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宇宙実験で広がる未来への可能性〜「きぼう」日本実験棟での実験の成果〜 激動する宇宙がX線で見えてくる 理化学研究所 基幹研究所 宇宙観測実験MAXIグループ 特別顧問 全天X線監視装置(MAXI)ミッションリーダ 松岡勝

90分に1回の間隔で全天を監視し続ける

Q. 全天X線監視装置 MAXIの概要と目的を教えてください。

「きぼう」船外実験プラットフォームに設置されたMAXI(提供:NASA)
「きぼう」船外実験プラットフォームに設置されたMAXI(提供:NASA)

MAXIの視野。青が GSCカメラ、黄色がSSCカメラの視野を示す。矢印はISSの進行方向
MAXIの視野。青が GSCカメラ、黄色がSSCカメラの視野を示す。矢印はISSの進行方向

MAXI(Monitor of All-sky X-ray Image)は、X線を発生する高エネルギー天体を、全天観測する装置です。X線は、超高温のガスのジェットや、爆発で放出された高エネルギーの粒子によって発生します。X線を発生する高エネルギー天体には、ブラックホールや中性子星、超新星、変光星、活動銀河などがあります。しかし、これらの天体は通常激しく不規則に変動しているため、いつ何処で観測できるか予測できません。また、X線は大気によって吸収されてしまうため、宇宙からのX線を観測するためには、大気の外に行かなければなりません。そこで開発されたのが、2009年7月に国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームに設置されたMAXIです。
MAXIは、全天を見渡せる半円弧状の細長い視野を持ち、ISSが地球を1周する90分に1回の間隔で全天を観測します。全天で1000個を超えるX線天体を、監視し続けることができるのです。これにより、今まで観測が困難だった私たちの銀河系外のX線を発生する天体(X線天体)も観測することができます。通常のX線天文衛星や望遠鏡は視野が狭いため、ある天体に目標を絞って観測をすることしかできませんが、MAXIは、搭載されたガススリットカメラ(GSC)とX線CCDスリットカメラ(SSC)の2つの目で、宇宙の激しい変動がどこで起こってもその瞬間を捉えます。また、これまでの全天モニター型のX線観測装置に比べ、感度が10倍近く良くなり、エネルギーの低いところと高いところの違いがすぐ分かります。さらに、電力や姿勢制御、通信などの機能をISSに依存できますので、従来のX線天文衛星より大型の装置を搭載することが可能になりました。
MAXIは、2009年7月に若田宇宙飛行士によって、「きぼう」日本実験棟の船外の実験施設である船外実験プラットフォームに設置されました。船外実験プラットフォームには、MAXIのほかに、宇宙環境を計測する装置や、地球の大気を観測する装置が取り付けられていますが、現在のところ、天体を観測する装置はMAXIだけです。MAXIは、ISSに取り付けられた初めての天文観測装置で、少なくとも2年間はX線天体の観測を続けます。また、MAXIは、JAXAと理化学研究所、大阪大学、東京工業大学、青山学院大学、日本大学、京都大学、宮崎大学、中央大学の研究者が参加して、解析や運用を共同で行っています。

予期できない宇宙の不規則な変動を捉える

Q. これまでどのような観測成果が出ていますか?

GSCカメラが10ヵ月撮影した全天画像。赤は低いエネルギーのX線を、青は高いエネルギーのX線を放射している天体(※1)
GSCカメラが10ヵ月撮影した全天画像。赤は低いエネルギーのX線を、青は高いエネルギーのX線を放射している天体(※1)
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全天の動画(2009年8月15日〜2010年3月23日までの連続画像)(※2)
全天の動画(2009年8月15日〜2010年3月23日までの連続画像)(※2)
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いて座で出現したX線新星(矢印)。出現日(2009年10月23日)前から明るさと放射エネルギーを変えてゆく新星の様子をMAXIで追った(青から赤へ)。新星の左上には偶然、同じ時期に活動を再び開始し増光した中性子星の連星も見られる(※3) いて座で出現したX線新星(矢印)。出現日(2009年10月23日)前から明るさと放射エネルギーを変えてゆく新星の様子をMAXIで追った(青から赤へ)。新星の左上には偶然、同じ時期に活動を再び開始し増光した中性子星の連星も見られる(※3) zoom
X線CCDカメラによる全天画像 X線CCDカメラによる全天画像(※4) zoom
MAXIの使命は、全天にある宇宙の不規則な変動を、時間をかけて観測することです。観測が始まってまだ1年も経っていませんが、MAXIは新X線天体の発見やこれまで知られていた天体の突然の変動の様子を数多く捉えています。現在もX線天体の観測を継続中であり、データを解析中のため、どのようなことが分かったのかを詳しくお話することはできませんが、初期の観測成果をいくつか紹介しましょう。

