レーダー観測をもとにした金星のCG(提供:NASA)
かつてはロシアやアメリカが、そして現在はヨーロッパの探査機が金星を調べています。これらの観測で、金星の大気は主に二酸化炭素でできていて、硫酸の雲で覆われていること。地表面の温度は400℃以上で、気圧は約90気圧という、高温で高圧の世界であること。地球のような海はなく、比較的新しい火山地形があること。磁場がないことなどが分かっています。金星の高温は二酸化炭素の温室効果によるもので、これは温暖化の究極の姿と言えるかもしれません。
最近のおもしろいトピックスは、金星の高地に、花崗岩(かこうがん)といって、一般に水がある環境で作られる鉱物の特徴が見られるというものです。過去の探査機の観測データをある日本人研究者が解析して、それが見えてきたのです。これは、金星にも地球と同じように海があったことを意味するかもしれません。もし金星にかつて海があったとすると、その海はどんな姿をしていて、どのような過程を経て失われていったのでしょうか。
このような問いに答えるうえで、金星の大気循環がどうなっていて、それが遠い過去から現在に至るまでどのように変化してきたかのかということが、大事になります。今回、「あかつき」で挑戦する金星の気象学の研究は、そのような謎を解明するためにも重要なものです。「あかつき」の挑戦は世界の惑星大気の研究者から注目されています。
異なる道をたどった金星と地球
金星は「地球の双子星」ともいうべき存在です。金星は、太陽系の中では唯一、地球とほぼ同じ大きさと質量を持っていて、地球と同時期に似たような姿で誕生したと考えられています。金星と地球はどのようにして違う道を歩んできたのか。現在、金星と地球で起きていることはどう違うのか。金星という天体の仕組みが分かれば、ひるがえって、地球のことがもっとよく分かるはずです。例えば、なぜ地球だけが長期間にわたって海を持ったのか、なぜ地球だけが生命のあふれる惑星になれたのかが分かるかもしれません。また、大気量や自転速度が変わると気象がどう変わるのかも分かるでしょう。それが、多くの惑星科学者が金星に興味を持つ、一番の理由だと思います。
また、金星には多くの謎があります。先ほどお話しした不思議な風、スーパーローテーションだけでなく、過去に海があったのかどうか、現在の金星の火山活動はどうなっているかなど、多くの興味深い問題がほとんど解決していないのです。科学者としては追求しないわけにはいきません。