スペースシャトル飛行再開に向けたNASAの対応について
(10月15日付け改訂版について)

NASAの対応概要
第1部-CAIB勧告へのNASAの対応
[仮訳]

追記記述を下線部で示す。

 以下に、コロンビア号事故調査委員会(CAIB)の勧告に対するNASAの対応概要を、報告書中の順序に従って示す。我々が飛行を再開する前までに、"RTF"(訳者注:Return to flight)と識別されたアクションを満たさなければならない。各々の回答の具体的な詳細は、この実行プランの次のセクションで詳述する。この計画はまだ最終版ではなく、定期的に更新する予定である。これらの勧告を実施し、CAIBの報告書をさらに詳しく検討していく過程で、対応をさらに完全なものにしていくことができるであろう。CAIBの勧告を踏まえたプログラムマイルストンによって、飛行の再開時期が決まってくる。

3.2-1
全ての外部燃料タンクの熱防護システムからの破片脱落、特にバイポッド支柱が外部燃料タンクへ取り付けられている箇所に重点をおいて、その発生源において取り除くための積極的なプログラムを始めること。[RTF]

 コロンビア号の事故の直接的な原因は、打上げの際に外部燃料タンクから剥がれ落ちた破片であった。それを受けて、我々は氷、断熱材などを含む外部燃料タンクに起因する破片を最小限にすることに専念した。現在、スペースシャトル・プログラム(SSP)は外部燃料タンク全体の熱防護システム(TPS)の設計を見直し、上昇中に破片が落下する可能性を検証している。特に以下の項目に重点を置く。

  • 前部バイポッド突起部(Forward Bipod Ramp) - NASAは(訳者注:外部燃料タンクの)突起部の設計を変更して突起部の断熱材を取り除き、冗長構成のヒータを取り付ける設計変更を行うようにした。
  • 液体酸素供給系ベローズ(氷)- 水滴受け/排水(drip lip and drain)案が採用され推進されている。代替手段としてパージシステム案の開発も続けられることになる。
  • 突起部の空力負荷(Protuberance Airload (PAL) Ramp)-可能性のある解決方法として、現在の設計の検証、さらに信頼性の高い断熱材接着技術による突起部変更、または突起部そのものを取り除いてしまうことが考えられる。
  • 液体水素/タンク間のフランジ接続部(LH2/Intertank Flange Closeout)-可能性のある解決方法として、局所的なガスパージの実施、タンク間接合部から断熱材への流路の密閉、隙間を防ぐための熱防護システムの改善、そして製造後に起きる断熱材の破損防止などが考えられる。
  • 断熱材の検証の再評価(Foam Verification Reassessment) -NASAは、熱防護システムの検証根拠とデータを、特に断熱材を外部燃料タンクに接着するためのすべてのプロセスに関するデータを再評価している。NASAは最終完了工程と、手作業で行うスプレー作業について、正しい手順が遵守されるよう、必ず2人の作業員が立ち会うようにする。
  • 断熱材の非破壊検査(NDI, Nondestructive Inspection) -NASAはプロセスの検証能力向上の一環として、断熱材の非破壊検査技術を開発するための長期プログラムを発足させた。
  • 長期的な活動 -シャトルの寿命延長活動の一環として、NASAは破片剥離の発生源をなくすための積極的な努力を継続するために、外部燃料タンクの長期的な設計変更の可能性を検討している。
3.3-2
RCC(Reinforced Carbon-Carbon)やタイルを、耐衝撃性を有するよう改良し、機体の破片による軽微な損傷に耐える能力を向上させるためのプログラムを始めること。このプログラムは、現在の材質での実際の耐衝撃性と、起こりうる破片の衝撃による影響を明らかにすること。[RTF]

 NASAは、破片による損傷に対してシャトルを強化するための改良設計を検討している。2003年の4月、NASAは、リスクの低い短期的なものからリスクの高い長期的なものまでを含めて、17の改良設計の候補を挙げた。そのうちの8つの短期的候補を選んで、各々について詳細な実現性の検証を行っている。

 さらにNASAは、衝撃に対する耐性を決定し、衝撃による破損を正確に予測するためのコンピュータ・モデルを作成するために、RCCとタイルに対して断熱材による衝撃試験を行っている。

3.3-1
全てのRCCシステム構成品の構造的な強度が保たれていることを確認する総合的な検査計画を開発し、実行すること。この検査計画には最新の非破壊検査技術を取り入れること。[RTF]

