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日本の月探査機「かぐや」の初期成果〜月の起源と進化の謎にせまる〜
「かぐや」のこれまでの主な科学的成果 月周回衛星「かぐや」は、最新鋭の機器を使って月全体を観測し、月の真の姿を私たちに見せてくれます。「かぐや」は、新事実を発見するだけでなく、これまで推測で考えられていたことを、高精度のデータによって確実なものへと変えていきます。「かぐや」の科学的成果は、私たちに新しい知見を与えてくれるのです。
月の表と裏では異なる重力異常
月の重力異常図
月の重力異常図。左側が表で、右側が裏。赤色は重力が強く正の重力異常、青色は重力が弱く負の重力異常を示す。表と裏側では重力異常が異なる
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重力は、標高が高いところでは大きく、凹みなど低いところでは小さくなりますが、このような表面の地形だけでなく、地下の内部構造によっても変わります。重力が大きいところは、酸化鉄など平均よりも重い物質がある場所で、小さいところは軽い岩石があるところです。「かぐや」はリレー衛星を用いて、月全体の重力分布を観測し、表と裏では異なる重力異常があることが分かりました。重力異常とは、それぞれの地点での重力値から、月全体の平均の重力値を引いた差のことです。また、重力分布と地形のデータを比較することで、天体が衝突してできた盆地と重力異常の関連を明らかにしました。直径200kmを越える大型のクレーターがある場所は、月では盆地と呼んでいます。また、内部から溶岩が噴き出し、くぼ地(クレーター)を埋めて平原にした場所を「海」と言います。海の重力異常についてもデータを取得しました。
月の重力異常については、以前からあることは分かっていましたが、「かぐや」の観測によって、データとしてその姿がはっきりと見えてきました。表側の海には重い物質が分布しており、「マスコン」と呼ばれる正の広がった重力異常が見られます。マスコンは、天体衝突が起きたときに内部が高温高圧になってやわらなくなり、変形しやすくなったために、マントルが盛り上がり、さらに密度の高い溶岩が噴出して起きたと考えられています。一方、裏側には海が少なく、マスコンのような正の広がった重力異常はありません。裏では負の重力異常が多く見られ、それはクレーターや盆地でおこり、丸い形をしているのが分かります。裏側では、盆地など衝突地形ができたときに内部の温度が低く、固い状態であったために、地殻の隆起や、溶岩の噴出による密度異常が見られなかったと考えられます。「かぐや」による重力観測の結果、月の大規模衝突地形ができた40億年前頃には、月の内部は表側が高温で裏側が低温であり、表と裏の地殻の固さが異なっていたことが分かりました。
月の地殻は、ドロドロに解けたマグマの海が冷えて固まってできたと言われていますが、表と裏の地殻の固さが違うのは、その冷却速度が表と裏で違うからだと考えられています。表側は月ができてしばらくの間(数億〜5億年)は温かかったのに対して、裏側はかなり速く冷えたのではないかと思われます。
月全球の正確な地形図を作製
月地形図
月地形図。黒丸は月面最高点、白丸は月面最低点の位置を示す
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極域の地形図
極域の地形図。シューメーカー(Sh)、ファウスティーニ(Fa)、シャックルトン(S)、デ=ヘルラテ(dG)クレーターなどが明確にとらえられている
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レーザー高度計を用いて、平均5〜6km間隔で、全球の約677万地点の高度を観測し、世界初となる月全体の正確な地形図が作製しました。これまでの地形図は、27万地点の高度に限られていたうえ、極域のデータがかけていたため不完全でした。
月で最も標高が高い地点は、裏側のクレーターの縁のところで約1万750m。最も低い地点は、裏側の南極エイトケン盆地の中にあり、深さ約9060mであることが分かりました。最も高い地点と低い地点の標高差は、これまで約1万7530mと考えられていましたが、「かぐや」の観測により、それよりも2000m以上大きく、約1万9810mであることが分かったのです。また、海と呼ばれる平原の内部に見られる嶺のようすなど、高度200〜300m以下の地形も正確にとらえています。
極全域の高度を測定したのは「かぐや」が始めてです。極域は観測点の間隔が2km以下だったため、直径2〜3km程度の小さいクレーターも明確にとらえることができました。裏側にあって地球からは見えない、南極のシャックルトンクレーターやデ=ヘルラテクレーターの凹み、また、デ=ヘルラテクレーターの内部にある直径約15kmのクレーターなどが、今回初めて明らかになりました。地形図は月探査機の着陸地点や、月面基地建設の候補地を決定するときに、とても重要な役割を果たします。
月の裏側は25億年前まで活動をしていた
地形カメラがとらえたモスクワ(北緯 27°東経 148°直径約200km)の海付近
地形カメラがとらえたモスクワ(北緯 27° 東経 148° 直径約200km)の海付近。クレーターの個数密度から年代を推定したところ、比較的最近まで(25億年前)に形成された領域があることが分かった
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これまで月の裏側の海では30数億年前に活動が終わっていると考えられていましたが、「かぐや」によって、25億年前までマグマの噴出活動を行っていたことが分かりました。月の裏側の火山活動の詳細が、次第に明らかになってきています。
月の地域の年代は「クレーター年代学」という手法で推定されます。これは、クレーターの数が多く、個数密度が高いほど、その場所が古いとするものです。これまでの月探査機よりも高分解能の「かぐや」の地形カメラでは、直径200m〜300mの小さなクレーターまで把握することができます。その結果、月の裏側の海で、25億年前に形成された領域がいくつも発見されました。海は、内部の溶岩が噴出してできたものですから、少なくとも25億年前まで、裏側には熱源があり月の内部活動が継続されていたことになります。これまでの説より5億年長く活動していたことが、月の進化の過程でどのような意味を持つかについては、引き続き研究が行われています。
1年中日が当たる場所はなかった
ハイビジョンカメラがとらえた月の北極
ハイビジョンカメラがとらえた月の北極。極域に永久日照はなかった
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極域の日照率
極域の日照率。黒い部分が永久影の領域(太陽光の二次散乱光は考慮していない)
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地球の赤道面が黄道面(地球の公転面)から23.4度傾いているのに対して、月の赤道面は黄道面から1.5度しか傾いておらず、ほぼ垂直です。このため極域では、高い山などは太陽光が1年中当たり、深いクレーターの底などでは1年中太陽光が当たらないと考えられてきました。1年中日が当たるところを「永久日照」、日が当たらないところを「永久影」と言います。
「かぐや」のレーザー高度計で極域の地形データを作成して日照率(1年のうち太陽光が当たる日数の割合)を計算したところ、月面で最大の日照率は北極域で89%、南極域で86%であり、永久日照の地域がないことが明らかになりました。将来の月面基地では、太陽光が重要なエネルギー源となりますので、日照率が高い地域が分かったことは、基地の候補地を決めるうえで大変役立ちます。
一方、永久影については、両極ともに確かに存在することが分かりました。永久影には水の氷がある可能性があると言われています。水も、将来の月面基地にとって重要な資源です。1年中日が当たらない場所がどこに、どれくらいの面積であるかという情報も、基地の建設地を検討するのにとても重要です。
  
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