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 Q.2004年1月に米国ブッシュ大統領が、有人月面探査の再開と火星への有人飛行実現を目指した新宇宙政策を発表しましたが、将来の有人探査に何を期待されていますか?

月面基地の想像図
 
有人火星探査の想像図
 ブッシュ大統領がアメリカの新宇宙政策を発表したのは、私が宇宙に滞在している時で、私は宇宙から大統領に挨拶させていただきました。
 大統領が発表したビジョンは全くもって正しいものだと私は信じています。アメリカ人のみならず、人類が月に戻るべきだと思います。また、有人火星探査のためのベースキャンプ(前進基地)として月を利用するべきだと思います。実現するためにはいくつかの問題点がありますが、それを解決し、これから15〜20年以内に月面基地の建設を実現してほしいと思っています。また、国際宇宙ステーションが人類を月に導いてくれるベースキャンプになるべきだと考えています。
 国際宇宙ステーションを月に行くためのベースキャンプ、そして月は火星に行くためのベースキャンプとして利用するという考えは、それに伴う技術を開発、発展させるということでもあります。素材と装置を結集させ、用意を整え、それが機能することを証明し、目標を設定して月、そして火星へと向かう。それを達成するためにも、国際宇宙ステーションを完成させる必要があります。アメリカ人の観点から考えると、たとえ費用がかかったとしても、国際パートナーに対する義務を果たすべきだと思います。各モジュールを維持するべきです。日本やヨーロッパのモジュールを国際宇宙ステーションに取り付け、国際パートナーと共にそれを活用していく必要があります。
 それと同時に、地球の軌道から月へ行くために必要な技術を開発するためにも、国際宇宙ステーションの生命維持装置などの設備をさらに発展させる必要があると思います。また、スペースシャトルの代替えとなるものをできるだけ迅速に開発する必要もあります。日本とヨーロッパのモジュールを取り付けたらすぐにスペースシャトルの飛行を止め、宇宙ステーションのみならず月にもクルーを輸送することができるロケットを開発するために、全ての力を注ぎ込むべきだと私は思います。


 Q.フォール博士はミール滞在時にプログレス補給船の衝突事故を経験されていますが、このような危険があるにも関わらず、人類が宇宙探査に挑戦する理由は何だと思われますか?

実験容器に水を注ぐフォール宇宙飛行士
 
微小重力下における手と腕の筋肉の動きの違いを見る実験を行うフォール宇宙飛行士
 
   この質問には2つの要素があります。1つ目は、なぜ宇宙を目指したがるのか、なぜロボットを送り込むだけでは駄目なのかということです。科学目的だけであれば、望遠鏡を使ったり、ロボットを送るなど、人間を送り込まず遠隔操作によって宇宙観測をすることは可能です。しかし、ロボットには見えない、嗅げない、触れられないものが多々あります。操作するロボットの近くに人がいれば、地球から遠隔操作している人よりはるかに多くの疑問を抱くことができるでしょう。研究や知的好奇心の本質という点から考えると、現時点では人間がロボットをはるかに超えています。ですから、人間を送るのが、宇宙探査を最大限に活かす方法なのです。しかし費用の面では、人間を送る方がロボットを送るより10倍高くつきます。ですから、人間が行うこととロボットが行うことにはバランスが必要です。
 人が宇宙を目指すもう1つの理由は、宇宙探査をすることによって、地球で暮らす人類の可能性を高めることです。人間が地球の軌道だけでなく、月や火星に行くことを視野に入れ、将来火星での居住を実際に検討していれば、万が一、隕石が地球に衝突するなどの大災害に見舞われたとしても、人類が太陽系の別の天体で生き延びることができる可能性が広がります。ですから、宇宙探査は単なる子供じみた好奇心によって駆り立てられたものでなく、長期的な人類の生存にかかわる問題なのです。
 私がミールで事故にあい危険な思いをしたにもかかわらず、なぜ今も宇宙探査に従事するのか。それは、宇宙探査の意図、興奮、興味というものが、宇宙船での事故や負傷、死亡する可能性を圧倒しているからです。ミールで事故が起きた時はかなり危険な状況だと思いましたが、それでも、もう宇宙へ行くのを止めようという気持ちになるほどではありませんでした。

 
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