ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


果てしない宇宙の謎にせまる 〜日本が誇る天文観測衛星の成果と未来〜
太陽の新しい活動期に向けて

Q. 「ひので」は海外からどのように評価されていますか?

「ひので」に搭載された可視光磁場望遠鏡によって撮影された解像度の高い画像は、海外の一部メディアには、「太陽版ハッブル宇宙望遠鏡」として一般に紹介されました。また、打ち上げ1年が経ち、「ひので」が行った初期観測からの初期成果が続々得られ、「ひので」に関する論文が2007年度だけで80編以上も発表されました。特に、海外の複数の科学雑誌で「ひので」が特集されるなど、初期観測成果について高く評価されています。アメリカの科学雑誌「サイエンス」では、「ひので」のX線画像が表紙を飾りました。海外で開催される国際会議などでも発表する機会が多いですが、みなさんからは、解像度や磁場観測がとても優れていると評価していただいています。

太陽観測衛星「ひので」
太陽観測衛星「ひので」


Q. 「ひので」の近況を教えてください。

「ひので」は、世界に開かれた軌道上太陽天文台として科学運用されています。世界中の研究者からユニークな観測提案がなされ、他の太陽観測衛星や地上天文台と共同観測を行っています。現在、太陽は最も活動度が低い時期にあり、静かな太陽(実際はとってもダイナミックですが)の観測に時間を割いています。2008年初頭には次の太陽活動周期に属する活動領域(黒点群)が出現し、いよいよ活動度が上昇する太陽を観測するフェーズに入ります。今後は、太陽面大爆発(フレア)や活動領域に注目した観測が増えてくると思います。搭載された観測望遠鏡はいずれも優れた質の観測ができています。ただ、昨年末以降、観測データの伝送に使用しているX帯の信号が不安定となる現象が発生しました。現在、受信や科学運用方法の効率化などの対策を進めており、今後も優れた観測を可能とする科学観測運用を行っていきます。さらなる科学成果にご期待ください。


X線望遠鏡で見た太陽。X線は高温ガスから放射されるので、太陽表面より外側にあるコロナが明るく見える。
X線望遠鏡で見た太陽。X線は高温ガスから放射されるので、太陽表面より外側にあるコロナが明るく見える。

zoom



Q. 今後の観測で注目していることは何でしょうか?

「ひので」の一番の利点は、可視光、紫外線、X線の3台の望遠鏡を統合させて太陽を立体的に観測していることです。これまでの研究では単独の望遠鏡でも十分な結果が出ていたため、研究の多くは1種類の望遠鏡のデータしか使っていません。そういう意味では、「ひので」の本格的な観測および研究がこれから始まると言えます。まずは、太陽表面の磁場を調べると同時に、コロナの加熱や活動の様子を調べ、磁場がどのように変化したら、上空で何が起きるかを調べる観測が重要となります。複数の観測装置でとったデータを同時に見ることで、太陽の物理現象を多角的に理解していきたいと思います。このような統合的な研究はこれまであまり例がないため、そこから非常に優れた結果が出てくると期待しています。
太陽の活動は約11年周期で移り変わりますが、現在は比較的活動度が低い時期にあたります。そのため、太陽活動領域での爆発現象の観測が非常に限られています。幸いにも、太陽の活動が極小期にしては最大のフレアが起きたため、それを観測することができましたが、もっといろいろな視点で爆発の過程をとらえたいと思います。2008年の初めに、太陽の新しい活動周期の始まりを告げる黒点が出現しましたので、今後太陽活動が活発になってきます。この太陽極大期には、今まで観測したことがないような、地球周辺環境に影響を及ぼす大規模な爆発現象(フレア)が見られます。これからますます活動化していく太陽に注目していきたいと思います。
「ひので」のミッション期間は3年の予定ですが、できるだけ長く観測したいというのがプロジェクトチームの願いです。先代の太陽観測衛星「ようこう」も予定では1年間のミッションでしたが、実際には10年間も観測し、太陽活動周期のほぼすべての期間にわたる太陽コロナの変遷をとらえ、すばらしい成果を残しました。2010年から2011年頃に太陽の活動が最も活発になりますので、それを1つの目標にして観測を続けていきたいと思います。「ひので」は、太陽物理学や関連分野の研究を大きく進展させる成果を次々ともたらすにちがいありません。
遠くの宇宙を知るには、まず太陽を
小さな対流泡でびっしりと覆われている太陽表面の様子。
小さな対流泡でびっしりと覆われている太陽表面の様子。

