Q. 今年から始まったSTAR計画とは、どういう取り組みでしょうか?

小型衛星のシステムを検討するSTAR計画の参加者
STARとは、Satellite Technology for the Asia-Pacific Regionの略で、「アジア太平洋地域のための衛星技術計画」というのが正式名称です。アジアの宇宙機関からは、小型衛星を使って環境監視や災害監視をしたいというニーズが非常に高く、小型衛星に関する国際協力ができないかと、APRSAFでずっと議論されていました。そこで、2年前に小型衛星技術の人材育成計画をJAXAから提案し、1年間の検討の後、今年からいよいよ実施することになりました。
STAR計画の具体的な取り組みは、JAXAの相模原キャンパスに、アジアの宇宙機関からのエンジニアや研究者が集まり、まず、300〜500kgの小型衛星のシステムを共同で検討します。そして、打ち上げも念頭に置いて、50〜100kgの超小型衛星を実際に製作する予定です。
2009年4月に相模原キャンパスにSTAR計画の事務所をオープンし、6月1日より本格的にアジアからの参加者の受入れを開始しました。すでに、インドネシアとタイからの参加者が来日しています。STAR計画には、現在、日本、韓国、インド、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムの7ヵ国が参加する予定で、日本と韓国、インドが指南役となります。STAR計画の目標は、将来的には、今回の参加者がそれぞれの国に帰って、独自に小型衛星を作れるようにすることです。また、将来、今回の参加国が、共同で衛星を計画するときに、スムーズに協力が進むように、お互いの技術や文化を知り、緊密な人と人とのネットワークが結ばれることが期待されています。
Q. STAR計画によってどのような効果を目指しているのでしょうか?
APRSAFは国際協調で進められており、参加している宇宙機関にとって魅力ある国際協力企画を提案したいというのがありました。そこで、アジアは小型衛星に対するニーズが高いため、それに応えようということで、JAXAはSTAR計画を提案しました。
小型衛星は小さいため、衛星打ち上げ実績のない国にとって、最初に始めるには手頃です。インドや韓国はすでに自分たちで開発した小型衛星を打ち上げ、その技術を海外にも提供しようとしています。マレーシアやインドネシア、タイも小型衛星の開発を始めています。このように、アジア地域の小型衛星の技術は明らかに進歩し、小型衛星開発の機運は高まってきていますので、今後、災害監視や環境観測の衛星群やそのシステム構築において、各国の小型衛星を使った具体的な国際協力が実現すると思います。例えば、日本が衛星を作るときにインドや韓国の部品を使ったり、日本の衛星のデータをインドネシアで受信して利用する、というような国際協力へとつながることを期待しています。
Q. 国連など国際機関は、APRSAFのようなアジアの取り組みをどのように評価していますか?

「センチネル・アジア」に協力する陸域観測技術衛星「だいち」
昨年ベトナムで開催された第15回APRSAFには、国連宇宙空間平和利用委員会アレバロ議長も参加されるなど、APRSAF活動は国際的にも注目されています。その中でも、国連の関係者から、「センチネル・アジア」は非常に高く評価されています。そして、宇宙技術と国連等が持っている地域のネットワークを融合させて、災害への対応や環境の改善など、地域が抱える問題の改善に向けて新しい協力を展開したいと言われています。その一環として、国連が中心となって作る、「国連防災・緊急対応衛星情報プラットフォーム(UN SPIDER: United Nations Platform for Space-based Information for Disaster Management and Emergency Response)」という災害監視の国際組織と「センチネル・アジア」の協力を行う予定で、現在、そのための準備を進めています。
また、今年の3月に、国連の地域委員会の一つである、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP: Economic and Social Commission for Asia and the Pacific)が主催するアジア防災委員会が行われた際にも、ESCAPの事務局長から、「地域の宇宙機関と協力して、これから宇宙技術を使った災害監視・環境監視に取り組んでいきたい」と期待感を表明されています。
Q. 欧米の宇宙機関からは、アジアでの取り組みについてどのような反応を得ていますか?
APRSAFにはアメリカのNASAも参加していますが、特に「センチネル・アジア」に関しては、使いやすく実用的なシステムだと言っています。「センチネル・アジア」のシステムは、世界で使われている共通のプラットフォームを使用し、インターネットにつながる場所であれば、パソコンですぐに利用できます。初期費用もほとんどかかりません。誰もがいつでも何処でも使える、効率的なシステムである点を評価していただいていると思います。また、アジア防災センター(ADRC)を中心とした地域の防災専門機関と緊密に連携している点も注目されています。
また、すでに、欧米諸国の宇宙機関とは、国際宇宙ステーションを中心とした宇宙協力活動を緊密に行ってきていますが、「APRSAFにおける先導役」としてのJAXAのアジア諸国の中でのもう一つの顔に、欧米宇宙機関は新鮮な驚きを感じているようでした。
Q. JAXAのアジア諸国との協力においては、ODA(政府開発援助)などとも連携しているのでしょうか?
JAXAは、開発途上国の経済や社会の発展、技術向上などに役立つことを目的としているODAと連携して、アジア太平洋地域における宇宙利用を長期間、定常的に行えるよう取り組んでいます。すでに、ODAを活用した国際協力で、インドネシアの森林監視、泥炭火災の監視、ブータンの氷河湖の監視などに貢献しています。また、ODAで行われている、アジア諸国の地球観測データ利用技術者の訓練など、アジアの人材育成にも協力をしています。
Q. ASRSAFなどの取り組みによって、日本の宇宙開発や宇宙産業は、どのようなベネフィット(利益)を受けると思われますか?
ASRSAFなどの国際的な取り組みによって、他の国の宇宙機関がどのような考えや計画を持っているかという情報交換ができます。さらに、「センチネル・アジア」など具体的なプロジェクトでは、災害監視のデータや、水資源管理の情報など、日本だけでなくアジアのすべての国の利用機関にとって、具体的な恩恵が出てくると思います。もちろん、APRSAFには産業界も参加していますから、産業界としても、アジア諸国からのニーズや期待を知ったり、また、アジア諸国に何が役立つのか情報提供するなど、情報の共有や、情報交換もできます。また、STAR計画を通して日本の宇宙技術に親しんだエンジニアや研究者が、各国宇宙機関と日本の宇宙産業とのパイプ役として貢献してくれるものと期待しています。かつて、日本の自動車や電化製品がアジアを含めて世界に進出し、安くて良質な製品による豊かな生活につながったように、日本の安全・安心に貢献する最先端の宇宙関連の製品や技術が海外に進出していき、アジアを含めた世界の安全・安心に貢献する1つのきっかけになっていくかもしれません。
Q. APRSAFによってアジアの宇宙機関との連携の輪は広がっているのでしょうか?
APRSAFでは、参加国と参加機関に対して、具体的なプロジェクトを率先して提案してほしいと呼びかけています。インドからは、宇宙環境実験でインドの回収カプセルを使用するという具体的な協力案が出されています。また、韓国もAPRSAFに積極的に参加しています。そのような中で「センチネル・アジア」で緊急観測する衛星も、日本やインドの衛星だけでなく韓国も参加するなど、アジア各国との連携は今後さらに強化されると思います。そして、宇宙利用の促進を目的として、各国がイニシアチブを取る機会も増えていくと思います。