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「地球温暖化を防止するために〜地球が呼吸する様子を見てみたい〜」 温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)プロジェクトマネージャ 浜崎敬
GOSAT(Greenhouse Gases Observing Satellite)は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの濃度分布を高精細に観測します。2005年2月に京都議定書が発効され、先進国の温室効果ガスの排出量を1990年水準から6〜8%削減することになりました。その目標を達成するためにも、世界各地域の温室効果ガスの吸収・排出の状況を把握することが必要です。GOSATは、地球温暖化防止へ向けた国際的な取り組みに貢献します。2008年度の打上げに向けて開発の最終段階に入ったGOSATの浜崎プロジェクトマネージャに話を聞きました。
温室効果ガスの濃度分布を徹底的に調べる


温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT) の熱構造モデル


Q.温室効果ガス観測技術衛星GOSATの主な目的を教えてください。


主な目的は3つあります。1つ目の目的は、温室効果ガスの世界中の濃度分布を精度よく、高頻度で観測することです。温室効果ガスは、地球温暖化をもたらす一番の原因と言われています。温室効果ガスにはいろいろありますが、温室効果の60%を占めるのが二酸化炭素で、20%を占めるのがメタンガスです。GOSATはこの2種類の温室効果ガスの濃度分布を詳細に測定します。
2つ目は、大陸や面積が大きい国を単位として、一定期間にどれだけの温室効果ガスが吸収あるいは放出されたかを調べることです。2005年2月に発効された京都議定書では、2008年から2012年の期間に、先進国の温室効果ガスの排出量を削減することが求められています。日本の場合は、1990年に比べて6%の削減、アメリカは7%、欧州連合(EU)は8%と削減目標を示していますが、実際の排出量は各国の自己申告レベルで、温室効果ガスを測定する全世界共通の手段がないのが現状です。その国の石油の消費量や、車の走行距離、排出ガスなどを推定して、排出量を算出しているにすぎません。ですから、GOSATによる観測で、大陸ごと、大国ごとに温室効果ガスの吸収排出量を推定することができれば、そのデータが1つの検証手段となります。
3つ目の目的は、それらに必要な技術。精度の高い温室効果ガスの観測技術を開発、確立することです。


Q.温室効果ガスが地球の温度を上昇させる原理を教えてください。



温室効果のしくみ

地球の大気の温度は、太陽から入ってくるエネルギーと、宇宙空間へ放出するエネルギーのバランスによって決まります。太陽からのエネルギーの大半は可視光で入ってきます。太陽からの可視光は大気を通り抜けて地面に到達し、地表を暖め、その暖まった地表の熱は赤外線として地球外に放出されます。地球に入ってくるエネルギーが、出て行くエネルギーより多いと地球の温度は上がり、出て行く方が多いと温度が下がります。その中で、温室効果ガスには赤外線を吸収してしまうという特別な性質があり、地球から出て行こうとする熱をブロックしてしまいます。ですから、温室効果ガスがあればあるほど地球の温度が上がってしまうという原理になっています。
しかし、地球上に温室効果ガスが全くないと、私たちの生活は快適に保てません。地球の平均気温は約15度に保たれていますが、もし温室効果ガスがないと−18度、今より33度近く気温が低くなると予測されています。ですから、ある程度の温室効果ガスは必要なのです。ただし、温室効果ガスが増えすぎると、地球の気温が上がるだけでなく、異常気象をもたらす気候変動を起こします。したがって、温室効果ガスの濃度を一定の範囲に抑え、安定させることが重要です。



温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS)


雲・エアロソルセンサ(TANSO-CAI)

Q.GOSATにはどのような観測機器が搭載されるのでしょうか?


2つのセンサが搭載されています。温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS)と、それを補助するための雲・エアロソルセンサ(TANSO-CAI)です。
温室効果ガス観測センサは、太陽から放射されて地表面で反射した赤外線を観測します。赤外線は、二酸化炭素やメタンといったガスを透過する際に、特定の色、すなわち特定の波長をもつ成分だけを吸収するという性質があります。その波長はガスの種類によって決まり、また吸収する量は透過したガスの濃度に比例します。この原理を用いて、大気中の温室効果ガスの濃度を詳細に測定します。
雲・エアロソルセンサは、温室効果ガス観測センサの観測精度を上げるための補助センサで、温室効果ガス観測センサの誤差の要因となる雲やエアロソルを観測します。温室効果ガス観測センサは、地面を反射した光を測定するわけですが、雲があると、雲の表面で反射した光を測ることになってしまいます。それでは、地表に近い大気中の正確な濃度を測ることができません。雲のないところでは、温室効果ガス観測センサによって正確な測定ができますから、雲の有無を識別してデータを補正する必要があります。また、エアロソルは大気中に浮遊している微小粒子で、ばい煙の煤のようなものから、海からの塩などいろいろな種類があります。その種類ごとに、ある高さで光を反射してしまいますので、これもちゃんと存在を知っておかないと、誤差になってしまいます。
センサは2つありますが、この2つを使って、「温室効果ガスの濃度を測定する」という意味では、本当に単一目的の衛星です。


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