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「生命誌からみた宇宙」 JT生命誌研究館館長 中村桂子 中村桂子 写真
東京生まれ。東京大学理学部化学科卒業、同大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了。理学博士。国立予防衛生研究所、三菱化成(現三菱化学)生命科学研究所、早稲田大学人間科学部教授などを経て、1993年に自ら提唱する「生命誌」の理念を実現する「JT生命誌研究館」を設立。1996年には大阪大学連携大学院教授に就任、2002年にはJT生命誌研究館館長に就任し現在に至る。著書には「自己創出する生命」「あなたのなかのDNA」「科学技術時代の子供たち」「生きもの感覚で生きる」など多数あり。 中村桂子 写真
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  Q.生命誌とはどういうものか教えてください。
 
生命誌研究館
生命誌研究館
生命誌絵巻
生命誌絵巻
 生命誌は、生命の歴史物語を読みとることです。英語の方が分かりやすく、Biohistory。“history”の語源を調べると、まず探求する。次にそれを誌(しる)すという意味があります。誌していくとそれが歴史になる。生きものは、このようにしてこそ見えてくると思っています。

 生命誌研究館を作ったのは2つの理由があります。
 1つ目の理由は、長くたずさわってきた生命科学は、DNAを基本にして生きもの全体を考えます。地球上の生きものの共通性が分かってきて非常におもしろいのです。日常見えるのは多様性ですから、生きものの共通性を見つけることは学問としてとても興味深いことです。けれども “アリもヒトも基本的には同じ”という共通性を見つけたうえで、なぜ“アリはアリ”で“ヒトはヒト”なのかという疑問が改めて出てきます。共通性と多様性は生物学の基本となる問いです。この問いを考えていた時に、ゲノム(DNA)という切り口は、多様性と共通性を共に考えることができるものだと気づきました。この問いを考えよう。これが1つの理由です。
 2つ目の理由は、現代科学は基本的に機械論的で、生きものを機械のように見ています。生きものを要素に還元していき、構造と機能を理解したら、生きものが理解できると思っています。しかし私は、そうは思いません。生きものは歴史的な存在なのです。ヒトがヒトになり、アリがアリとなるまでにどんな過程があったのかを知らなければなりません。以前は、それを知るには化石を調べるしか方法がなく、情報も少なかったのですが、現在は、ゲノムという切り口で、現存の生物の研究から歴史を見ることができます。ゲノムには各々の生物の歴史が刻まれているのです。例えば、私が今持っているゲノムは、両親からもらったものです。ではその両親はというと、そのまた両親からというようにずっとさかのぼるわけです。現存の生命の中にあるゲノムが歴史そのものです。しかも、生命の起源以来約40億年の歴史が入っているので、ゲノムを通して歴史を見て行くことができるのです。
 生命の歴史を読み解くことは、私たちが調べて読み解くということもありますが、生きものが生きていること自体、その歴史を読み解きながら暮らしているのです。ですから、生きものたちをよく見つめることは、彼らが読み解いてきた物語を聞かせてもらっていることでもあります。
 


Q.生命誌にとって宇宙とはどのような位置付けなのでしょうか?

中村先生 写真 現存の生きものは、どんな構造でどんな働きなの?という視点ではなく、どうして今のようになったのか?という見方をすると、少なくとも地球上に生命体が誕生した約40億年前にさかのぼります。今の生きものの共通の祖先は地球の海の中で誕生したと思われます。その海がある地球はどのように生まれたのか?という疑問が自ずとわいてきます。地球はどうして?となると、宇宙に眼が向きます。
 宇宙の始まりがあって地球が生まれ、その中で生きものが生まれて、今の私が存在する。このような時間的な流れの中で宇宙とのつながりがでてきます。これは生命誌の特徴です。
 宇宙がどのようなものか、どうやって誕生したのか、またその中でどうやって地球が生まれ、生きものが誕生したのかを知る意味でも、宇宙開発や宇宙探査には期待をしています。ぜひ宇宙を知りたいです。

 
 
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