追記記述を下線部で示す。
以下に、コロンビア号事故調査委員会(CAIB)の勧告に対するNASAの対応概要を、報告書中の順序に従って示す。我々が飛行を再開する前までに、"RTF"(訳者注:Return to flight)と識別されたアクションを満たさなければならない。各々の回答の具体的な詳細は、この実行プランの次のセクションで詳述する。この計画はまだ最終版ではなく、定期的に更新する予定である。これらの勧告を実施し、CAIBの報告書をさらに詳しく検討していく過程で、対応をさらに完全なものにしていくことができるであろう。CAIBの勧告を踏まえたプログラムマイルストンによって、飛行の再開時期が決まってくる。
コロンビア号の事故の直接的な原因は、打上げの際に外部燃料タンクから剥がれ落ちた破片であった。それを受けて、我々は氷、断熱材などを含む外部燃料タンクに起因する破片を最小限にすることに専念した。現在、スペースシャトル・プログラム(SSP)は外部燃料タンク全体の熱防護システム(TPS)の設計を見直し、上昇中に破片が落下する可能性を検証している。特に以下の項目に重点を置く。
NASAは、破片による損傷に対してシャトルを強化するための改良設計を検討している。2003年の4月、NASAは、リスクの低い短期的なものからリスクの高い長期的なものまでを含めて、17の改良設計の候補を挙げた。そのうちの8つの短期的候補を選んで、各々について詳細な実現性の検証を行っている。
さらにNASAは、衝撃に対する耐性を決定し、衝撃による破損を正確に予測するためのコンピュータ・モデルを作成するために、RCCとタイルに対して断熱材による衝撃試験を行っている。
NASAは、飛行再開の前にすべてのRCCのコンポーネントとハードウェアについて、正式に承認された手順で検査を施すことを確約している。短期的な対策として、いくつかの部品を選択して取り外し、それをメーカに送り返して総合的な非破壊検査(NDI)を実施させる。長期的な対策として、スペースシャトル・プログラムは機体のRCCシステムの部品の検査基準と非破壊検査技術を点検している。たとえば、既にフラッシュ・サーモグラフィー (off-vehicle flash thermography)を導入した。そして、機体上で行う非破壊検査(on-vehicle NDI)の開発も継続して行う。すでに近い将来実施できる可能性の高い候補が5つ判明しており、実施に向けて推進されている。
NASAの短期的なリスク緩和策として、外部燃料タンクから危険な破片剥離を無くすという案、地上及び機体上に破片による機体損傷を発見するためのカメラを配備する案、シャトルやISSの遠隔操作システム(RMS)カメラを用いて軌道上の機体を観察する案、さらに、シャトルがドッキングのためにISSに接近する際にISSのクルーに機体を観察させる案などが検討されている。また、短期的な改善活動として、タイルやRCCの修理を行うための船外活動の検討が行われている。このような、新しい能力の組み合わせにより、何らかの損傷が発生した場合、それを発見し速やかに対処することができるようになるであろう。NASA の長期的な目標は、すべてのシャトルのミッションにおいて、熱防護システムの修理能力を持たせることである。
スペースシャトル・プログラムは、設計上の制約を考慮しつつも、機体が最小限の損傷で大気圏再突入が行える能力の評価を行っている。NASAはRCC 断熱材衝撃試験、アークジェット試験、および風洞試験により軽微な損傷、重大な損傷を定義し、認証上許される範囲内で飛行計画を変更し、現在行われている飛行承認規定を拡大する方法を検討している。さらに、翼の前縁部の構造に対する熱を緩和するために飛行経路の変更の検討も行っていく。
スペースシャトル・プログラムは、現在、飛行したRCCと飛行していないRCCの特性の総合的なデータベースを開発するために、RCCの試験計画を作成し、実施している。この複数組織にまたがるチームは、継続的に試験計画の更新を行い、設計の更新、ミッションや寿命の調節、その他翼の前縁部の構造やRCCの寿命に関する重要な事項を支援していく。
NASAは、衝撃に対する耐性を見るためにRCCとタイルに対して断熱材による衝撃試験を行うとともに、衝撃による破損を正確に予見するためのコンピュータ・モデルの作成を行っている。
