Q. 今後の宇宙探査の成果に何を期待しますか?
私は、生物学はとてもおもしろいと思いますが、科学という目で見た時には不足なものでもあります。ニュートンが発見した万有引力の法則は、地球上でリンゴが落ちるのも、遠いところで星が動いているのも、同じ法則で考えることができ、全てに共通します。しかし、今私たちが調べている「生きもの」は地球上で生まれたものです。これは非常に特殊なものを見ているだけかもしれないのです。
私たちが生きものと呼んでいるのは、自分と同じものを増やし、代謝や進化をするものですが、そういった生きものが地球外の何処かにいて、それが地球上のものと同じなのか違うのかを調べることができれば、生物学が普遍性をもちます。科学として、宇宙全体で生物学という学問を成り立たせるためには、地球外のどこかの生きものを調べたいのです。
地球上に最初に生まれたのは一個の細胞でした。その一個の細胞からこれだけ多種多様な生きものたちが生まれてきたのです。地球上の生きものと同じように、歴史を重ねて存在しているものが他の星にもきっとあるだろうと私は期待します。
現在の太陽系探査で生物がいるかいないかを判断する根拠は「水」の存在です。この地球になぜ私たちのような生きものが生まれたのかと言われると、液体の水があったからなので、私たちと同じものを生きものとしてイメージすると、やはり水があるか、または過去に水はあったかという視点で探査していくのが基本的な考え方だと思います。
また、最近は宇宙空間にさまざまな物質があることが分かってきていますが、それは炭素系物質が多いんです。炭素でできているとすると、やはり地球上の生きもののDNAと似たものを持っているのではないかと考えたりもします。なぜならDNAはとてもよくできた物質ですから。ただこれはあくまでも想像で、全く違うものがいるかもしれません。
宇宙探査は生命誌の問いとつながっています。
Q.先生が生物学に興味をもたれたきっかけは何ですか?
私は最初、化学を学んでいました。小さい頃から理屈でものを考えるのが好きで、化学反応で違うものが生まれるというのがおもしろかったのです。実を言うと、高等学校の時は、全部記憶という生物学が好きではありませんでした。
しかし、大学1年生のときに読んだ生物の代謝のダイナミズムを扱う本で生物のおもしろさを知り、さらに大学3年の時にDNAに出会ってその形に魅了され、生物にますます興味をもつようになりました。DNAの二重らせん構造は美しく、それが身体の中にあるというのが不思議でした。分子の世界にこんなにきれいなものが存在しているのかどうかを確かめたくなり、大学の先生から借りた図を見ながら、クラスメイトと竹ヒゴと紙粘土でDNAらせん構造の模型を作ったほどです。あれはきっと日本で最初のDNAのモデルだったと思います。
後に、イタリア語から翻訳した、生物の歴史に関する本の内容をチェックしていた時に、高校の生物の時間に暗記させられた有顎類と無顎類の違いには大きな意味があるということが書いてあったのです。顎がない時は、流れ込んでくるプランクトンを食べるしかありませんでしたが、その後、顎ができたので、積極的にものを追いかけて自分からエサを取って食べるようになったと書いてありました。そのことを知った時、顎はすごいと思いました。今まで受け身だったのが、自分からエサをとるようになることは、世界が変わるということですから。もし高校の授業でこう教えてくれれば、生物はおもしろいと思ったに違いありません。事実関係だけでなく、なぜ?というおもしろさを伝えて欲しい。それが欠けていることは今の教育の問題点ですね。
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