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果てしない宇宙の謎にせまる 〜日本が誇る天文観測衛星の成果と未来〜 X線で見る高エネルギーの宇宙 X線天文衛星「すざく」プロジェクトマネージャ 満田 和久 「すざく」は日本で5番目のX線天文衛星で、2005年に打ち上げられました。広い波長のX線を、高感度かつ高精度に観測できるのが特長です。宇宙では、ブラックホールや銀河団など、巨大な重力を持つ天体で、さまざまな高温・高エネルギー現象が起きています。「すざく」は、この激しく活動する宇宙の姿をとらえ、宇宙の構造や進化を研究します。

Q. これまでの代表的な成果は何でしょうか?

「すざく」ミッションの重要なテーマは、現在の宇宙現象を見て、そこから宇宙の進化の過程を明らかにすることです。これまでの代表的な成果を紹介しましょう。

見えてきたブラックホール周辺の時空構造

銀河の中心が非常に明るく、高エネルギーを放射する銀河を活動銀河といいます。その中心、活動銀河核には、太陽の質量の数百万から数億倍以上の質量をもつ巨大ブラックホールが存在し、そのブラックホールにガスや塵が落ち込む際に、周辺に降着円盤を形成します。1993年に打ち上げたX線天文衛星「あすか」の観測により、ブラックホール周辺の降着円盤のガスからの放射には、鉄の原子が放つX線(鉄輝線)が含まれていて、そのスペクトルは、幅の広い特徴ある形を持つことが分かりました。その後、ヨーロッパのX線天文衛星「XMMニュートン」によっても確認されましたが、「すざく」の観測精度はさらに高く、波長が短く高エネルギーの硬X線から、波長が長く低エネルギーの軟X線まで、幅広い帯域を同時に観測できるため、輝線の形をより高い精度で決めることが可能になり、ブラックホール周辺で起きている現象を全体的にとらえることができるようになってきました。
「すざく」は、1億2000万光年先にある銀河MCG-5-23-16を観測しました。なぜ、波長の幅が広がっているのかを調べていくと、ブラックホールの強い重力場が影響していると考えるとうまく説明できることが分かってきます。広がりの幅が非常に大きい場合には、ブラックホール自身も高速で回転していると考えられます。つまり、強い重力場が回転することで、周辺の時空がひきずられるような効果が見えているのかもしれないのです。将来もっと高精度の観測装置ができれば、ブラックホールが作る時空構造がさらに明らかになると思います。宇宙の銀河や星が誕生した時に、巨大ブラックホールも一緒にできたと考えられていますので、ブラックホールやその周辺を詳細に観測できれば、宇宙がどのように進化していったかを解明するヒントになります。

活動銀河核の想像図(提供:NASA E/PO, Sonoma State University, Aurore Simonnet)
活動銀河核の想像図(提供:NASA E/PO, Sonoma State University, Aurore Simonnet)

降着円盤の想像図と「すざく」が捉えたMCG-5-23-16からの鉄輝線近傍のスペクトル。幅が広いX線はブラックホール近傍の降着円盤から、幅の狭いX線はブラックホールの遠方から放射されていると考えられている。
降着円盤の想像図と「すざく」が捉えたMCG-5-23-16からの鉄輝線近傍のスペクトル。幅が広いX線はブラックホール近傍の降着円盤から、幅の狭いX線はブラックホールの遠方から放射されていると考えられている。

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新しいタイプのブラックホールを発見
新しいタイプのブラックホール
新しいタイプのブラックホール

トーラスに囲まれたブラックホール(提供:C.M. Urry and P. Padovani)
トーラスに囲まれたブラックホール(提供:C.M. Urry and P. Padovani)


一般的に、活動銀河核にある巨大ブラックホールは、「トーラス」と呼ばれるドーナツの形状をした分子雲に囲まれています。活動銀河には、可視光の明るさ、X線のスペクトルなどさまざまな個性がありますが、これは、トーラスを通して見ているからだとか、ジェットを上から見ているからというような、単に観測する方向の違いから生じるとされてきました。ところが、「すざく」の観測によって、ドーナツ形状のトーラスではなく、ほとんどブラックホール全体を取り囲んでいるような構造がないと説明がつかないようなデータが出ました。大量の物質によって覆い隠された、新しいタイプのブラックホールの発見です。このように、厚い壁によって見えなかったブラックホールが、宇宙にたくさん存在しているのかもしれません。あるいは、この新しいタイプのブラックホールは誕生間もない姿で、これが進化していくと、トーラスに囲まれた標準的モデルのブラックホールになるのかもしれません。
宇宙の大構造形成期に盛んに起きていた超新星爆発

137億年前に誕生した初期の宇宙には、水素とヘリウムしか存在しませんでした。そのほかの、鉄や酸素、炭素などの元素を「重元素」と呼びますが、これは星の中で作られたと考えられています。重元素は、超新星爆発の過程で吹き飛ばされ、宇宙空間に還元されます。銀河が数百個ほど集まって形成されている「銀河団」と呼ばれる天体があります。その中の銀河と銀河の間の空間は、強い重力のため数千万度に熱せられた高温ガスで満たされています。この高温ガスの中にも重元素が含まれています。これまでは、シリコンから鉄までの元素が主に観測されてきましたが、「すざく」は、酸素から鉄までを一度に高感度に観測できます。その特徴を活かし、この高温ガスの中の重元素を調べました。
超新星爆発には2つの典型的タイプがあり、重い星が爆発した「II型」と、比較的軽い星が爆発した「Ia型」があります。酸素やマグネシウムのほとんどはII型超新星爆発から作られ、鉄は主にIa型超新星爆発から作られます。「すざく」が決定した重元素比は、II型超新星爆発が、Ia型超新星爆発よりも約3倍も多く起きていたことを示します。現在、銀河団中では、重い星が爆発するII型超新星爆発はほとんど見られません。このことから、銀河形成期には重い星がたくさん作られて、それが盛んに爆発して重元素を放出していたと考えられます。
また、銀河団の重力圏の外縁部と言える銀河団中心から500万光年も離れた場所にも、重元素が広く存在していることを明らかにしました。それだけ広い範囲で重元素が広がるためには、銀河から宇宙空間への重元素の放出が、今からおよそ100億年も前に起きたことを示しています。


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AWM7銀河団のガスが放つX線。明るい方がX線の強度が強い。下図はX線のスペクトルで、印をしたところに重元素からの輝線が存在する。(提供:東京理科大学 佐藤浩介研究員)
AWM7銀河団のガスが放つX線。明るい方がX線の強度が強い。下図はX線のスペクトルで、印をしたところに重元素からの輝線が存在する。(提供:東京理科大学 佐藤浩介研究員)


  
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