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地球が呼吸する様子を見てほしい

Q. GOSATによる観測で最も期待していることは何ですか?


私は、地球が息継ぎしているところを見てみたいです。生態系も含めて、地球が二酸化炭素やメタンガスを吸ったり吐いたりしている様子を、ありありと見えるようにしたいです。しかも、その二酸化炭素が風で流れたりするわけですから、その様子を皆さんに映像でお見せすることができたら、かなり大きなインパクトを与えることができるのではないでしょうか。これが一番の期待です。特に、子供たちに地球が呼吸する様子をダイナミックな映像で見せたいですね。実際に地球温暖化の影響を受けるのは、今の子供たちが大人になる頃です。だからこそ、子供たちに地球のことをよく分かってほしいと思います。GOSATは、50年後、100年後の全人類のための衛星ですから、その時代に生きる子供たちにGOSATの成果を見せたいと思います。
次に、世界中のメタンガスの漏れを検知して、温室効果ガス削減に大きく貢献することです。アメリカやシベリアなど、世界にはたくさんの天然ガスのパイプラインがあります。実は、その何千キロといったパイプラインから、天然ガスがかなりの比率で漏れています。現時点の推定では、1.5%くらいが漏れていると言われていて、これが温暖化の大きな原因になっています。GOSATでは、漏れている場所を10kmくらいの単位で観測できると思いますので、その漏れを早く検知して、迅速に修理すれば、それだけで温室効果ガスの大きな削減になると思います。もちろん現在もガスが漏れていれば分かりますが、「100kmの中のどこかで漏れている」という程度しか分からない測定方法です。これでは漏れている場所を探すのに時間がかかります。この辺についてはまだ手付かずですが、パイプラインを持っている国や会社に直接働きかけるような仕組みを、できれば構築したいと思っています。JAXAとしてもかなり国際的な社会貢献できるのではと期待しています。


京都議定書は未来への大きな一歩

Q.GOSATは京都議定書に基づいて計画された衛星ですか?


もともと京都議定書とは関係なく、1999年に地球環境変動観測ミッションGCOM-A1(Global Change Observation Mission-A1)という科学目的のプロジェクトとしてスタートしました。GCOM-A1は、オゾンなどの大気中の微量成分を測定して分析するという衛星でした。そのような中で、1997年に京都議定書が議決され、プロジェクトの見直しが行われたのです。京都議定書の目標を達成するためには、私たち人間が活動する陸上の二酸化炭素をしっかり測る必要があります。しかし、GCOM-A1の観測方法では十分に測定できないことが分かりました。当時の方法は、センサを太陽に向け、衛星から見た日の出、日の入り時の非常に明るい光をもとに大気中の成分を分析するというものでした。これでは、地表に近いところの濃度を正確に測れません。ですから、2002年から2003年にかけて全面的にプロジェクトを見直し、観測の原理も変えました。高度3km以内の温室効果ガスの濃度を調べるために、センサの方向を地球方向に向け、地表で反射する太陽光を測定するようにしました。また、センサの感度を上げる必要もありました。さらに、地球温暖化防止のために二酸化炭素とメタンガスを徹底的に調べるという目的に変更しました。大気について科学研究をする科学衛星から、実利用の実証衛星へとなり、名前も温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(Greenhouse Gases Observing Satellite)に変えました。プロジェクトチームができたのは2003年4月ですから、それから4年が経ちました。特にセンサは、GCOM-A1のものと全く変わってしまったわけですが、この短期間で非常に良いプロジェクトになったのは、このプロジェクトを共同で推進している環境省、国立環境研究所やGOSATサイエンスチームなど関係者の皆さんのお陰だと思っています。また、衛星が小回りの利く中型衛星で、「温室効果ガスの濃度を測る」という単一ミッションであったからできたのだと思います。


Q.京都議定書は温暖化防止政策として十分なものなのでしょうか?それ以前に、地球温暖化についての議論はありましたか?


温室効果ガスが増えると、地球が温暖化するんじゃないかという検討は1920年頃からありました。二酸化炭素が倍になったら地球の温度が何度上がるかという計算を世界で初めて行ったのは、日本人の気象学者である真鍋淑郎博士で1960年代のことです。その頃から、地球温暖化というのが非常に大きな問題であるということが徐々に広まってきました。しかし、その当時は温暖化について分からないことが多く、人間の排出する温室効果ガスは海洋に吸収されるという説や、火山の爆発や太陽の活動期による影響の方が大きいという説などさまざまな論争がありました。
1988年に、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が作られ、1000人以上の科学者が、地球温暖化に関する報告書を執筆、査読しています。IPCCによる報告書は、世界中の科学者の叡智の結集です。報告書では、「地球温暖化は間違いない事実であり、人間が出す温室効果ガスが温暖化の主要な原因である」と結論づけています。地球温暖化に関する長年の論争には完全に終止符が打たれ、じゃあこれからどうしようか、という未来への確かな一歩が京都議定書によって踏み出されました。地球温暖化防止というのが全世界の共通認識となり、これまでは、災害が起きてから対策をとるということで手一杯だった人間が、100年先を見通して今後の対策を打とうというのですから、非常に大切な一歩だと思います。
ただし、私は京都議定書ではまだ不完全だと思っています。京都議定書では、温室効果ガスを1990年水準から6〜8%削減することを目標にしていますが、それでは削減量が足りません。平均気温の上昇を2度までに抑えるためには、温室効果ガスの排出量を3分の1とか4分の1に減らす必要があるとの報告もあります。地球の気温が数度上がると何が起こるかというと、巨大台風が来たり、異常な高温や低温があったりと気候が不安定になります。それが起こる限界が、プラス2度までだと言われています。気温が2度以上上がると、気候変動だけでなく、北極の氷が溶けて温暖化が急激に加速されるんじゃないかとか、蚊が媒介するような伝染病が広がるんじゃないかといったようなことも言われています。
京都議定書では不完全だと言った理由には、排出量の削減目標が少ないということ以外に、温室効果ガスを最も出しているアメリカや、次に排出している中国が京都議定書の枠組みの外にあるということです。世界の国別の排出量を見ると、アメリカが1番、中国が2番、ロシアが3番、日本が4番です。アメリカや中国、そして世界の全ての国が1つになって、地球温暖化に対する取り組みを進めるべきだと思います。そうしないと、私たちの地球が大変なことになってしまいます。


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