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国際協力によって地球を守る

Q.世界各国とはどのような協力関係があるのでしょうか?



温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)


アメリカの炭素観測衛星OCO
(提供:NASA)


世界で計画されている温室効果ガスの観測衛星は、GOSATの他にもう1つあります。2008年の秋に打ち上げられる予定のアメリカの炭素観測衛星OCO(Orbiting Carbon Observatory)です。これは、二酸化炭素のみを観測する衛星です。先ほど、アメリカは京都議定書を批准していないと申し上げましたが、アメリカも温室効果ガスの削減が必要だということは認識しています。京都議定書が設定する「アメリカは7%削減」という目標は国益に合致しないということで議定書から離脱していますが、技術開発によって7%以上の削減をすると言っていますし、アメリカは州単位で削減への取り組みを行っています。
OCOとGOSATは同じような目的の衛星ですから、同じような技術課題をかかえています。そのような課題を克服するために、協力計画がいくつか立てられています。例えば、打上げ前にセンサの精度を測る測定器を交換して、お互いの物差し(観測基準)をそろえたり、あるいは、打上げ後も、データを相互比較して共同で校正実験をするといった計画もあります。また、利用計画についても話し合いが行われているところです。お互いの観測原理は違いますが、両方のデータを合わせて使うことによって、世界の状況がより詳しく分かります。日本とアメリカから、GOSATと OCOの両方のデータを配布できるようになれば、世界の科学者が同時に2つのデータを使えるようになります。これを私たちは、ワンストップショッピング(one stop shopping)と言っていますが、1ヶ所であらゆるデータを提供できるよう、現在アメリカの関係者と話し合いを進めています。
同じような協力体制は、ヨーロッパともあります。ヨーロッパには現在、温室効果ガスを定常的に測定する衛星の計画がありませんから、ヨーロッパの研究者は日本やアメリカのデータを使うしかありません。現在、私たちがヨーロッパと話し合いをしているのは、データ伝送に関する協力についてです。GOSATからのデータは、日本の鳩山局と、ノルウェーのスバルバード局で受信する予定ですが、ノルウェーからのデータ伝送に、ヨーロッパのネットワークを無料で使わせてもらう代わりに、欧州宇宙機関からヨーロッパの研究者にGOSATのデータを配布するという協力の話し合いが進行中です。
特に、地球観測衛星には国際協力が不可欠だと思います。宇宙から地球を観測すると、日本だけを観測するわけではなく、自動的に世界中を観測できてしまうわけです。そういう意味でも、データは世界中の方々にどんどん使っていただきたいですし、使っていただくユーザの声を聞くことによって、観測精度も上がっていくのだと思います。私は、たくさんの方にGOSATのデータを使っていただくのを大変嬉しく思います。



目に見えないからこそ、知識と知恵で削減を

Q.日本人は、地球温暖化への関心が高いと思われますか?


日本人の温暖化への関心はとても高いです。私たちはこれまでに「GOSATシンポジウム」を3回開催しましたが、シンポジウムには一般の方もたくさん集まっていただいて、非常に活発な質疑応答が行われました。海外から来ていただいた方に、「どうしてこんなに日本の一般の方の意識レベルが高いのか?」と質問されるほどです。これは、「京都議定書」という日本の地名の名前が付いているからかもしれません。そして、二酸化炭素の温暖化について、日本がパイオニアであることも影響していると思います。1970年代から研究を始めた真鍋博士に始まって、日本は観測地点をたくさん持っています。GOSATの観測データは、温室効果ガス世界資料センターから配布されると申し上げましたが、これは、世界気象機関(WMO)の組織で、実は、日本の気象庁が運営しています。要するに、現在、温室効果ガスのデータは、すべて日本に集まり、日本から世界に配信されているのです。また、日本航空の日本―オーストラリア間の定期航空便に温室効果ガスの測定器が付いていて、1993年から14年間にわたって月に2回データを取り続け、温室効果ガス世界資料センターから配信されています。これは、世界の研究者の中では大変有名なデータです。このように、気象や気候変動の分野で日本はこれまでに大きな貢献をしてきていますから、そういったバックグラウンドがある上で、GOSATが出てきて、そのデータが世界に配られるのは、ある意味では当然のことなのかもしれません。
しかし、残念なことに、日本が温室効果ガスを削減できているかといったら、そうでもありません。京都議定書で、日本は6%削減することを目標にしていますが、減らすどころか7%も増えていて、合計で13%も減らさなければならないというのが現状です。世界の国別の排出量が2番目に多いのが中国だと申し上げましたが、実は人口比で見ると、日本の方が1人あたりの排出量は多いのです。中国は世界の平均値くらいですが、日本は世界の2.5倍もあります。ですから、日本人が3分の1にしても世界並みということになります。
最近では、「クールビズ」や「チームマイナス6%」といったキーワードが大々的にメディアで取り上げられましたし、東京には「ストップおんだん館」というのがあって、温室効果ガスに関するいろいろな資料を無料で配布しています。また、地球温暖化防止活動推進員という制度があって、全国で5000人ぐらいの方がボランティアで活動をされています。このように、日本人の温暖化に関する意識が高いにも関わらず、なぜ温室効果ガスが減らないのでしょう。二酸化炭素は、どれだけ減らすといくらになるとお金に換算できるものでもないし、もし増えても目に見えないため変化が分かりません。たとえ知識と意欲があっても、日本人が温室効果ガスを削減できない理由は、ガスが目に見えないからかもしれません。
日本では、温室効果ガスが増えると大変だという意識が非常に高いのですが、最近は「6%減らさなきゃいけないのに、7%も増えちゃってどうしよう」で止まっていて、その先がなかなか見えてこないような気がします。ヨーロッパは温暖化対策を取り始めるのが遅かったのですが、最近では、いつ、どういう対策を始めるかといった具体的な議論をかなり進めています。最近イギリス政府が発表した「スターンレポート」というのが話題になっていますが、その報告書では、今放っておいて何か問題が起きた時に対策をかけた場合の費用と、今から予防的に対策をとった場合の費用を比較したところ、今から対策をとった方が数分の1の費用ですむという数値が出ていました。さらに、2007年3月に行われたEU首脳会議では、2020年までに1990年比で温室効果ガスを20%削減するという、京都議定書の期限が切れる2013年以降を想定した政策を打ち出しました。ヨーロッパに一歩遅れをとってしまった感じの日本ですが、私たちの生活の中でできることはまだまだあります。例えば、白熱電球を蛍光灯にするだけで消費電力が5分の1になります。知識と知恵があれば、温室効果ガスを削減することは可能です。日本人は一人一人がそのことを意識する必要があるのかもしれません。

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