 NASAは、飛行再開の前にすべてのRCCのコンポーネントとハードウェアについて、正式に承認された手順で検査を施すことを確約している。短期的な対策として、いくつかの部品を選択して取り外し、それをメーカに送り返して総合的な非破壊検査(NDI)を実施させる。長期的な対策として、スペースシャトル・プログラムは機体のRCCシステムの部品の検査基準と非破壊検査技術を点検している。たとえば、既にフラッシュ・サーモグラフィー (off-vehicle flash thermography)を導入した。そして、機体上で行う非破壊検査(on-vehicle NDI)の開発も継続して行う。すでに近い将来実施できる可能性の高い候補が5つ判明しており、実施に向けて推進されている。

6.4-1
国際宇宙ステーション(ISS)へのミッションについて、ISSの近傍あるいはドッキングした時に使用可能な機能を用いて、タイルとRCCの両方を含む熱防護システムの可能な限り広い範囲の損傷を検査し、緊急修理を実施するための実用的な方法を開発すること。

ISS以外のミッションにおいては、可能な限り広い範囲の損傷シナリオに対処するための総合的自律(ISSから独立した)検査および修理方法を開発すること。

適切な利点と機能を利用することによって、全てのミッションにおいて早い時期に、軌道上での熱防護システムの検査を遂行すること。

最終目標は、全てのミッションにおいて、ISSミッション時に正しい軌道に到達できない、あるいはドッキング失敗、ISS分離中や分離後の損傷等の可能性に対処する十分な自律的能力を持つことである。[RTF]

 NASAの短期的なリスク緩和策として、外部燃料タンクから危険な破片剥離を無くすという案、地上及び機体上に破片による機体損傷を発見するためのカメラを配備する案、シャトルやISSの遠隔操作システム(RMS)カメラを用いて軌道上の機体を観察する案、さらに、シャトルがドッキングのためにISSに接近する際にISSのクルーに機体を観察させる案などが検討されている。また、短期的な改善活動として、タイルやRCCの修理を行うための船外活動の検討が行われている。このような、新しい能力の組み合わせにより、何らかの損傷が発生した場合、それを発見し速やかに対処することができるようになるであろう。NASA の長期的な目標は、すべてのシャトルのミッションにおいて、熱防護システムの修理能力を持たせることである。

3.3-3
翼前縁構造サブシステムへの軽微な損傷を伴っていても、地球大気への再突入を成功させるための機体の能力を、可能な範囲で向上させること。

 スペースシャトル・プログラムは、設計上の制約を考慮しつつも、機体が最小限の損傷で大気圏再突入が行える能力の評価を行っている。NASAはRCC 断熱材衝撃試験、アークジェット試験、および風洞試験により軽微な損傷、重大な損傷を定義し、認証上許される範囲内で飛行計画を変更し、現在行われている飛行承認規定を拡大する方法を検討している。さらに、翼の前縁部の構造に対する熱を緩和するために飛行経路の変更の検討も行っていく。

3.3-4
RCC部材の本当の材料特性を理解するために、破壊試験と評価によって使用中のRCCの材料特性の総合的なデータベースを開発すること。

 スペースシャトル・プログラムは、現在、飛行したRCCと飛行していないRCCの特性の総合的なデータベースを開発するために、RCCの試験計画を作成し、実施している。この複数組織にまたがるチームは、継続的に試験計画の更新を行い、設計の更新、ミッションや寿命の調節、その他翼の前縁部の構造やRCCの寿命に関する重要な事項を支援していく。

 NASAは、衝撃に対する耐性を見るためにRCCとタイルに対して断熱材による衝撃試験を行うとともに、衝撃による破損を正確に予見するためのコンピュータ・モデルの作成を行っている。

3.3-5
RCC部材に対する射点の亜鉛下塗材(塗料)の浸食を最小限にするために、射点構造物のメンテナンスを改善すること。

 環境によるさびを防止するために、発射台には亜鉛含有量の多いコーティングが用いられている。飛行再開前に、NASA のケネディ宇宙センターでは射点の保守方法を改良し、RCCが酸化亜鉛に曝される度合いを減らし、亜鉛に起因するピンホールの形成を防止する対策を施す。さらに、検査の改良、構造物の保守管理、洗浄、構造物の保護、抜き取り検査などを強化している。

3.8-1
RCCのメンテナンスの判断が、スケジュールやコストや他の事項に左右されず、部材の規格に基づいて決定されるように、十分な予備のRCCパネル組立及び関連部品を準備しておくこと。

