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世界に誇る日本の天文学研究
			国立天文台台長 海部宣男
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Q.すばる望遠鏡のこれまでの大きな成果は何ですか?

 すばる望遠鏡の本格的な成果は、これからだと私は思っています。完成して実際に活動を始めてからまだ3年ですから、そろそろ望遠鏡として脂がのり、いろいろな装置が100パーセント稼働して自由自在に性能を発揮しはじめています。ある意味、こういうものは永久に完成しません。複雑な装置がいろいろあり、それを使い込んで良い性能を出す。さらに頑張って改善すれば、想定した以上の良い性能を出すこともできるわけです。ですから私たちはいつも改良・性能改善との戦いです。常に良くしていくのです。他の望遠鏡も改善してきますから、競争してお互いに良くなり、次々に新しい観測ができるというわけです。
 実は、すばる望遠鏡ほど複雑で高精度、しかもいろいろな観測機能を持った8m級望遠鏡は世界中にありません。いま口径8メートル級の望遠鏡は、ヨーロッパが4台、アメリカは4台、日本は1台で計9台が世界で動いていますが、日本は1台だけですから、そこにいろいろな機能を集中させました。望遠鏡というとやはりまず、きれいな画像を撮らなければなりませんが、その性能は世界一です。世界中の観測者が来て他と比較し、これはすごいと言っています。まずは、それがすばる望遠鏡の第一の成果でしょうか。

すばるが撮影した最も遠い銀河(距離128億光年)写真 搭載された装置を使った観測が既にたくさん行われていますが、一番華々しいのは、先程申し上げたような非常に遠い天体を次々発見していることです。すばる望遠鏡は宇宙の遠い天体観測のレコードホルダーで、今見つかっている遠い天体を一番遠い順から10並べると、そのうち9つまではすばる望遠鏡が発見したものです。すばる望遠鏡は微かな像をとらえる能力が高いため、非常に遠くの天体を次々に見つけているのです。何故遠いかすかな天体を見たいかというと、遠くは宇宙の始まりに近いところだからです。例えば、現在は宇宙の誇張が始まってからおよそ137億年と言われていますが、すばる望遠鏡が発見した一番遠い銀河(それぞれがおよそ1千億の恒星の集まり)の距離は128億光年向こうで、そこから光が来るまでに128億年かかりますから、128億年前の銀河ということになります。つまり宇宙の膨張が始まってから9億年経った銀河です。137億年経った今の銀河の年齢を仮に50歳とすると、9億年しか経っていない銀河はまだ3才すぎの幼児ということになります。そういう意味からすると、すばるは宇宙膨張がはじまったばかりの頃の宇宙に迫っています。これに関してはすばるの独壇場というとちょっと言いすぎですが、いま世界をリードしているのは確かです。他にも太陽系内の現象から遠い銀河まで発見した成果はいろいろあり、毎月ニュースになっています。


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Q.国立天文台が旧文部科学省宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)と一緒におこなったプロジェクトで印象に残っていること、大きな成果をあげたことは何ですか?


 旧宇宙科学研究所(宇宙研)と天文台で一緒に進めたプロジェクトでは、太陽の観測が一番歴史があります。X線で太陽を観測した最初の衛星「ひのとり」は、当時の東京天文台の、太陽の研究者である田中教授(故人)が宇宙研の先生と一緒に打上げました。宇宙研にはX線観測の伝統があり、天文台には太陽研究の伝統があります。その両方が一緒になって取り組んで非常にうまくいったケースです。その後も第二世代の太陽X線観測衛星「ようこう」ではたくさんの素晴らしいデータを得ました。「ようこう」プロジェクトは、天文台の小杉教授が宇宙研に移ってマネージメントをするという形で、両者が完全に一体となって進められましたが、その成果は世界に誇れるものです。そして現在はさらに第三世代の「SOLAR-B」という太陽観測衛星を打ち上げる準備が進んでいます。世界的にもはじめての太陽を観測できる光の望遠鏡で皆から期待されています。

世界初の宇宙VLBI衛星「はるか」のアンテナ展開テスト(1998年)写真 また私は電波天文が専門ですが、特に印象に残っているのは世界最初の宇宙VLBI衛星「はるか」です。これはM-Vロケットの1 号機で打ち上げられ、8メートルもあるパラボラアンテナを伸ばして展開するという世界でも初めての試みでした。8メートルもある電波望遠鏡をどうやって打ち上げるかを研究し、成功させたことはすごいことです。大冒険でした。実はこれも、天文台の野辺山宇宙電波観測所でVLBI(超長基線電波干渉計)の中心的存在だった平林先生が宇宙研に移って進めたプロジェクトです。私の大先輩である森本先生が、提唱者でした。
 その他にも「はるか」には初めての試みが多く、宇宙軌道上の電波望遠鏡と地上の望遠鏡を結んで、地球より大きな直径2万キロメートルの巨大な望遠鏡を作って、観測を行っています。銀河の中心にある巨大なブラックホールから電波を発する粒子がどのように噴出するかなどの現象をたくさん観測して、新しい成果を出しています。「はるか」は非常に難しいことをめざした工学試験衛星であるにもかかわらず、科学観測も含めて85パーセント以上成功しているのは、驚異的なことだと思います。最近は失敗ばかりが取り上げられますが、日本の宇宙科学・宇宙技術は世界に冠たることをやってきているのですから、成功したことをもっと堂々と取り上げるべきだと思います。


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