環境によるさびを防止するために、発射台には亜鉛含有量の多いコーティングが用いられている。飛行再開前に、NASA のケネディ宇宙センターでは射点の保守方法を改良し、RCCが酸化亜鉛に曝される度合いを減らし、亜鉛に起因するピンホールの形成を防止する対策を施す。さらに、検査の改良、構造物の保守管理、洗浄、構造物の保護、抜き取り検査などを強化している。
スペースシャトル・プログラムでは、飛行用に予備パネルの完全なセットを維持管理することとする。さらに、プログラムの長期的な使用を支持するために、追加の予備パネルを調達する必要があるかどうかも決定することとする。
断熱材の衝撃試験から、既存のコンピュータ・モデルを改良する必要のあることが明らかになった。NASA は、ミッションの安全性や成功に対して重要な査定を与える飛行前や飛行中のすべての解析ツールの適性を評価し、さらに、すべての必要な改良を行う。
NASA および米国空軍は、打上げ過程を視察するための地上設備の使用を改善することに取り組んでいる。スペースシャトルミッションの安全性を確保するために、さまざまな静止画と動画の機能について、静止画と動画の両方に最適なカメラ位置について、昼夜の受像可能範囲や、生中継と録画した画像について、および最低限の天候条件について、合同で評価を行っている。
NASA は、打上げに備えて、どのように設備を組み合わせるかを決定するが、その選択基準は、損傷の検出やエンジニアリング評価の機能を向上させることを確実にする。STS-114 では、日中に打上げを行い、点灯して外部燃料タンクを分離することにした。これによって、上昇中に3種類の有用なカメラによる画像を最大限に撮影することができ、エンジニアリング上重要な領域を特定することができる。
外部燃料タンク (ET) の分離後の画像をヒューストンのミッションコントロールセンターにダウンリンクできるように、NASA は機体のアンビリカルカメラの修正オプションの評価をすることとする。これらの画像を地上へダウンリンクするのが、リアルタイムで行われるか、あるいは安全軌道の確保後すぐに行われるかは、選択オプションによって決まる。STS-114 から開始してこれらの修正が完了するまで、フライトクルーは外部燃料タンクの分離を記録し、ミッションコントロールセンターに画像データをダウンリンクするために、手持ちのデジタル静止画像を使用することになる。
NASAは、注視すべき領域を映し出すために、上昇時に使用するカメラをスペースシャトルのETと固体ロケットブースタ(SRB)に取り付けることとする。飛行再開への短期的な取り組みとして、これらのカメラは、機体の熱防護システム(TPS)に許容できない損傷がないかを明らかにするために必要な、完全で高解像度の検査範囲を有する主方策を提供する軌道上点検を補完することになる。この上昇時に使用するカメラは、破片生成を減少させるため実施したETの改修の性能確認を含む、機体の状況に関する更なる貴重な技術データを提供する。STS-114では、オービタの翼前縁部及び下面のタイル面、並びに改修したETバイポッド接続部を映し出すため、ダウンリンク機能を備えたカメラをETに追加して装備する予定である。各SRBにも別のカメラがET中間タンク領域の映像を提供するために追加して装備される。後続ミッションでは、ET、並びにオービタ翼前縁部とクリティカルな着陸脚のドアとアンビリカル・ドア周辺を含む機体下面の殆ど全体について、複数の画像を提供するためにETとSRBに更に別のカメラを設置する予定である。長期的にはNASAは、機体取付型上昇時画像取得機能或いはセンサ組立を、軌道上検査の冗長方策となり得るかもしれないレベルまで改善することを評価する。
NASA は、STS-107 においては、コロンビア号の状態を評価するために、国家の機能 を十分に活用しなかった。NASA は、打上げ時、軌道上、再突入時における機体の状態を評価する支援を受けるために、NIMAや ほかの官公庁と契約覚書を締結した。NASA は国家の機能を利用するために必要な人員や職位を決定したので、実施手順を作成する。
NASA は、新たに代替技術が開発、導入されるまで、組込み式補助データシステムの維持管理が必要であると認識している。スペースシャトル・プログラムでは、組込み式補助データシステムレコーダの耐用年数を延長するために、現在、さまざまなオービタサブシステムのセンサ要件を再検討し、持続可能性の要件を評価・更新し、磁気テープの代替メーカを調査し、さらに手順の改善を行っている。