 スペースシャトル・プログラムでは、飛行用に予備パネルの完全なセットを維持管理することとする。さらに、プログラムの長期的な使用を支持するために、追加の予備パネルを調達する必要があるかどうかも決定することとする。

3.8-2
破片衝突による熱防護システム損傷評価用の、コンピュータ解析モデルを開発・検証および維持しておくこと。これらのツールは、機体が破片によって受ける可能性のある衝突損傷に関する、現実的かつタイムリーな評価を提供するものである。軌道上での検査と修理等の是正措置を行う際の基準を確立すること。

 断熱材の衝撃試験から、既存のコンピュータ・モデルを改良する必要のあることが明らかになった。NASA は、ミッションの安全性や成功に対して重要な査定を与える飛行前や飛行中のすべての解析ツールの適性を評価し、さらに、すべての必要な改良を行う。

3.4-1
画像システムを改善し、シャトル打上げから少なくとも固体ロケットブースタ分離までの過程で、予想される上昇方位角において有用なシャトルの画像を最低3種提供できるようにすること。これら項目の運用ステータスを、今後の打上げのための許可基準に含めるものとする。これに加えて上昇中のシャトル画像を提供するための、船や航空機の使用を検討すること。[RTF]

 NASA および米国空軍は、打上げ過程を視察するための地上設備の使用を改善することに取り組んでいる。スペースシャトルミッションの安全性を確保するために、さまざまな静止画と動画の機能について、静止画と動画の両方に最適なカメラ位置について、昼夜の受像可能範囲や、生中継と録画した画像について、および最低限の天候条件について、合同で評価を行っている。

 NASA は、打上げに備えて、どのように設備を組み合わせるかを決定するが、その選択基準は、損傷の検出やエンジニアリング評価の機能を向上させることを確実にする。STS-114 では、日中に打上げを行い、点灯して外部燃料タンクを分離することにした。これによって、上昇中に3種類の有用なカメラによる画像を最大限に撮影することができ、エンジニアリング上重要な領域を特定することができる。

3.4-2
分離後の外部燃料タンクの高解像度画像を入手・ダウンリンクするための機能を備えること。[RTF]

 外部燃料タンク (ET) の分離後の画像をヒューストンのミッションコントロールセンターにダウンリンクできるように、NASA は機体のアンビリカルカメラの修正オプションの評価をすることとする。これらの画像を地上へダウンリンクするのが、リアルタイムで行われるか、あるいは安全軌道の確保後すぐに行われるかは、選択オプションによって決まる。STS-114 から開始してこれらの修正が完了するまで、フライトクルーは外部燃料タンクの分離を記録し、ミッションコントロールセンターに画像データをダウンリンクするために、手持ちのデジタル静止画像を使用することになる。

3.4-3
機体翼前縁部の下側および、両翼の熱防護システムの前方部の高解像度画像を入手・ダウンリンクするための機能を備えること。[RTF]

 NASAは、注視すべき領域を映し出すために、上昇時に使用するカメラをスペースシャトルのETと固体ロケットブースタ(SRB)に取り付けることとする。飛行再開への短期的な取り組みとして、これらのカメラは、機体の熱防護システム(TPS)に許容できない損傷がないかを明らかにするために必要な、完全で高解像度の検査範囲を有する主方策を提供する軌道上点検を補完することになる。この上昇時に使用するカメラは、破片生成を減少させるため実施したETの改修の性能確認を含む、機体の状況に関する更なる貴重な技術データを提供する。STS-114では、オービタの翼前縁部及び下面のタイル面、並びに改修したETバイポッド接続部を映し出すため、ダウンリンク機能を備えたカメラをETに追加して装備する予定である。各SRBにも別のカメラがET中間タンク領域の映像を提供するために追加して装備される。後続ミッションでは、ET、並びにオービタ翼前縁部とクリティカルな着陸脚のドアとアンビリカル・ドア周辺を含む機体下面の殆ど全体について、複数の画像を提供するためにETとSRBに更に別のカメラを設置する予定である。長期的にはNASAは、機体取付型上昇時画像取得機能或いはセンサ組立を、軌道上検査の冗長方策となり得るかもしれないレベルまで改善することを評価する。

6.3-2
軌道飛行中の各シャトルの飛行画像を標準要求とするための、国家地図作成局(National Imagery and Mapping Agency: NIMA) との協定書を改訂すること。[RTF]

