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  Q.日本の宇宙開発は一般の方たちに分かりやすく伝わっていると思いますか?

中村先生 写真 まず大切なのは、皆が関心をいだく内容であることです。幸い、宇宙というテーマに夢を感じない人はいないと思います。そういう意味での入り口はクリアしていますね。
 しかし具体的な技術の理解までいくかというと、それは難しいと思います。ただ、私は「分かる」という言葉の意味はいろいろあってよいと思うんです。専門家が宇宙を分かっているのと、私が宇宙を分かるというのは同じでなくてもよいと思います。私なりに分かっていればよいのです。最近は子供の理科離れが問題になっていますが、今の科学の教育は、皆が同じレベルまで理解をしていないと、科学を理解したことにならないと思い込みすぎているのではないでしょうか。それぞれの人がそれぞれの見方で、一部分をかじったような形で興味を持っている状態を、何も分かっていないとか、ちゃんと伝えていない、社会の科学に対する理解度が少ないと思わなくてもよいと思います。
 宇宙開発についても、国民誰もが同じように理解しなければならないという方向に社会が動いていくのは、科学にとっても社会にとってもあまりよくないことだと私は思います。私が好きだからこのプロジェクトをやります。やらせて下さいと誰かが強く言ってもよいのではないでしょうか。全員が理解できることだけをやっていたら、おもしろいこと、思いがけないことは出てこないでしょう。もっとも私は、国家の費用で仕事をしていないため、こういうことが言えるのかもしれません。
 宇宙開発には国のお金をたくさん使っていますから、皆に、こんなことをやってくれるとよいなあと思ってもらえることは大事です。国家予算が大きくなったり、国の政策として考えなければならない場合は、それに対応した活動が必要になると思いますが、くどいようですが、私は“本当に大事なことは何か”を徹底的に考えて、是非それをやりたいと思う人が挑戦できることは重要だと思っています。
 
 
Q. JAXAは教育活動にも力を入れていますが、教育についてはどう思われますか?

サマースクールで講義をする中村先生
サマースクールで講義をする中村先生

 以前、アフリカなど発展途上国の農業のお手伝いをしたことがありました。そこで、生活の基本は公衆衛生と教育だと実感しました。余裕ができたから教育を受けるのではなく、教育は社会をつくるための基本です。皆がどのような社会をつくるのかを考えるには、まず教育から始めなければなりません。
 日本は、明治以来、基本的な教育はみごとに行い、国を作ってきたはずなのに、ここへ来て教育が何のために行われているのかがはっきりしなくなりました。
 そんな中で、教育の基本が行われていると実感したのが農業高校でした。農業高校は公立ですから、ここのところ県の財政難から、普通高校の総合科に組み込まれてしまうケースが見られます。せっかく基本があるので是非これを生かしたいですね。
 毎年、岡山県の農業高校の生徒からランをいただくのですが、それは生徒が3年間かけて育てたランです。それはとても美しく丈夫で、そのランに「可愛がってください。でも可愛がりすぎないでください」と書いてあります。高校生が書いてくるのです。これは生きものに接する基本です。子供を育てているお母さんに言いたいことですよね。それを3年間ランを育てると、高校生が外に向かって言えるまでになるのです。どういう時に水をやってくださいという指示もあります。生命の接し方は具体的にはこういうことですということも分かっているわけです。ずっと生きものを相手にしていると、そういうことを言える自信が出てくるのでしょう。
 その他にもこういうことがありました。ある生徒が、肥料をあまり与えないですむように巨峰を品種改良したのですが、それは巨峰を育てているおじいさんを見ていて大変だから、少しでもおじいさんの手間を減らすためでした。結果的には手間を省くだけでなく、肥料のお金もかからなくなり、安全性も高まりました。それを高校生が卒業までにやり遂げたのです。
 生物学についてたくさんの知識を暗記で記憶するのとはまったく違う生きものの理解でしょう。このような行動のためには、自ずと知識も必要になり、勉強もすることになります。
 大切なのは、自分からやりたいという気持ちであり、そういう環境をつくることだと思います。今申し上げたことは生物についてですが、宇宙でも同じことが言えるのではないでしょうか。


 
 
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