(1)驚異のX線全天観測最短記録「2ヵ月」! 2009年11月に、ガススリットカメラ(GSC)の観測によって作成された全天のX線天体画像を公開しました。観測が始まって2ヵ月という短期間で全天の撮影を行い、画像を公開することができたのは、MAXIが世界で初めてとも言えます。それ以降も全天画像を更新していて、10ヵ月観測した後の全天画像からは約350個のX線天体が目でも確認できます。これらのX線天体は変動しているため、さらに長期間観測を継続して、世界初の「変動するX線源カタログ」として整理し発表する予定です。(※画像1)
また、1日毎の全天画像を連ねて、全天の動画を作成しました。この動画から、銀河面にある天体が突然輝いたり消えたりするのがよく分かります。(※画像2) (2)謎の多いガンマ線バーストをいくつも観測 超新星との関連性を示唆するガンマ線バーストのデータをいくつか取得しました。ガンマ線バーストは宇宙最大ともいわれる巨大な爆発現象で、多くは数十億光年よりも遠方で発生します。X線の発生メカニズムはまだ十分には分かっておらず、謎が多い天体です。 (3)ブラックホールを持つX線新星の長期観測を実施 私たちの銀河系の中心付近で発生した、ブラックホールをもつX線新星を7ヵ月以上にわたって観測しました。X線新星は、X線で突然明るく輝きだしますが、MAXIは、新星が発生する前から、爆発してピークを迎えて消えていくまでの様子を捉えることに成功しました。ブラックホールをもつ明るいX線新星は、全天で年間1〜2個しか発生しませんので、とても貴重なデータであり既に正式な論文にしました。(※画像3) (4)さまざまなX線パルサーの観測情報を世界に発信 X線パルサーは、強い磁場を持つ中性子星と通常の恒星との連星になっています。重力の強い中性子星に、相手の星からガスが流れ込み、そのガスの量によって明るさが変わります。MAXIは、X線パルサーの中性子星とその連星から出るガスの構造や進化を探る珍しいデータも取得しました。また、数年ぶりに活動が再開したX線パルサーや、これまであまり知られていなかった、短時間だけ輝くX線パルサーの新しい現象も捉えました。 (5)活動銀河の躍動感をまざまざと見せる ジェットを放出している活動銀河が、巨大なフレアを発生するなど激しく変動する姿を観測しました。また、活動銀河のジェットがどのような状況で放射されるかを知る貴重なデータも得ました。MAXIは、活動銀河のジェットの噴出の瞬間を捉えたのです。 (6)日本が誇るX線CCDカメラが見たX線天体の姿 X線CCDカメラによる初めての全天観測を行いました。これにより、銀河面に沿って高温度をもつX線天体が数多くあるのを確認できるほか、太陽系を包む高温プラズマの様子も分かります。酸素やネオンの輝線分布など、どこに、どのような元素がどのくらい存在するかを調べれば、X線放射の起源や構造の謎に迫ることができます。(※画像4)



これらの観測成果はまだ分析中であり、今後さらに研究が進めば、新たな発見があるにちがいないと私は思っています。これまで見たことがないような天体の爆発や急激な変動現象に遭遇するかも知れないと、MAXIの全天観測には世界中から期待が寄せられています。
  
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