 NASA は、STS-107 においては、コロンビア号の状態を評価するために、国家の機能 を十分に活用しなかった。NASA は、打上げ時、軌道上、再突入時における機体の状態を評価する支援を受けるために、NIMAや ほかの官公庁と契約覚書を締結した。NASA は国家の機能を利用するために必要な人員や職位を決定したので、実施手順を作成する。

3.6-1
各機体の組込み式補助データシステム(MADS)の計装・センサシステムに対し、最新のセンサ及びデータ収集技術を取り入れて維持及び改良を行うこと。

 NASA は、新たに代替技術が開発、導入されるまで、組込み式補助データシステムの維持管理が必要であると認識している。スペースシャトル・プログラムでは、組込み式補助データシステムレコーダの耐用年数を延長するために、現在、さまざまなオービタサブシステムのセンサ要件を再検討し、持続可能性の要件を評価・更新し、磁気テープの代替メーカを調査し、さらに手順の改善を行っている。

3.6-2
組込み式補助データシステム(MADS)を再設計すること。新たに設計されたシステムは技術的な性能情報と機体の健全性に関する情報を含み、また、特定のデータの記録またはダウンリンク(あるいは必要ならばその両方)を行うために飛行中の再設定を可能とする機能を持つこと。

 NASA は、組込み式補助データシステムに代わるものとして、システムの老朽化に対処し追加機能を備えた代替品を評価することとする。VHMS (Vehicle Health Monitoring System) は耐用年数を延長させるためのプロジェクトであり、既存の組込み式補助データシステムを、すべてデジタルによる業界標準計測機器に交換することを目的としている。VHMS では、強化された機能によりセンサの追加がより容易になり、スペースシャトルの保全状況の監視が著しく改善されるはずである。

4.2-2
Shuttle Service Life Extension Program (シャトル耐用年数延長プログラム:SLEP)及び潜在的に耐用年数40年となることも考慮し、機体の全ての配線(アクセス不可能な配線も含む)を検査するための最新の手法を開発すること。

 NASA は、最新の技術を使用したシャトル配線の検査能力の開発に関するロードマップを作成している。最初のステップとして、この懸案を扱う最も効率的な方法を見つけるために、我々は産業界や他の政府機関と協力している。

4.2-1
ボルト・キャッチャーフライトハードウェアそのものの検査及び認定を行うこと。[RTF]

 外部燃料タンクは、前方分離ボルトによって、固体ロケットブースタ (SRB)の前方スカートに取付られる。打上げから約2分後に、発火装置が点火され、前方分離ボルトがそれぞれ2分割し、外部燃料タンクから SRB が分離されることになる。外部燃料タンクの接続器具に取り付けられたボルトキャッチャーには、分離ボルトの半分が保持され、もう半分のボルトは SRB 前方スカートのキャビティに保持される。STS-107 の調査では、ボルトキャッチャー組立の安全係数が、必須安全係数の 1.4 に対して、およそ 1 であったことが分かった。我々はボルトキャッチャー組立の設計を変更することとする。再設計したボルトキャッチャアセンブリおよび外部燃料タンク接続ボルトと締め具取付補強材の試験と設計評価は進行中である。

4.2-3
全ての最終工程(クローズアウト)及び外部燃料タンクの中間タンク部分の手動スプレー過程には、最低二人の従業員が立ち会うこと。[RTF]

 作業プロセスは承認審査の段階にあり、適正な処理を確実なものにするには、少なくとも2名の人員が最終工程の処理とET間部分のハンドスプレー作業を行うものとする。さらに、作業工程の強化と重要な施行特性に基づき、適切な品質対象指定がなされているかを確かめるための審査が行われている。

4.2-4
流星塵および軌道上デブリに関して、スペースシャトルも、ISS用に計算されたものと同程度の安全性で運用すること。流星塵及び軌道上デブリに対する安全基準については、「ガイドライン」から「要求」へ変更すること。

 微小隕石および軌道上デブリ(MMOD)に関するシャトルの安全性を向上するため、NASAは、機体改修の可能性を評価している。例えば、新しいデブリ衝突センサー、次世代のタイルと歪み隔離盤(strain isolation pad)、改良型強化炭素複合材(RCC)、改善したクルーモジュール後方隔壁がこれに含まれる。さらに、ISSドッキング中のオービタのMMODへの曝露を減少させるために行うISSの他の改良と同様に、ISS上の別の位置にドッキングすることで得られる効果を評価しているところである。超高速衝突試験は続けられる予定であり、MMODに関するコンピュータシミュレーションとモデル化ツールであるBUMPERコードは、リスク軽減活動を支援するために更新される予定である。