NASA は、組込み式補助データシステムに代わるものとして、システムの老朽化に対処し追加機能を備えた代替品を評価することとする。VHMS (Vehicle Health Monitoring System) は耐用年数を延長させるためのプロジェクトであり、既存の組込み式補助データシステムを、すべてデジタルによる業界標準計測機器に交換することを目的としている。VHMS では、強化された機能によりセンサの追加がより容易になり、スペースシャトルの保全状況の監視が著しく改善されるはずである。
NASA は、最新の技術を使用したシャトル配線の検査能力の開発に関するロードマップを作成している。最初のステップとして、この懸案を扱う最も効率的な方法を見つけるために、我々は産業界や他の政府機関と協力している。
外部燃料タンクは、前方分離ボルトによって、固体ロケットブースタ (SRB)の前方スカートに取付られる。打上げから約2分後に、発火装置が点火され、前方分離ボルトがそれぞれ2分割し、外部燃料タンクから SRB が分離されることになる。外部燃料タンクの接続器具に取り付けられたボルトキャッチャーには、分離ボルトの半分が保持され、もう半分のボルトは SRB 前方スカートのキャビティに保持される。STS-107 の調査では、ボルトキャッチャー組立の安全係数が、必須安全係数の 1.4 に対して、およそ 1 であったことが分かった。我々はボルトキャッチャー組立の設計を変更することとする。再設計したボルトキャッチャアセンブリおよび外部燃料タンク接続ボルトと締め具取付補強材の試験と設計評価は進行中である。
作業プロセスは承認審査の段階にあり、適正な処理を確実なものにするには、少なくとも2名の人員が最終工程の処理とET間部分のハンドスプレー作業を行うものとする。さらに、作業工程の強化と重要な施行特性に基づき、適切な品質対象指定がなされているかを確かめるための審査が行われている。
微小隕石および軌道上デブリ(MMOD)に関するシャトルの安全性を向上するため、NASAは、機体改修の可能性を評価している。例えば、新しいデブリ衝突センサー、次世代のタイルと歪み隔離盤(strain isolation pad)、改良型強化炭素複合材(RCC)、改善したクルーモジュール後方隔壁がこれに含まれる。さらに、ISSドッキング中のオービタのMMODへの曝露を減少させるために行うISSの他の改良と同様に、ISS上の別の位置にドッキングすることで得られる効果を評価しているところである。超高速衝突試験は続けられる予定であり、MMODに関するコンピュータシミュレーションとモデル化ツールであるBUMPERコードは、リスク軽減活動を支援するために更新される予定である。
異物混入について、NASA はすべての処理活動で一貫した定義を使用する。現在のメトリックは改善する必要がある。処理スケジュール全体を通して、異物混入の予防監視を行う。異物混入に関する研修を毎年実施するものとする。NASAとUSA社の職員はチームを作り、類似の産業界や国防総省の作業施設との比較を開始した。
我々の優先事項は、常に安全な飛行を実施し、ミッションを成功裡に達成することである。我々は必要なマイルストンが達成されたときにのみ飛行し、計画されたスケジュールによって追いつめられることはないようにする。
NASAは、その時々に利用可能な資源により構成されるシャトルの飛行スケジュールを採用し、それを維持する。スケジュールリスクは定期的に評価され、許容されないスケジュールリスクは延期される。NASAは、マニフェストに関する全ての制約事項を取り込み、通常の量の変更を受け入れるに十分なマージンを持ったシャトル打上げスケジュールプロセスを開発する。このプロセスは打上げ予備日、貨物/補給の予備日、そしてクルーのタイムラインの予備日を伴う。スペースシャトル・プログラム(SSP)は、現行の技術的、日程的、及びプログラム的リスクを評価するリスク・マネージメント・システムを強化させる。さらに、SSPは最近ISSに用いられたリスクマネージメントプロセスをも審査する。データはひとつのNASA Management Information System に保管され、Space Flight Enterprise の上級管理者がスケジュール実行度合(schedule performance indicators)とリスク評価をリアルタイムで視覚的に審査することができるようにする。
