私は国際宇宙ステーションの第39次長期滞在でコマンダー(船長)を務めます。そのため、前回の長期滞在ミッションの際にも行ったISSシステムの操作訓練のほか、船長としての訓練も行っています。例えば、NOLS(National Outdoor Leadership School)という、リーダーシップや集団行動を学ぶ野外訓練がありますが、この訓練を通して、チームをまとめていくために何が必要かも学んでいます。宇宙飛行士たちは皆とても士気が高く、宇宙に対する情熱を持って仕事をしています。彼らがミッションで何を望んでいるかを汲み取りながら、チームのベクトルをミッションの目的にしっかり合わせていくよう心がけて、フライトに向けた準備を行っています。
1回目のフライト前にケネディ宇宙センターにて、ブライアン・ダフィーさんと(提供:NASA)
航空会社時代の課長、NASDA時代の駐在員事務所の所長、シャトルミッションやISSの船長などをはじめ、私はこれまでたくさんの尊敬できる現場の上司やリーダーに巡り会えましたので、その方々が教えてくれた事を参考にチームをまとめていきたいと思っています。でも実際にはそれはとても難しいことなので、彼らに近づけるよう精一杯努力したいと思います。
例えば、私の1回目と2回目のシャトルミッションで船長を務めたNASAのブライアン・ダフィーさんは、訓練中だけでなく、オフィスでのふとした会話や訓練後に集まってビールを飲むような時の会話も大切にする船長で、彼と日々しっかりコミュニケーションを取りながら一緒に仕事をしているうちに、気がついたら、チームとしての仕事が上手く進んでいました。彼は、私たちとの会話を通して宇宙飛行士一人一人が何を考えているのかを把握し、どこに問題があるかを認識して、さりげなくアドバイスを与えてくれていたのです。でも私たちクルーには教えられているという記憶はなく、いつの間にか自然と学びとっているという感じでしたね。そういう意味で彼は「リーダーを感じさせないリーダー」であり、非常に透明感あふれる船長だったと思います。
ダフィーさんから学ばせていただいたように、私も皆とコミュニケーションをしっかりとって信頼関係を築き、6名のクルーそれぞれの目標を達成すると同時に、チームとしてISSできちんと成果を出せるようにしたいと思います。そして、私と一緒に宇宙で仕事をすることにやりがいを感じてもらえるような船長になりたいと思います。
これまで宇宙飛行士として経験してきたことの集大成として、ISS船長としての任務を全うすることが最も重要な目標です。「きぼう」や「こうのとり」を含め日本の有人宇宙技術の高さは実証されてきていますし、つくばにある運用管制チームの皆さんも2008年3月の「きぼう」の軌道上組立て開始以来、24時間体制で数多くの素晴らしい利用の成果を出しながら「きぼう」の安全な運用を行ってきてくれています。日本の有人宇宙活動をまた一歩新たな領域に展開していくために、国際クルーの仲間たち、世界各国の地上管制局、プログラムマネージメントを含む大きなチームの中でのコミュニケーションを常にしっかり取りながら、「和」の心を大切にして軌道上クルーのリーダーシップを取るコマンダーとしての任務を全うし、ISSや「きぼう」が持っている能力を生かしてその運用の成果を最大限に出していくことで、国際宇宙ステーション計画の成功に貢献したいと思います。
JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 有人宇宙技術部 宇宙飛行士、博士(工学)。
九州大学大学院工学府航空宇宙工学専攻博士課程修了。1989年、日本航空株式会社に入社し、機体構造技術の開発などに従事。1992年4月、NASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補に選ばれ、約1年間の訓練を経て、1993年、NASAよりミッションスペシャリスト(MS)として認定される。1996年、日本人初のMSとしてスペースシャトル(STS-72)に搭乗。2000年、2度目のスペースシャトルによる飛行(STS-92)で日本人として初めてISS建設に参加。2009年、第18/19/20次ISS長期滞在ミッションにフライトエンジニアとして搭乗し、日本人初の国際宇宙ステーション長期滞在を行う。2010年、JAXA宇宙飛行士グループ長就任。2010年〜2011年、NASA宇宙飛行士室ISS運用ブランチ・チーフ。2011年2月、ISS第38/39次長期滞在クルーに任命され、第39次長期滞在では日本人として初めてISSコマンダーを務める予定。