先ほど、極地域から高速の太陽風が出ていると言いましたが、極地方は太陽表面でも未知のものを秘めている領域です。なぜなら、地球から極を見ても表面の様子がほとんど見えず観測しにくいからです。「ひので」の可視光磁場望遠鏡は、偏光を測ることで、表面にある磁力線の向きや強さを精密に測る能力を持っています。極領域の観測から、極地方にも、非常に強い磁場が点状に多数存在していることが分かってきました。
また、「ひので」のX線望遠鏡で太陽の北極を観測してみると、コロナホールにX線ジェット現象が頻繁に起きていることも分かりました。X線ジェットとは、太陽で起こる噴出現象のなかで最も温度が高いプラズマを吹き上げる現象で、フレアなど太陽表面の爆発現象とともに発生します。今までは、X線ジェットのほとんどは太陽活動領域で発生し、北極や南極のようにコロナホールが存在する場所では、まれにしか発生しないと考えられていました。「ひので」の観測は、極領域は強い磁場が多数存在し、X線ジェットといった活動現象で満ち溢れた領域であることを初めてとらえたのです。今回見つかったX線ジェットが、太陽風を加速させるためのエネルギー源になっているかもしれず、今後の極領域の研究は重要になっています。
「ひので」は、太陽表面で起きる大爆発、巨大フレアの観測に成功しました。太陽フレアは、コロナに蓄積された磁場のエネルギーが、「磁気リコネクション」によって解放されることで発生すると考えられています。磁気リコネクションとは、互いに逆方向を向いた磁力線が接触して、磁力線のつなぎ変わりが起こることをいいます。磁力線のつなぎ変わりが起きたときに、磁場のエネルギーが熱や運動エネルギーに変換されます。多くの場合、巨大フレアは黒点群で起きます。黒点群では正極と負極が複雑に混ざり合うため、磁力線がねじ曲げられ、蓄積される磁気エネルギーが大きくなるからです。
「ひので」に搭載され可視光、紫外線、X線の3種類の望遠鏡で巨大フレアを見ると、フレアが発生する直前に超高温プラズマの巨大磁気ループが現れること、また、磁気の変動にともなう波動現象が起きていることが分かります。巨大フレアが発生した黒点群では、負極の黒点と正極の黒点が衝突し、その相互作用によって磁場がねじ曲げられて変形するようすや、ループの足元に出現した「フレアリボン」が黒点内部に侵入していくようすもとらえました。フレアリボンとは、エネルギーの解放によって生じた熱や高エネルギー粒子が彩層(太陽の低層大気)に流れ込むことで起きる現象です。また、超音速の噴出物も観測されました。
フレアが磁気リコネクションに起因することは「ようこう」の観測から明らかとなっていますが、磁気リコネクションを起こす条件がどのように作られていくか、その詳細な過程はまだ明らかになっていません。巨大フレアが発生すると、大量のプラズマが地球にも飛来し、通信システムや人工衛星などへの障害、宇宙飛行士の健康への悪影響など深刻な問題を起こします。太陽フレアが発生するメカニズムを明らかにし、地球環境への影響を予測する「宇宙天気予報」にも役立てたいと思います。
太陽表面にある黒い斑点、「黒点」は周りよりも温度が約2000℃低いため暗く見えます。黒点には強い磁場があり、巨大な磁力線の束が寄せ集まることでガスの運動をさまたげ、周囲よりも温度が低くなったとされています。黒点の形は日々変わり、約11年周期の太陽活動期に合わせて数が増減することは観測されていますが、黒点の起源はまだ詳しく分かっていません。また、黒点は安定して何日間も存在しますが、どのようにして安定した状態を保ち、それがどのように崩壊していくのかも分かっていませんでした。
一般的に黒点は真ん中が特に暗く、その周りを薄暗い部分が取り囲んでいます。真ん中の暗い部分を暗部、それを取り巻く薄暗い部分を半暗部とよんでいます。半暗部には明暗の縞模様が見られ、外向きのガスが流れています。黒点の起源やしくみを解明するため、「ひので」は黒点の磁場構造と黒点周辺のガスを観測しました。「ひので」の特長は、磁場の強さと向きを同時に観測し、磁場の三次元構造を明らかにできることです。
その結果、半暗部の明暗の筋が異なる磁場の傾きをもつこと、また半暗部の明るい部分で熱いガスが上昇していることを明らかにしました。さらに、今まで全く知られていなかった微細な彩層ジェットが半暗部上空で無数に発生していることも発見しました。また、黒点が崩壊する過程の一部も明らかにしています。黒点の暗部は一端亀裂が入ると、熱いガスがなだれ込むように浸入し、崩壊していきます。黒点の周辺では崩壊した磁力線が外に向かって流れ出す様子もとらえています。このように、黒点や黒点周辺ではさまざまな活動が起きています。フレア爆発や太陽風の噴き出しも、黒点のすぐそばで起きている現象です。ですから、黒点の構造を明らかにすることは、太陽の活動を理解するうえでもとても重要ですし、黒点の起源、約11年の周期性の起源の解明のためにも重要だと思います。
*「ひので」が撮影した動画はこちらでご覧いただけます。
国立天文台「ひので」ホームページ