ミッション・マネージメント・チーム(MMT)は再編成され、通信、指令系統、また検討中のオプションの関連リスクを的確に評価できるためのチームの能力を改善する。明瞭な報告経路と正式な手順が整備され、上昇と軌道上画像分析からの気付き事項を審査する。この勧告を満たすため、この新しいMMT体制は飛行再開前にリアルタイム・シミュレーションにより訓練される。これらのシミュレーションでは、フライトクルー、フライトコントロールチーム、技術スタッフ、そしてMMTを、複雑なシナリオのなかで統合し、より良い問題認知と対応を習得するものである。さらに、打上げ後のハードウェア点検と上昇再現が実施される。このプロセスはまた、ミッション中の異常の再調査と対処、及びMMTにそれらの問題を認識させるためにも設置される。
以下の対応は勧告7.5-1、7.5-2、7.5-3、および9.1-1に適用されるものである。NASAは安全に、また来たる将来にむけて技術的優越をもって(スペース)シャトルプログラムを運営するための組織的構造と文化を整備する責任を負っている。NASAはオプションを十分に審査し、危険性を理解し、必要とされる変更を実行するに必要な時間を確保する。飛行再開前には、異なった分野によるチームが形成され、勧告の定義付け、設立、変更、そして実行のための詳細な計画を作成する。安全及びミッション保証局(Office of Safety and Mission Assurance)は、この勧告に関する中心的な役割を課された。
その第1段階として、NASAは最近、ラングレー研究センターにおいてNASA Engineering and Safety Center(NESC)を設立した。NESCは増強された技術及び安全評価を提供し、2003年10月1日から稼働する。安全及びミッション保証の本部事務局がNESCの予算提供とその独立性を保証する。
NASAは、オービタ・プロジェクトを含む全プロジェクトと要素をプログラムとして統合できるようにするため、スペースシャトル統合オフィスの役割を強化した。この新しいオフィス、シャトル工学及び統合オフィス(Shuttle Engineering and Integration Office)は、プログラムマネージャに直接報告を行う。統合管理会議(Integration Control Board)も強化され、メンバーが増強された。
中間での寿命認定はNASAのシャトル耐用年数延長作業(Shuttle Service Life Extension work)における主要な要素となる。シャトルを再認定する取り組みはコロンビア号事故以前に開始された。2002年の12月に、スペースシャトル委員会はすべてのスペースシャトル・プログラムとその構成員に、彼らのハードウェア認定及び検証要求の見直しを課し、プロセスと運用状態が元のハードウェア認証に一致していることを確認させた。これは、シャトル耐用年数延長を組み込んだ継続的なプロセスとなる。
NASAには、軌道上のトラブルシュートと地上運用の支援のために、主要なスペースシャトル・サブシステムの明瞭な写真と画像を敏速に収集できる能力が必要とされる。
NASAは、(シャトルの)主要部分の画像、およびデジタル画像データベースに記録されたものについての内容の認識と取得を行う。画像はデータベースに保管され、それらは上位図面、または機体のゾーン別所在(vehicle zone locator)と相互に関係付けられて参照することができる。広範囲のハードウェア完成画像の品質を改善するために、360°視野カメラと高解像度写真のような先端技術を取り入れることも含まれる。
NASAは、シャトル技術図面システムの向上に関する詳細計画を立案し費用を算出する。現在は策定フェーズであり、現在の設計文書の評価、開発図面転換標準整備、運用概念、システム構成、調達戦略などはまだ完了していない。このフェーズの結論として、デジタル・シャトル・プロジェクトは、シャトル技術図面システムの向上に関する詳細な計画の立案及び費用算出を行い、実行段階に移行するためにスペースシャトル・プログラムの承認を求めることになる。