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スペースシャトルと日本の有人宇宙活動の歩み

目標は日本の有人宇宙船をつくること

Q. 日本の有人宇宙船の開発についてはどのように思われますか?

ISSに接近する「こうのとり」技術実証機(提供:JAXA/NASA)
ISSに接近する「こうのとり」技術実証機(提供:JAXA/NASA)
ISSとドッキング中の「こうのとり」2号機(提供:JAXA/NASA)
ISSとドッキング中の「こうのとり」2号機(提供:JAXA/NASA)

日本には宇宙往還機はありませんが、ISSに物資を送り届ける能力は、すでに「こうのとり」で確立していています。また、これまで私たちは、スペースシャトルやソユーズ宇宙船の素晴らしさや、その問題点を学んできました。今後は「こうのとり」の発展型で、ペイロードを地球に帰還させる能力を確立していく事が目標です。その能力があれば、実験サンプルを持ち帰るなど、宇宙実験をより効率的に行うことができます。
近年、中国では独自の有人宇宙船が開発され、宇宙ステーションの開発も進められていますが、今後はインドやヨーロッパの国々なども有人宇宙船開発に向けて着実に技術力を高めていくでしょう。またアメリカでは民間レベルでの有人宇宙船の開発が本格化してきています。その中で日本は、信頼性技術や小型化技術をはじめとする日本独自の優れた技術を、長期ビジョンに基づいて一歩一歩着実に進歩させていくべきだと思います。そして、日本が得意とする技術を生かしながら、日本独自の有人宇宙船の開発へと発展させていくことができれば素晴らしいと思います。

Q. 若田宇宙飛行士ご自身も有人宇宙船の開発に携わりたいと思いますか?

はい。次のISS長期滞在フライトでコマンダーを務めた後は、これまでの経験を生かして日本の有人宇宙船の開発に携わる事が目標です。日本がやらなくても他国が有人宇宙船の開発を続けていくと思いますが、日本がもし独自の宇宙船を提供できれば、宇宙開発の分野での一歩進んだリーダーシップをとれます。日本は2回連続で「こうのとり」によるISSへの物資輸送を成功させ、世界からも高い評価を得ました。日本には有人宇宙船を実現できる技術があるのです。今後、日本が技術立国として存続し、世界に貢献していくためにも、独自の有人宇宙船を開発することは重要な課題の一つだと思います。

日本人として初めてのISS船長に挑む

Q. 2013年末頃から予定されているISS第38次/第39次長期滞在ミッションに向けて、現在どのような訓練を行っているのでしょうか?

米国ワイオミング州の山中で行われたNOLS訓練に参加したメンバー。前列中央が若田宇宙飛行士。
米国ワイオミング州の山中で行われたNOLS訓練に参加したメンバー。前列中央が若田宇宙飛行士。

私は国際宇宙ステーションの第39次長期滞在でコマンダー(船長)を務めます。そのため、前回の長期滞在ミッションの際にも行ったISSシステムの操作訓練のほか、船長としての訓練も行っています。例えば、NOLS(National Outdoor Leadership School)という、リーダーシップや集団行動を学ぶ野外訓練がありますが、この訓練を通して、チームをまとめていくために何が必要かも学んでいます。宇宙飛行士たちは皆とても士気が高く、宇宙に対する情熱を持って仕事をしています。彼らがミッションで何を望んでいるかを汲み取りながら、チームのベクトルをミッションの目的にしっかり合わせていくよう心がけて、フライトに向けた準備を行っています。

Q. 若田宇宙飛行士は日本人として初めてのISS船長を務めますが、どのような船長になりたいと思いますか?

1回目のフライト前にケネディ宇宙センターにて、ブライアン・ダフィーさんと(提供:NASA)
1回目のフライト前にケネディ宇宙センターにて、ブライアン・ダフィーさんと(提供:NASA)

航空会社時代の課長、NASDA時代の駐在員事務所の所長、シャトルミッションやISSの船長などをはじめ、私はこれまでたくさんの尊敬できる現場の上司やリーダーに巡り会えましたので、その方々が教えてくれた事を参考にチームをまとめていきたいと思っています。でも実際にはそれはとても難しいことなので、彼らに近づけるよう精一杯努力したいと思います。
例えば、私の1回目と2回目のシャトルミッションで船長を務めたNASAのブライアン・ダフィーさんは、訓練中だけでなく、オフィスでのふとした会話や訓練後に集まってビールを飲むような時の会話も大切にする船長で、彼と日々しっかりコミュニケーションを取りながら一緒に仕事をしているうちに、気がついたら、チームとしての仕事が上手く進んでいました。彼は、私たちとの会話を通して宇宙飛行士一人一人が何を考えているのかを把握し、どこに問題があるかを認識して、さりげなくアドバイスを与えてくれていたのです。でも私たちクルーには教えられているという記憶はなく、いつの間にか自然と学びとっているという感じでしたね。そういう意味で彼は「リーダーを感じさせないリーダー」であり、非常に透明感あふれる船長だったと思います。
ダフィーさんから学ばせていただいたように、私も皆とコミュニケーションをしっかりとって信頼関係を築き、6名のクルーそれぞれの目標を達成すると同時に、チームとしてISSできちんと成果を出せるようにしたいと思います。そして、私と一緒に宇宙で仕事をすることにやりがいを感じてもらえるような船長になりたいと思います。

Q. 次回のフライトに向けた抱負をお聞かせください。

これまで宇宙飛行士として経験してきたことの集大成として、ISS船長としての任務を全うすることが最も重要な目標です。「きぼう」や「こうのとり」を含め日本の有人宇宙技術の高さは実証されてきていますし、つくばにある運用管制チームの皆さんも2008年3月の「きぼう」の軌道上組立て開始以来、24時間体制で数多くの素晴らしい利用の成果を出しながら「きぼう」の安全な運用を行ってきてくれています。日本の有人宇宙活動をまた一歩新たな領域に展開していくために、国際クルーの仲間たち、世界各国の地上管制局、プログラムマネージメントを含む大きなチームの中でのコミュニケーションを常にしっかり取りながら、「和」の心を大切にして軌道上クルーのリーダーシップを取るコマンダーとしての任務を全うし、ISSや「きぼう」が持っている能力を生かしてその運用の成果を最大限に出していくことで、国際宇宙ステーション計画の成功に貢献したいと思います。

若田光一(わかたこういち)

JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 有人宇宙技術部 宇宙飛行士、博士(工学)。
九州大学大学院工学府航空宇宙工学専攻博士課程修了。1989年、日本航空株式会社に入社し、機体構造技術の開発などに従事。1992年4月、NASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補に選ばれ、約1年間の訓練を経て、1993年、NASAよりミッションスペシャリスト(MS)として認定される。1996年、日本人初のMSとしてスペースシャトル(STS-72)に搭乗。2000年、2度目のスペースシャトルによる飛行(STS-92)で日本人として初めてISS建設に参加。2009年、第18/19/20次ISS長期滞在ミッションにフライトエンジニアとして搭乗し、日本人初の国際宇宙ステーション長期滞在を行う。2010年、JAXA宇宙飛行士グループ長就任。2010年〜2011年、NASA宇宙飛行士室ISS運用ブランチ・チーフ。2011年2月、ISS第38/39次長期滞在クルーに任命され、第39次長期滞在では日本人として初めてISSコマンダーを務める予定。

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