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国際宇宙ステーション


日本実験棟「きぼう」

Q.国際宇宙ステーションが世界の宇宙機関に対して大きな財政負担になっていますが、これを意義あるものにするためにどうしたらいいのでしょうか?

国際宇宙ステーションは1984年に初めて計画が発表されて以来ずっと問題を抱えています。国際宇宙ステーションの設計にも随分と時間がかかりましたが、アメリカが最も信頼しているパートナーは日本でした。日本は1985年に参加を表明して以来、いかなる状況下でも実験棟「きぼう」の開発を続けてきました。
1990年代にはロシアの参加も決まり良かったのですが、このことにより計画が遅れてしまいました。ようやく建築を開始したのが2000年、そしてコロンビアの事故です。この事故によって建設作業が3年中断し、スペースシャトル計画の続行が懸念されました。日本も随分心配されたように、「きぼう」の打ち上げもあわやキャンセルかと思われました。しかしようやく続行が決まり、「きぼう」も打ち上げられます。もう事故は許されません。ほかの構成部分も打ち上げられ組み立てられます。次なる課題は、宇宙ステーションのフル活用です。現在は建設に手一杯ですから、本格的な作業開始は2009年か2010年になるでしょう。
アメリカ政府が発表した宇宙探査におけるプライオリティ(優先順位)の変更は、説明不足であり、アメリカの将来的なコミットメントを不確かなものにしました。この件に関して私はアメリカ政府とNASAにもっと考慮するよう、また、国際宇宙ステーションの建設を終えた2010年以降、関係諸国の宇宙ステーション活用を保証するアメリカの意向を明確にするよう提言しています。
これだけ長い年月と何十億という円、ドル、ユーロが費やされた挙げ句の果てに、施設をフル活用しないのは愚かです。アメリカ国内でも宇宙ステーション利用の手だてを検討するよう訴える声が増えてきました。しかし、問題は限られた予算です。ブッシュ政権はNASAに予算の増加なしで月に戻ること、スペースシャトルを飛ばして宇宙ステーションを完成するよう伝えました。NASAは十分な資金なしに、膨大な仕事を依頼されたわけです。私は次の政府がこういった現状に気づき、もう少しNASAに予算を与えてくれるよう願っています。日本やヨーロッパの宇宙機関が政府からもう少し予算が欲しいのと同じです。宇宙関係の分野では、関係者の意欲に見合う予算が与えられることは稀です。
宇宙ステーションは施設が利用され良い研究成果と利益が出てくると、それに従い見直され、適当な予算を出す価値があると判断されるでしょう。最終的には良い結果になるだろうと私は信じています。


Q.今後世界の宇宙開発は、人類の未来のためにどのような分野に力を入れるべきなのでしょうか?

型通りの答えに聞こえるかも知れませんが、私にとって宇宙はあくまでもさまざまなことを行う「場所」です。地球の人々に直接的に貢献するため、宇宙で何ができるかを探りながら開発を進めていく方法もあるでしょう。それからもう1つは、実現までにかなり長い道のりですが、人類の生活域拡張と移住、つまり人間が他の惑星にも居住できるようにすることです。実現するかどうかはともかく、月に長期用の基地を建設するのか、火星へ行ってある程度滞在するのか、あるいは月や火星には価値がないから地球に留まることになるのか、これらは21世紀の興味深い問いです。私は個人的に、人類の未来は1つの場所に限らないと考えています。「21世紀の始まりとともに再び月へ戻る」ということは、これから何世紀もかけて人類が太陽系へ移動していく序幕になるかも知れません。


Q.ログスドン先生は、米連邦航空局の民間宇宙旅行に関する委員もされていますが、現在の民間宇宙旅行の状況と今後の展望について教えてください。

私が関与しているアメリカ政府の商業宇宙輸送諮問委員会は、国内の民間企業が主に通信衛星を軌道上に打ち上げる業務を支援する目的で設立されました。しかし、ここ2〜3年で状況が変化してアメリカ連邦航空局(FAA)の商業宇宙輸送部門が民間宇宙旅行の規定を作成しはじめました。最近、軌道ではなく準軌道に限ってですが、割と簡単に行けるようになってきたみたいです。この分野での可能性が期待されています。ほんの5分や10分でも宇宙から地球を眺めたり、無重力空間を体験できる奇抜な宇宙旅行は、何十億ドルもの価値がある大きな市場となることでしょう。2021年までには、年間2万人が準軌道飛行を体験しているかも知れません。
そのうちには民間による軌道旅行のシステムもできるでしょう。例えば、あるアメリカの起業家は、軌道上のホテル建設に興味があるようです。そういえば何年も前に、日本企業も宇宙観光や宇宙ホテルについて話していました。
私は21世紀には政府機関の宇宙飛行士だけでなく、一般人も個人旅行で宇宙へ飛び立つようになると思います。とても楽しみです。


Q.今後宇宙開発は、民間と政府機関がどのような分担で行うべきでしょうか?

過去にも見られるように、まず政府が道を整えて基盤を作り、後に民間が活動を開始するパターンになると思います。そのためにも政府が進んで宇宙探査をする必要があります。月などの宇宙探査は、民間がリーダーシップを発揮することではなく、国家規模の連携で進めていくべきであるというのが私の意見です。しかし、民間企業が宇宙で利益を出せるか試すことは可能でしょう。
政府と民間の関係はパートナーシップという形になると思います。政府が民間企業のクライアントになるかも知れません。アメリカではNASAも5億ドルを費やしたCOTS(商業軌道輸送サービス)という企業支援プログラムが始まり、宇宙ステーションへの物資運搬システムの開発のため、民間から2社が選ばれています。いずれは物資のみならず人間も対象になるかもしれません。もし民間がこういったシステムを開発できたら、NASAや政府は自分たちで開発するよりも民間から宇宙輸送システムを購入するようになるでしょう。このような政府と産業界のパートナーシップは、新産業分野の確立のためにも生産的で非常に良い関係だと思います。

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