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世界に誇る日本の天文学研究
			国立天文台台長 海部宣男
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海部宣男(かいふ のりお)
国立天文台 台長
理学博士(東京大学)。専門分野は電波天文学、赤外線天文学。野辺山宇宙電波観測所、45m電波望遠鏡等の建設に従事。ハワイのすばる望遠鏡計画の責任者などを経て、現在、国立天文台台長。日本学士院賞「星間物質の研究」(1997)、仁科記念賞「ミリ波天文学の開拓」(1987)。主な著書に、「宇宙史の中の人間」(講談社プラスα文庫)「宇宙の謎はどこまで解けたか」(新日本出版社、1995年)、「宇宙をうたう」(中公新書)など多数。




Q.現在国立天文台が注目している研究は何ですか、またどのような方向に注目していますか?

 国立天文台は、世界でもめずらしい天文学の総合的研究所です。電波、光赤外、重力波、理論、地球物理など天文学のほとんどの分野をカバーしていますので、特にこういう研究を追求するというように細かく目的を限定することはありません。例えば、すばる望遠鏡は現在国立天文台の中心的装置ではありますが、この望遠鏡を使って行う研究は太陽系から宇宙論まで、宇宙のほとんどの天体現象を研究するわけです。野辺山の電波望遠鏡にしても、同じことです。

すばる望遠鏡写真 もちろんそうはいっても、例えば、すばる望遠鏡を作ったらこういう研究を進められるだろうということで、研究者グループが注目する分野はあります。例えば、宇宙の初期の観測です。すばる望遠鏡は、宇宙の遠くにある天体を見つける機能が世界でもダントツに優れています。遠くにある天体というのは非常に昔の天体ということになりますから、それをたくさん見つけることによって、宇宙の膨張の最初の頃、銀河が生まれたその時期にいったいどういう現象が起きたかを調べることができます。
 また、これから国立天文台が国際共同で建設する「ALMA」(アルマ: Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)という非常に大きな電波望遠鏡の場合も、遠くの宇宙を観測するだけでなく、地球のような惑星がどうやって生まれたかも調べることができます。太陽という恒星の周りをたくさんの惑星が回っているのが太陽系で、地球はその一つです。これを私たちは惑星系と呼んでいますが、実は同じような惑星系は宇宙に無数にあることが、最近分かってきました。私たちが空を見た時にたくさんの星が光っていますが、その十に一つの星の周りには惑星が回っていると思ってもよいくらいです。その惑星がどうやって誕生したのか、あるいは生命が存在する惑星の観測は可能なのかということは、ある意味では宇宙論以上に、21世紀の天文学の大きな中心テーマになると思います。



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Q.ご自身が興味をお持ちの分野は何ですか?

 私は、惑星と宇宙の生命に興味があります。つまり、他の星の周りを回っている惑星や、そこに生命がどう生まれたのかということですが、これは誰もが関心があることでしょう。

コロナグラフ+補償光学撮像装置CIAO写真  野辺山の電波望遠鏡を作ってずっと研究していたことの一つは、宇宙の冷たい雲=暗黒星雲の中にどういう物質が出来るかというテーマでした。その中に有機物がたくさんあるということがわかってきました。有機物は生き物の元で、タンパク質にしても遺伝子にしても、みんな炭素の化合物である有機物が元になっています。その有機物が宇宙にたくさんあるのです。このことは、30年前には誰も想像できなかったことでした。それが電波望遠鏡によってどんどんわかってきましたが、私が野辺山の電波望遠鏡で観測を始めた1980年代はじめは、はちょうどそのスタートの時期でした。
 そういうわけで、宇宙の中で有機物のような物質を含む暗黒星雲がやがて惑星を生み、そして、その上で生命が生じるという、宇宙の中での物質から生命への流れというようなものを追求していけるのではないかという気持ちは、このころからありました。ですから、すばる望遠鏡を作るときに、私はCIAO(コロナグラフ撮像装置)という明るい天体のすぐ近くにある暗い天体の画像を撮影できる装置を提案しました。これは、他の星の周りに惑星があれば、すばる望遠鏡ならきっと見つけられるかもしれないという思いで提案したものです。望遠鏡の設計が始まったその当時は、まだ星の周りに惑星があることまでは分かっていませんでした。そのCIAOを若い人が頑張って作り、本当に他の星をまわる惑星を見つけたいと、いま観測を続けています。


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