「きぼう」日本実験棟を完成させたときのお気持ちはいかがでしたか?

「きぼう」ロボットアーム操作ラックで作業する若田宇宙飛行士(提供:NASA)
「きぼう」ロボットアーム操作ラックで作業する若田宇宙飛行士(提供:NASA)

「きぼう」は、世界に誇れる素晴らしい有人宇宙実験施設だということを強く感じました。「きぼう」組み立ての締めくくりの仕事に参加でき、とても嬉しく思っています。私が宇宙飛行士に選抜されてから17年の月日が経っているわけですが、その間に「きぼう」の開発に参加なさってきた方々や、「きぼう」の運用を行う運用管制チームの皆さんとも一緒に仕事をしてきました。例えば、筑波宇宙センターでのハードウエアの開発試験などで何か問題が出てくるたびに、みんなと一緒に相談しながら解決して、一歩一歩「きぼう」打ち上げに向けて仕事をしてきました。「きぼう」の船外実験プラットフォームを取り付けて完成させたときだけでなく、開発に参加した「きぼう」のロボットアームを使って実験装置を移設する作業を行ったときにも、これまで一緒に仕事をしてきた素晴らしい仲間たちの顔が次から次へと浮かんできました。「きぼう」での仕事をさせてもらって、私は本当に幸運な人間だと思います。

Q. ご自分が開発した「きぼう」のロボットアームを軌道上で使った感想はいかがですか?

STS-127ミッションの飛行9日目。実験装置を船外実験プラットホームに取り付ける様子(提供:NASA)
STS-127ミッションの飛行9日目。実験装置を船外実験プラットホームに取り付ける様子(提供:NASA)

「きぼう」のロボットアームについては、実際に宇宙飛行士が操作するパネルの仕様や、スイッチの種類や位置、ロボットの制御方法など様々な面で、 JAXAの前身であるNASDA(宇宙開発事業団)のころから、メーカーとNASDAの開発チームの皆さんの仕事を宇宙飛行士の立場から支援させてもらう作業に携わる事ができました。長い間、開発に参加してきたロボットアームを実際に宇宙で動かすことができ、宇宙飛行士冥利につきますし、技術者としても大変光栄です。
「きぼう」のロボットアームを軌道上で初めて使ったのは、帰りのシャトルフライト、STS-127(2/JA)ミッションの飛行9日目でしたが、その日は日本製のメカがすべて活躍した日でもあります。ロボットアーム、実験装置、実験装置を船外実験プラットフォームに取り付けるメカニズムなど全部が日本製で、宇宙で初めて使う道具がたくさんありました。それらが軌道上でしっかり動きましたので、それを見ながら日本の宇宙技術の信頼性の高さを再認識しました。

運用管制チームとの素晴らしいチームワーク

Q. 宇宙空間で「きぼう」日本実験棟を使ってみた印象はいかがだったでしょうか?

「きぼう」で寝袋に入る若田宇宙飛行士(提供:NASA)
「きぼう」で寝袋に入る若田宇宙飛行士(提供:NASA)

「きぼう」の船内実験室はとても明るく、非常に静かで快適な環境だと思いました。内部の壁の色彩や照明器具の付け方なども工夫されているため、たとえ1〜2つ電気をつけなくても、十分明るい環境で実験や生活ができるよう設計されているのです。また、「きぼう」の中で何度も寝ましたが、とても静かで、ぐっすり眠ることができました。「きぼう」は実験だけでなく、生活をするという観点からも、人間工学的に非常に完成度の高い設計なっていると思います。「きぼう」の優れた能力を活かし、その実験設備の利用が大きく広がって行くことを期待しています。

Q. 「きぼう」運用管制チームとの連携はいかがでしたか?

宇宙滞在100日目を祝う運用管制室
宇宙滞在100日目を祝う運用管制室

彼らは、軌道上での宇宙飛行士の心理状態をしっかりと把握しながら、必要な手順や指示をタイムリーに伝えてくれます。ISSでの長期滞在が始まってからの最初の2ヵ月間は3人体制で運用していましたが、仕事中は3人が個々に作業をして、「きぼう」の中で仕事をするときもほとんど1人です。そのような環境でいると、孤独を感じて、多少寂しい気持ちになるんですね。そんな時に、筑波宇宙センターの運用管制室にいるクルーとの通信役のJ-COM(ジェイコム)の皆さんとお話しながら元気をもらい、しっかりと作業を行うことができたことも多々ありました。
特に印象に残っているのは、私の宇宙滞在が100日目を迎えたときです。筑波の運用管制室に関係者が集合してお祝いのイベントをしてくだって、そのときの映像を軌道上でも見ることができましたが、皆さんの笑顔を見ると、多くの方たちに自分が支えられていることをつくづく感じました。私は彼らのことをとても信頼していますし、彼らも私たちクルーを信頼してくれているという事を感じながら仕事をすることができました。筑波や各国の運用管制チームの皆さんとの素晴らしいチームワークのお陰で、「きぼう」が組み立てられ始めてからのこの約1年間、大きな問題もなく運用してこられたのだと思います。

  
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