水星探査機「メッセンジャー」(提供:NASA)
「メッセンジャー」は、水星表面の地形や組成を調べるのが主な目的です。NASAのディスカバリー計画という低コストで効率のよさをめざすプロジェクトの1つだったため、搭載できる観測機器などに制約があり、「メッセンジャー」は水星の北半球のみを観測します。ですから水星の北半球については、詳細な観測データを提供してくれると期待しています。「メッセンジャー」は、2008年と2009年に水星のフライバイを行い、水星表面の撮影と水星周辺の宇宙空間の様子を観測しました。「メッセンジャー」は2011年に水星の周回軌道に入る予定です。
私たち「ベピコロンボ」と「メッセンジャー」のチームはお互いに尊重し合っていて、とてもいい関係にあります。「メッセンジャー」は今後いろいろなことを見つけてくれるはずなので、その結果も参考にして、「ベピコロンボ」での本格探査計画を策定したいと思います。
水星表面(提供:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington)
小さい惑星はすぐに冷えて固まってしまうため、磁場が作られないはずなのに、水星は磁場を持っています。しかも、水星には大気がほとんどなく、磁場が地表に接触していて、宇宙空間の電離したガスが直接地表に当たります。そこでは、今までの常識では考えられないことが起きていると思います。地球では、太陽からのプラズマ粒子が地球の磁場に捕らえられたのち、大気にぶつかって発光する現象、オーロラがありますが、その中でも、突然明るくなって、爆発的に広がるオーロラを、「オーロラ爆発」といいます。水星は地球と同じように磁場を持っていますので、地球のオーロラ爆発と似た躍動的な現象が頻繁に起きていると考えられています。私は宇宙空間ガスの物理に興味があり、その立場から水星周囲の宇宙空間で何が起きているのかを知りたいと思います。状況が似て異なる、地球周辺と水星周辺でのデータを比較して考えることは、普遍的な宇宙ガスの物理を理解していく上での重要なステップです。
これまでは、未知の惑星については、「地球がこうだから、この惑星もきっとこうだろう」と、地球に関する知識を元に想像するというレベルだったと思います。地球での知識を参考にして、惑星のことを理解するというのは、ある意味で、応用問題を解くようなニュアンスだったと思います。しかし、実際に探査機が惑星に行ってみると、地球とは全然違う状態で、地球では学べない知識や理解が得られます。やはり、実際に行って調べて、地球と同じくらい詳しく理解してこそ、その惑星を、そして宇宙を理解したと言えるのではないでしょうか。何かを発見して、ただ単に「すごい」で終わるのではなく、なぜそういう現象になるのか、どういう法則になっているのかなど、好奇心を持続的に発展させることが重要だと思います。「ベピコロンボ」で得られる水星の詳細なデータを使って、惑星の理解をさらに進め、宇宙の普遍性を意識した研究を行っていきたいと思います。