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果てしない宇宙の謎にせまる 〜日本が誇る天文観測衛星の成果と未来〜 赤外線で探る宇宙の冷たい世界 赤外線天文衛星「あかり」 プロジェクトマネージャ 村上  浩 2006年に打ち上げられた「あかり」は、日本で初めての赤外線天文衛星です。赤外線は、温度の低いところを観測するのが得意で、また可視光が塵によって遮られてしまう暗黒星雲も見通すことができるので、冷たいガスや塵、誕生したばかりの星や銀河を見ることができます。「あかり」は、幅広い波長で、宇宙の広い範囲を高精細に観測できるのが特長です。「あかり」によって銀河の進化や星の一生を解き明かします。

Q. これまでの代表的な成果は何でしょうか?

全天を観測したのが一番大きいですが、その他にも、特定の領域や天体をねらった観測を5000回以上行っています。膨大なデータの分析には時間がかかりますので、まだ初期の観測成果しか発表できていませんが、その中からいくつか紹介しましょう。

宇宙の地図・赤外線全天マップの完成
「あかり」がとらえた全天地図
「あかり」がとらえた全天地図

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全天地図に含まれる天体の位置を示したプロット図
全天地図に含まれる天体の位置を示したプロット図

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「あかり」は、全天の94%にわたる遠赤外線マップを完成させました。これは、1980年代の赤外線天文衛星IRAS以来24年ぶりのことで、解像度もはるかに高くなりました。この地図は、私たちの天の川銀河を地球から真横に見たもので、中心から横に銀河が伸びています。中心の特に明るくなった部分は、銀河の中心方向です。ここには、塵だけでなく、年老いた赤く、明るい星(赤色巨星)が密集しています。また、銀河の帯やその周辺に、ところどころ明るく見えるところがあります。これは、星が盛んに生まれている場所で、誕生したばかりの星で温められた塵が強い赤外線を放ち、明るく輝いています。「あかり」が作った全天マップを見ると、私たちの銀河系のどこで、どれくらいの星が生まれているかがよく分かります。
また、国際協力を行っている欧州宇宙機関(ESA)の解析チームによって、全天地図に含まれる天体の位置を示したプロット図が作られました。この図には、これまでに知られている銀河や星と一致するものだけで50万個を超えますが、対応する天体がないものも数多く含まれています。これらの中には、「あかり」が初めて検出した天体も多く、楽しみな結果ですが、宇宙線が赤外線センサーにぶつかることによって作られた偽りの天体などもあります。例えば、赤い点で示されているのは、偽りの天体の可能性があるものです。また予想していなかったのですが、人工物である静止衛星も写っているようで、詳しく見るとなかなか楽しい図になっています。つまりこの図にプロットされているのは玉石混淆で、現在、玉と石を選り分ける作業が続けられています。

星が誕生する現場を明らかに

「あかり」は星が生まれる現場をとらえました。質量の大きな星は、最後に死ぬときに超新星爆発を起こしたり、また吹き出すガスや強烈な紫外線によって、その周りの星間ガスを吹き払って空洞をつくります。空洞の周囲にかたまったガスは圧縮されて濃度が濃く、そこで新しい星が生まれます。質量の重い星が誕生すると、それがまたガスを吹き払って周りに掃き寄せ、そこから星ができます。このように連鎖反応が起きて、星の誕生と死は繰り返されます。
天の川にあるはくちょう座には、赤外線で輝く明るい領域があります。この領域では、太陽系から3000〜10000光年程度の範囲にある天体が重なって見えています。数多く見られる明るく輝いている天体は、大質量の星が生まれている場所です。「あかり」の画像を見ると、大きく空洞になったような暗い部分が見えます。これは、高温の星団が成長し、強い光で周囲のガスと塵を吹き払ったものです。ここでもきっと将来新しい星が誕生するのだと思います。
オリオン座周辺でも、掃き寄せられた星間ガスの分布や、星が生まれた場所、または生まれつつあるようすをとらえました。ひときわ明るく輝いている場所では、大量の星が生まれ続けていて、その星の光で温められた塵が強い赤外線を放っています。オリオン座周辺の広い領域を、赤外線でこれほど詳しく観測したのは「あかり」が初めてです。このように、「あかり」は、星が活発に誕生するさまざまな場所をとらえました。

はくちょう座にある星形成領域
はくちょう座にある星形成領域

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オリオン座と天の川
オリオン座と天の川

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銀河の星生成メカニズムの解明
M101銀河の冷たいちり(左)と温かいちり(右)
M101銀河の冷たいちり(左)と温かいちり(右)

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「あかり」は、渦巻き銀河M101が、普通の銀河とは違う星の生成のしくみを持っていることを明らかにしました。M101は、地球から約2400万光年の距離にあり、私たちの天の川銀河の2倍ほどの大きさです。一般に渦巻銀河では、中心付近ほど星の生成が盛んに起きていると考えられています。ところが、M101銀河では、銀河の中心付近よりも、外縁部の方が活発に星の生成が起きていることが分かりました。銀河の中の温かい塵と冷たい塵の分布を調べたところ、温かい塵が銀河の外縁部付近に多く集まっていたのです。誕生したばかりの若い星で塵が温められるので、温かい塵の量が多いということは、星の生成が活発に起きていることを示します。
では、なぜM101では外縁で星の生成が盛んなのでしょうか。これは、近くの銀河(伴銀河)と過去に重力の相互作用をしたことによって起きていると考えられます。伴銀河の潮汐力によって引き寄せられた水素ガスが、M101の外縁部に降り注いでいるのが観測されていますが、これが影響して星の生成を引き起こしている可能性があります。しかし、なぜ外縁部のみで水素ガスが観測されるのかは分かっていません。「あかり」はM101以外の銀河も観測していますので、今後の分析で、銀河における星の生成のメカニズムがもっと分かるようになると思います。
  
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