世界中の多くの方々に宇宙への夢を届けてくれた乗り物ですから、本当に寂しいかぎりです。今NASAが開発している有人宇宙船MPCV(Multi-Purpose Crew Vehicle)はちょっと見るとアポロ宇宙船のようで、先祖返りみたいな印象があるかもしれませんが、その中に搭載されている技術は、スペースシャトルの経験も含めて洗練されたものになっています。スペースシャトルの開発と運用の経験があるからこそ、より信頼性や経済性の高い宇宙船を開発することができるのだと思います。
さらにアメリカでは民間企業による有人宇宙船の開発も進められています。これまでNASAでスペースシャトルやISSの開発や運用に携わってきた技術者や地上管制官、宇宙飛行士だった人たちの中には、民間主導の宇宙船の開発企業に転職している人もいます。スペースシャトルの技術遺産は、そのような形でも受け継がれていっていると思います。
スペースシャトルによる宇宙飛行、そして「きぼう」日本実験棟や宇宙ステーション補給機「こうのとり」の開発と運用を通して日本が学ぶことができた重要な技術の一つは、安全性をいかに高めるのかということだと思います。そこで作業をする人間の安全を確保しながら、運用をしていくことの難しさを学び、その考え方や手法を習得しました。特に「きぼう」の開発と運用では、どのような根本的な考え方に基づいてシステムを構築していけば、納得できるレベルの安全性に、効率的に到達できるのかという知見を獲得できたと思います。筑波宇宙センターでは、24時間体制で「きぼう」の運用を行っていますが、これも高水準の技術と経験があるからこそできることです。
このように、日本には、「H-IIA」に代表される信頼性の高いロケット、地球観測や情報通信、測位などの様々な人工衛星、恒久的な有人宇宙実験施設である「きぼう」や宇宙ステーションへの補給を可能にする「こうのとり」など、安全性・信頼性技術、運用管制技術などを含む、世界に誇れる多くの高水準の宇宙技術があります。それらは、日本が科学技術立国として生きていくための、重要な根幹技術と言えるでしょう。そういう意味でも、これまで私たちが学び、確立してきた日本の有人宇宙技術を次の世代に継承していく必要があるのだと思います。
また、有人宇宙活動の安全性に関するノウハウは、交通システムやエネルギー関係の巨大システムなどにも貢献できる重要な技術だと思います。これまで私たちが習得したことを、宇宙に限らず多岐にわたる分野で活かしてほしいと思います。