4.2-5
ケネディ宇宙センター品質保証担当部署とUSA社は、「異物混入」について分かりやすい産業標準の定義に統一し、「プロセス中の異物」といった誤解を与える可能性のある定義を共存させないこと。[RTF]

 異物混入について、NASA はすべての処理活動で一貫した定義を使用する。現在のメトリックは改善する必要がある。処理スケジュール全体を通して、異物混入の予防監視を行う。異物混入に関する研修を毎年実施するものとする。NASAとUSA社の職員はチームを作り、類似の産業界や国防総省の作業施設との比較を開始した。

6.2-1
利用可能な資源に見合ったシャトル飛行スケジュールを採用し、これを維持すること。スケジュール上の期限は大切な管理上のツールではあるが、スケジュールを守るために起きるかもしれない新たなリスクを認識し、理解し、受け入れるためにも、期限を定期的に見直す必要がある。[RTF]

 我々の優先事項は、常に安全な飛行を実施し、ミッションを成功裡に達成することである。我々は必要なマイルストンが達成されたときにのみ飛行し、計画されたスケジュールによって追いつめられることはないようにする。

 NASAは、その時々に利用可能な資源により構成されるシャトルの飛行スケジュールを採用し、それを維持する。スケジュールリスクは定期的に評価され、許容されないスケジュールリスクは延期される。NASAは、マニフェストに関する全ての制約事項を取り込み、通常の量の変更を受け入れるに十分なマージンを持ったシャトル打上げスケジュールプロセスを開発する。このプロセスは打上げ予備日、貨物/補給の予備日、そしてクルーのタイムラインの予備日を伴う。スペースシャトル・プログラム(SSP)は、現行の技術的、日程的、及びプログラム的リスクを評価するリスク・マネージメント・システムを強化させる。さらに、SSPは最近ISSに用いられたリスクマネージメントプロセスをも審査する。データはひとつのNASA Management Information System に保管され、Space Flight Enterprise の上級管理者がスケジュール実行度合(schedule performance indicators)とリスク評価をリアルタイムで視覚的に審査することができるようにする。

6.3-1
ミッション・マネージメント・チームに対して、打上げ・上昇以降に直面する可能性のあるクルーと機体の安全上の非常事態に関する訓練を実施すること。これらの非常事態にはシャトルもしくはクルーの喪失や無数の不確定・未知な事態を含むこと。この際、ミッション・マネージメント・チームにはNASAの契約業者ラインや様々な場所における支援部隊を組織し、連絡を取ることが要求される。[RTF]

 ミッション・マネージメント・チーム(MMT)は再編成され、通信、指令系統、また検討中のオプションの関連リスクを的確に評価できるためのチームの能力を改善する。明瞭な報告経路と正式な手順が整備され、上昇と軌道上画像分析からの気付き事項を審査する。この勧告を満たすため、この新しいMMT体制は飛行再開前にリアルタイム・シミュレーションにより訓練される。これらのシミュレーションでは、フライトクルー、フライトコントロールチーム、技術スタッフ、そしてMMTを、複雑なシナリオのなかで統合し、より良い問題認知と対応を習得するものである。さらに、打上げ後のハードウェア点検と上昇再現が実施される。このプロセスはまた、ミッション中の異常の再調査と対処、及びMMTにそれらの問題を認識させるためにも設置される。

7.5-1
技術的な要求及び当該要求に関するウェーバ(特認)の全てに責任を負う独立した技術・工学専門機関(Technical Engineering Authority)を設置し、統制のとれた系統的な手法によって、シャトル・システムのライフサイクルを通して危険を認知、分析、管理すること。独立技術・工学専門機関は最低限以下の事を行うこと。
  • 全スペースシャトル・プログラムのプロジェクトと要素に関する技術標準の開発と維持
  • 全技術標準について、ウェーバを許可する唯一の機関となること
  • サブシステム、システム及び事業(enterprise)レベルでの、傾向分析とリスク分析の実施
  • 不具合モード・影響分析・ハザード報告システムの構築
  • 統合的なハザード解析の実施
  • 異常なイベントと異常でないイベントとの識別
  • 独立した打上げ準備状況の検証
  • 勧告R9.1-1で要求されている再認証プログラム条項の承認
技術・工学専門機関はNASA本部から直接出資されるが、スケジュールやプログラムの費用については無関係とすること。
7.5-2
NASA本部の安全・ミッション保証局(S&MA)は、スペースシャトル・プログラム全体の安全組織に対しての直轄的権限を持ち、独立したリソースを持つこと。
9.1-1
R.7.5-1, R7.5-2, R7.5-3で述べた、独立技術・工学専門機関および、独立安全プログラム、再編成されたスペースシャトル・インテグレーション・オフィスを定義し、設立し、業務を移行し、実施するための詳細な計画を立てること。更に、NASAは予算査定プロセスの一環として、その実施活動状況について議会に年次報告を提出すること。[RTF]