zoom



Q. 今後の観測で注目していることは何でしょうか?

まずは、太陽表面において磁力線がどのようにダイナミックに振舞うのかを詳細に理解したく、初期観測データを解析してきました。コロナの加熱や活動現象はすべて、太陽表面における磁力線のダイナミックな振る舞いが源になっていると考えられ、磁力線の振る舞いを観測的に詳細に理解することが基本となるからです。「ひので」の可視光磁場望遠鏡の偏光観測データから、太陽表面の磁力線や磁場構造の変化と同期して、音速を超えたガスの流れが頻繁に起きていることが分かってきました。例えば、太陽表面で強い磁場が形成される過程や、黒点が安定して存在するために、高速のガス流が観測されます。ガス流と偏光観測による磁場情報を総合的に調べることで、磁力線のダイナミックな振る舞いを理解したいと考えています。
また、「マイクロフレア」と呼ばれるコロナで頻繁に起きる小規模な爆発現象の発生における物理過程にも興味があります。これは、太陽爆発のフレアよりも小さく、ナノフレアよりも大きい現象です。先代の太陽観測衛星「ようこう」の時代には、マイクロフレアがコロナ加熱を説明する有力な候補でした。しかし、私の観測的研究によって、マイクロフレアはコロナの高温成分プラズマを作る重要な役割をしているものの、コロナ加熱全般を説明できないことが明らかとなりました。そこで、今ではもっと小さな「ナノフレア」の探査に重点が移っています。しかし、マイクロフレアは、大規模な爆発であるフレアを単純化させたプロトタイプ(原型)の爆発とも見ることができます。コロナでの爆発現象が、太陽表面の磁力線のダイナミックな振る舞いと呼応して、どのように発生するのかを物理的に理解することが、コロナ活動の物理素過程を理解する上で極めて重要です。マイクロフレアは、太陽表面全体でどこでも起きるのではなく、マイクロフレアが発生する場所は非常に偏っています。なぜその場所で起きるのかという、マイクロフレア発生の過程を明らかにしたいと思います。
今までに行った研究によって、太陽の表面下から小さな磁場が浮かび上がってきたときに、そこにもともとあった磁場と相互作用をして一部のマイクロフレアが起きることが分かっています。しかし、マイクロフレアの中には磁場の浮上活動なしで発生しているものもありそうなので、「ひので」の高解像度の磁場観測で明確にできると思います。「ひので」の磁場観測は、太陽面の磁場を三次元で精密に測れるのが特長です。ベクトル磁場といって、磁場の方向まで分かります。ベクトル磁場を出すと、そこに電流があるかどうかも分かります。これまでの観測で、浮上活動がなくても、電流が強くなっている領域でマイクロフレアが発生することを見つけました。電流を持つ磁力線どうしがコロナ上空で何らかの相互作用をして、エネルギーの解放をしているという物理過程を観測的に初めてとらえたと考えており、今わくわくしています。今後の詳細な解析や検討が必要ですが、今後の成果にご期待ください。



Q. 太陽観測の魅力は何だと思われますか?

太陽は私たちに最も近い恒星です。太陽風や太陽フレアなど太陽で起きた現象が、地球の磁気圏や周辺環境にいろいろな影響を与えます。このように、太陽は私たちの生活に密接に関わっています。天文学の魅力は、「私たちの生命の起源を探る」というような知的好奇心からくるものが大きいですが、太陽観測は、それに加えて、自分たちの生活と密接に関わっているというのが魅力だと思います。
太陽は空を見上げればすぐそこにあります。ですから昔から研究されていて、古い学問だと言われた時期もあります。ところが、1991年に太陽観測衛星「ようこう」が打ち上がって、太陽のダイナミックな姿を見せてくれるようになると、それが天文学者の好奇心を駆り立てたのです。太陽は最も近い天体で、宇宙でも起きる磁気流体現象を、空間的また時間的に分解して詳細に観察することができる唯一の天体です。太陽で起きる変化、活動性や加熱などの素過程は、磁力線とプラズマがかかわる物理素過程であり、遠くの天体にも応用できます。太陽にはまだ分かっていない不思議がたくさんあります。そういう意味では、古くて新しい学問なのかもしれません。近くの太陽を理解することが、遠くの宇宙を理解することにつながる。そこが、太陽観測のもう1つの魅力です。


(写真:JAXA/国立天文台)


清水敏文(しみずとしふみ)
JAXA宇宙科学研究本部 宇宙科学共通基礎研究系 准教授。理学博士。
1995年、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。国立天文台助手(主任研究員)を経て、現在に至る。専門は太陽物理学で、「ひので」をはじめ飛翔体搭載装置開発等にたずさわる。
Back
1   2   3

コーナートップに戻る