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「国民が参加できる宇宙開発を」
			米国惑星協会 エグゼクティブディレクター
			ルイス・フリードマン
			米国惑星協会は非営利の民間団体で、1960年代、アメリカの初期の惑星探査をリードした天文学者のカール・セーガンらが中心となって1980年に創立されました。民間のみの資金でソーラーセイル宇宙船を打ち上げたり、火星の音を聞くマイクをNASAの探査機に搭載させるなど、独自の国際協力プロジェクトを推進しています。米国惑星協会は特に教育に重点を置き、参加型のプログラムで、一般の方たちの宇宙探査への関心をめてきました。協会の責任者でもあり、数々の国際プロジェクトを遂行してきたフリードマン博士にお話をうかがいました。
<ルイス・フリードマン Louis Friedman>
米国惑星協会(Planetary Society)のエグゼクティブディレクター/事務局長。
1961年、ウィスコンシン大学で応用数学と工学物理で理学士号、1963年、コーネル大学で工学力学の理学博士号、1971年にはマサチューセッツ工科大学で航空学・宇宙航行学科で博士号を取得。民間宇宙企業を経た後、1970年から1980年にジェット推進研究所(JPL)で深宇宙探査ミッションの計画に携わる。また1978年から79年、アメリカ上院議会で商業・科学・交通委員会のスタッフを務め、1980年に米国惑星協会を共同設立。惑星協会が推進するソーラーセイル宇宙船「コスモス1」のプロジェクトディレクターを務める他、世界各国の宇宙共同プロジェクトの場で活躍している。
夢の恒星間飛行を目指して
Q.現在どのような探査ミッションを進めていらっしゃいますか?
私が責任者を務める米国惑星協会では、世界初のソーラーセイル(太陽帆)宇宙船の実現にむけて取り組んでいます。ソーラーセイルとは、風の力を利用して海を進む帆船のように、宇宙空間に拡げた巨大な薄膜に太陽光(光子)を反射させて宇宙船を推進します。アメリカや日本、ヨーロッパ、ロシアで研究開発が進められていますが、実際に宇宙船を作り、打ち上げまで行ったのは私たちが初めてです。民間資金400万ドル(約4億5千万円)を投じて、ソーラーセイル宇宙船「コスモス1」を2005年6月にロシアで打ち上げました。しかし残念ながら、この打ち上げは失敗に終わりました。ロシアの弾道ミサイルを改造したロケットを使いましたが、このロケットがうまく機能しなかったのです。そのため、私たちは再度資金調達をしなければなりませんが、この挑戦をこれからも続けていくつもりです。なぜなら、人類が将来、恒星間飛行を行うためには、燃料を搭載する必要がないソーラーセイルが重要だと思うからです。
ソーラーセイル宇宙船「コスモス1」
Q.民間資金で惑星探査をすることは難しくないですか?
確かに惑星探査を民間資金で行うことは難しいと思います。私たちはソーラーセイルを打ち上げるために400万ドルを調達しましたが、それは地球の軌道を周回する実験的な宇宙船で、惑星探査をするものではありません。実際の宇宙探査ミッションには何千万ドル、何億ドルという資金が必要ですから民間レベルで行うのは現実的ではありません。現在、民間企業で月への飛行に挑戦している方たちがいますが、非現実的だと思います。宇宙探査は国が行うべきことなのです。宇宙では常に何かが起こり、探査は困難を極める非常にリスクが高いものです。また、宇宙探査によって得られる「知識」「発見」は社会全体に対して利益あるもので、すぐに見返りが得られるものでもありません。ですから、政府が行うべきであり、経済的利益を目的とする人が見返りを求めて投資するものではないのです。
宇宙探査は一般の人との重要な架け橋
Q.ここ数年、アメリカ政府は宇宙開発予算を削減しています。特に宇宙科学の予算が少なくなっていますが、どう思われますか?


現在、私たちは、「マーズ・エクスプロレーション・ローバー」「カッシーニ・ホイヘンス」「はやぶさ」など、ミッションの成功を実感できる幸運な時代にいるといえるでしょう。これらは国家の資金によって行われ、それによって私たちは、科学、発見の喜び、未知の世界への探究心を満たされてきました。しかし、ミッションはいつも成功するとは限りません。国の資金を費やしても、よい結果につながらない場合もあるのです。そういう点で、政治家に科学探査の重要性を理解してもらうのに苦労しています。
宇宙探査ミッションから得られる一番の恩恵は「インスピレーション」です。特に子供が興味を抱き、科学や数学をはじめとする多くの科目を学習する手助けとなります。このことを政治家に理解してもらうのがとても難しく、国益にはならないという理由で、宇宙探査の予算が削減されてしまうことがあります。現在アメリカではNASAの宇宙科学予算が削減され、いくつかの宇宙探査ミッションが中止にされていますが、私はそのことに懸念を抱いています。
同様に、日本やヨーロッパ、ロシアの宇宙機関でも宇宙科学予算が削減されているようですが、これは間違っていると思います。火星や土星での新たな発見や、「はやぶさ」の活躍によって、一般の方たちはとてもわくわくしました。おそらく一般の方は、宇宙科学ミッションの価値について理解をしてくれていると思います。私たちが説得しなければならないのは政治家です。
Q.米国惑星協会からNASAに助言を行っていますか?
私たちは、NASAを初めとする世界中の宇宙機関に様々な助言を行っています。一番の目的は、一般の方たちの宇宙への関心を代表することだと考えています。助言というよりは、むしろ宇宙探査を継続させ、一般の方たちを巻き込んでいくよう働きかけるといった方が正しいかもしれません。宇宙機関や政府は、一般市民の関心を忘れがちですが、それは間違いです。宇宙探査は、一般の人々に宇宙へ関心を持たせるとても重要な役割を担っているのです。
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