 以下の対応は勧告7.5-1、7.5-2、7.5-3、および9.1-1に適用されるものである。NASAは安全に、また来たる将来にむけて技術的優越をもって(スペース)シャトルプログラムを運営するための組織的構造と文化を整備する責任を負っている。NASAはオプションを十分に審査し、危険性を理解し、必要とされる変更を実行するに必要な時間を確保する。飛行再開前には、異なった分野によるチームが形成され、勧告の定義付け、設立、変更、そして実行のための詳細な計画を作成する。安全及びミッション保証局(Office of Safety and Mission Assurance)は、この勧告に関する中心的な役割を課された。

 その第1段階として、NASAは最近、ラングレー研究センターにおいてNASA Engineering and Safety Center(NESC)を設立した。NESCは増強された技術及び安全評価を提供し、2003年10月1日から稼働する。安全及びミッション保証の本部事務局がNESCの予算提供とその独立性を保証する。

7.5-3
スペースシャトル統合(インテグレーション)オフィスを再編成し、機体を含むスペースシャトル・プログラムの要素全体を統合出来るような機能を持たせること。

 NASAは、オービタ・プロジェクトを含む全プロジェクトと要素をプログラムとして統合できるようにするため、スペースシャトル統合オフィスの役割を強化した。この新しいオフィス、シャトル工学及び統合オフィス(Shuttle Engineering and Integration Office)は、プログラムマネージャに直接報告を行う。統合管理会議(Integration Control Board)も強化され、メンバーが増強された。

9.2-1
2010年以降にシャトルを運用する前に、材料、コンポーネント、サブシステム及び、システムレベルについて、機体の再認証を開発し、実施すること。再認証の要求は耐用年数延長プログラム(SLEP)に含むこと。

 中間での寿命認定はNASAのシャトル耐用年数延長作業(Shuttle Service Life Extension work)における主要な要素となる。シャトルを再認定する取り組みはコロンビア号事故以前に開始された。2002年の12月に、スペースシャトル委員会はすべてのスペースシャトル・プログラムとその構成員に、彼らのハードウェア認定及び検証要求の見直しを課し、プロセスと運用状態が元のハードウェア認証に一致していることを確認させた。これは、シャトル耐用年数延長を組み込んだ継続的なプロセスとなる。

10.3-1
技術図面と異なる全てのクリティカルなサブシステムの最終工程写真の暫定的なプログラムを開発すること。最終工程写真システムをデジタル化し、軌道上でトラブルシューティングが出来るように画像を即入手可能にする。[RTF]

 NASAには、軌道上のトラブルシュートと地上運用の支援のために、主要なスペースシャトル・サブシステムの明瞭な写真と画像を敏速に収集できる能力が必要とされる。

 NASAは、(シャトルの)主要部分の画像、およびデジタル画像データベースに記録されたものについての内容の認識と取得を行う。画像はデータベースに保管され、それらは上位図面、または機体のゾーン別所在(vehicle zone locator)と相互に関係付けられて参照することができる。広範囲のハードウェア完成画像の品質を改善するために、360°視野カメラと高解像度写真のような先端技術を取り入れることも含まれる。

10.3-2
以下を含むシャトルの技術図面システムを改善するための長期的プログラムに必要な適切な資源を提供すること。
  • 図面の精度の査定
  • 全図面をコンピュータ支援図面(CAD)システムに変換する
  • 技術的変更を組み込む

 NASAは、シャトル技術図面システムの向上に関する詳細計画を立案し費用を算出する。現在は策定フェーズであり、現在の設計文書の評価、開発図面転換標準整備、運用概念、システム構成、調達戦略などはまだ完了していない。このフェーズの結論として、デジタル・シャトル・プロジェクトは、シャトル技術図面システムの向上に関する詳細な計画の立案及び費用算出を行い、実行段階に移行するためにスペースシャトル・プログラムの承認を求めることになる。



前ページ | 本文へ戻る | 次ページ