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日本が世界に勝てる技術を活かす

Q. 今後、日本の宇宙開発を活性化するためにどうすべきだと思われますか?





第一に思うのは、宇宙を本当に使いたいという人の層が弱いことです。そこを強くしないと駄目だと思います。例えば、宇宙科学の世界では、「とにかく宇宙でデータをとりたい」と熱意をもって研究している方たちがいて、そういう世界はうまくいくと思います。何故なら、限られた予算を大事に使いますし、絶対にやろうという意識が高いですからね。ところが、他の分野は、「本当に宇宙を使いたい」という熱意で動いているかというと、そうは見えません。NASAがやっているからやる、という雰囲気なんです。
まずは、「本当に宇宙をやりたい」という人がどれ位いるのか、「どういう分野で宇宙をやりたいのか」を明確にすることが必要だと思います。そのために、ユーザーコミュニティーを作るべきだと思います。例えば、制御技術や通信技術などそれぞれ学会があり、技術のコミュニティーはたくさんあります。宇宙科学の分野はコミュニティーが強いですが、他の分野はユーザーのコミュニティーがあまりありません。使う人のコミュニティーがないとどういうことが起こるかというと、例えば、最初にミッションを企画してプロジェクトを立ち上げた人が、異動で担当からはずれた場合に、その衛星を何のために利用するかが分からなくなることがあります。ですから、宇宙を利用して何をしたいのかという熱意を強くもっている人たちの主導で、ミッションやプロジェクトが興っていくような仕組みを作ることが必要だと思います。そうしない限り、お金の無駄遣いになってしまいますし、衛星を作ったけれども誰も使う人がいないという状況に陥ってしまいます。ですから、ユーザーありきのミッションというのを、しっかりやっていただきたいと思います。
また、宇宙開発におけるしっかりとしたビジョンを持ってほしいと思います。ビジョンとは何かというと、捨てることだと思います。何かを採用するのではなく、何かを捨てるというのがビジョンなんです。何かを実現するために予算を集中投入するためには、何かを捨てなければなりません。あれもこれも大事と言って何も選択しなければ、良いものがより良くはならないし、高いレベルまで達しないと思います。特に日本は宇宙予算が少ないですから、小さいNASAを作っても仕方ありません。NASAがやっている全てのことを少しずつやっても、二番手三番手で終わってしまいます。そうではなく、「これを捨てて、これに集中してやる」ということで世界に勝負していただきたいと思います。
その観点から言いますと、これは手前味噌かもしれませんが、超小型衛星の開発は絶対に世界に勝てると思います。海外の方たちに「CanSat」や「CubeSat」を見せると、彼らは日本人の学生が作ったものがあまりにも精巧にできているため大変驚きます。日本人は小さい物に機能を詰め込むという技術に優れていて、海外の方が5つ機能を盛り込めるとしたら、日本人はそこに7つ8つ機能を詰め込めます。現在、世界で打ち上げられている超小型衛星が何機かありますが、最初に打ち上げたのは東京大学と東京工業大学であり、今でも動いているのはその2つの大学が打ち上げた衛星だけで、計4機あります。ある枠が決められていて、そのサイズの中で何かを詰め込みなさいといったときの、日本人の発想力は素晴らしいと思います。超小型衛星のように世界に勝てる技術は他にもあると思いますので、こういった技術にもっと注目していただき、それを活かせる宇宙開発プロジェクトを推進してほしいと思います。また、先ほど申し上げた小型衛星の打ち上げの継続的な支援なども含めて、周りのインフラストラクチャーをしっかり整えていただきたいと思います。


Q. 今はどのような超小型衛星を開発なさっているのですか?


開発中の超小型衛星「PRISM」(提供:東京大学中須賀研究室)


2008年頃までの打ち上げ予定で、「PRISM(プリズム)」という超小型衛星を開発しています。これまでは、衛星が宇宙で本当に動くのか、教育目的として衛星プロジェクトが成り立つのかというのを実証するためのミッションでした。これから作る衛星は、何かの役に立つ衛星にしたいと考えています。これまで打ち上げた2機の「CubeSat XI」にはカメラが搭載されていますが、「PRISM」ではもっと解像度の高い、予定としては地上で30mぐらいの分解能の解像度のカメラを搭載します。大きさは約20cm立方で、重量は約5kgの予定です。
衛星のサイズを大きくすればカメラの解像度も高くなるとは思いますが、衛星を大きくすると、作るのにもっとお金と時間がかかります。また部品が多くなると故障も起こりやすくなります。ですから、衛星のサイズを大きくしない中で、どこまでのことができるかを追求していきたいと思います。大学の研究室でできる大きさのリミットは10kgだと思っていますので、今後作る衛星に関しても、10kgより大きくするつもりはありません。
「PRISM」がこれまでの衛星と違うところは、カメラの分解能ですが、その他に、カメラの首が伸びるというのも大きな特徴です。分解能を高くするためには望遠レンズにしなければなりませんが、最初から大きく作ってしまうと打ち上げの時にかさばってしまいます。ですから、打ち上げの時には小さく縮めておいて、軌道上で約80cmに伸びる仕組みを考えています。この伸展の技術が確立したら、「ふろしき衛星」の発想と同じで、小さく打ち上げて、軌道上で大きく展開するのが可能になります。小型衛星にとっては重要な技術ですから、何としてでも成功させたいと思っています。



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