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新しい有人宇宙活動の時代へ 〜10年ぶりの日本人宇宙飛行士募集〜
未知なるフロンティアを求めて 白木 邦明 JAXA理事 有人宇宙環境利用ミッション本部長
今後の日本の宇宙開発、特に有人宇宙活動においては、国際宇宙ステーションから有人月探査などさらなる広がりが期待されています。その中で宇宙飛行士はとても重要な職業になります。このような仕事に勇気をもってチャレンジしていただける方たちが多く応募されることを期待しています。
Q.なぜ10年ぶりに日本人宇宙飛行士を募集したのでしょうか?

「きぼう」日本実験棟
「きぼう」日本実験棟


今年の3月に土井宇宙飛行士がスペースシャトルに搭乗し、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の組立てが始まり、日本初の宇宙施設が誕生しました。これによって、日本人が宇宙空間に滞在する本格的な時代が幕を明けます。今年の12月以降には若田宇宙飛行士が約3ヶ月、日本人として初めて長期滞在を行います。その後も、2015年までに5〜6名の日本人宇宙飛行士が合計で約900日間、国際宇宙ステーションに滞在する予定です。各ミッションにはバックアップの宇宙飛行士が必要なことや、打ち上げ前の訓練など準備に時間を要することから、現役の6名の宇宙飛行士だけでは足りないということになりました。そこで、日本人の宇宙活動が本格化した今年、新たに宇宙飛行士を募集しました。

Q.今回の募集は、今後の日本の有人宇宙活動とどのような関連があるのでしょうか?

JAXAの宇宙飛行士
JAXAの宇宙飛行士

当面、日本の宇宙飛行士の任務は、国際宇宙ステーションに滞在することを中心に考えています。NASAは国際宇宙ステーションを2015年まで運用する予定ですが、それ以降に関しては、国際パートナーとの間で協議をして延長するかどうかが決まります。おそらく、延長する方向で議論されると思います。
そもそも日本の有人宇宙活動は、1984年にアメリカが本格的にスタートした国際宇宙ステーション計画と共に歩んできました。日本は1988年に計画への参加を決定し、1992年には毛利宇宙飛行士が日本人で初めてスペースシャトルに搭乗しました。当初の計画では、1994年頃までに国際宇宙ステーションが完成される予定でしたが、スペースシャトルの事故などから計画が大幅に遅れ、毛利宇宙飛行士の後も、向井、土井、若田、野口宇宙飛行士たちが、スペースシャトルによる宇宙飛行を行ってきました。これまでの日本の有人宇宙活動は、スペースシャトルに搭乗することによって宇宙での経験を積み重ね、宇宙飛行士の育成と、それらを通じた有人宇宙技術の取得を主に行ってきたのです。「きぼう」が国際宇宙ステーションに取り付けられることによって、日本も長期滞在の権利を得ることができます。ですから日本の有人宇宙活動は新たな時代を迎えると言えるでしょう。今後は宇宙での長期滞在に順応できる宇宙飛行士を育成し、それにより、日本の有人宇宙計画の将来に大きな可能性を生み出すことができると考えています。

Q.日本の有人宇宙活動は、「きぼう」日本実験棟を拠点にどのように展開、発展していきたいと思われますか?

HTV(宇宙ステーション補給機)
HTV(宇宙ステーション補給機)


「きぼう」の開発にはたくさんの人たちが関わり、日本の最先端技術が結集されました。また、日本は「きぼう」の開発とともに、国際宇宙ステーションへの無人補給機であるHTVの開発も行っています。HTVの初飛行は2009年度の打ち上げが予定されています。その後も、年に1機程度の打ち上げ予定で、国際宇宙ステーションでの有人活動を支援します。さらに「きぼう」で活動する宇宙飛行士には、実験や研究を行う以外に、宇宙ステーションを維持することも必要です。宇宙ステーション内部の故障した部品を交換するだけでなく、ロボットアームを使って船外の修理をしたり、あるいは自ら宇宙空間へ出て保全作業をすることもあります。そういう意味で、宇宙飛行士にはこれまで以上に熟練した専門技術が求められます。これらを通じて有人宇宙活動における先端技術を分担し、世界に貢献できるようにしたいと思います。

Q.今後の日本の有人宇宙活動はどのような方向に進んでいくのでしょうか?

月面基地(想像図)
月面基地(想像図)

今後、人類の活動領域は確実に広がっていき、宇宙は重要なフィールドになると思います。そのため人間が宇宙に長期滞在し、宇宙施設を維持・管理していくことは不可欠なことです。そういう意味で国際宇宙ステーションと「きぼう」日本実験棟の存在意義はとても大きいのです。今の課題は「きぼう」の後はどうなるのか?ということです。これまで国際宇宙ステーション計画で蓄積された国際協力が、2015年で消滅するとは思えません。おそらく、2015年以降も数年は国際宇宙ステーションの運用が継続されると思います。その一方でアメリカは、2020年頃までに有人月探査を開始し、それ以降の有人火星探査を目指すという宇宙政策を発表しています。アメリカの有人月探査計画がもっと具体化してくれば、日本として「宇宙ステーションの次は月面基地の建設に参加」という方向性を出せるかもしれませんし、それ以外にもさまざまな可能性はあると思います。JAXAでは、第2の国際宇宙ステーションというよりは、月探査や火星探査というような、人間がより活動領域を広げるための未知なるフロンティアを目指した有人宇宙活動を展開していきたいと思います。しかし、独自の有人宇宙船を持たない日本にとって、今後の有人宇宙活動が月面基地に移行したとしても、宇宙輸送の点では、現状ではアメリカやロシアといった外国に依存するしかありません。そこで、日本独自の有人宇宙船で日本人を宇宙へ送ることが考えられますが、これについては予算の問題をはじめ、日本国としての戦略的な政策など検討事項が多く、JAXAとしては2015年頃までには結論を出したいと思っています。

白木 邦明


Q.宇宙飛行士に求められる重要な資質は何ですか?

宇宙飛行士が体験することは、多くの一般の人たちが体験することのできない貴重なものです。現在、宇宙へ行くことは非常に大変なことで、地球から勇敢に飛び出していく宇宙飛行士には英雄的な面があります。人々は宇宙飛行士の活躍を見ると、自分も一度は宇宙へ行ってみたいとか、宇宙飛行士になりたいという思いを抱きます。宇宙飛行士は国民の夢の対象とも言えるでしょう。だからこそ宇宙から見た地球の素晴らしさや、宇宙で活動することが私たちの生活や地球の未来にどれだけ大事なのか、その大切さをメッセージとして国民のみなさんに伝えられることができる資質がとても重要です。

白木 邦明(しらき くにあき)
JAXA理事。有人宇宙環境利用ミッション本部長。博士(工学)
1969年、九州工業大学工学部機械工学科卒業。2000年、九州大学大学院工学研究院航空宇宙工学部門博士後期課程修了。1972年、宇宙開発事業団(現JAXA)入社。技術試験衛星I型「きく1号」や電離層観測衛星「うめ」などの衛星や、H-Iロケットなどの開発に従事。国際宇宙ステーション計画には、1984年の検討段階から携わる。2003年6月、宇宙環境利用システム本部副本部長。2003年10月、JAXA宇宙基幹システム本部、国際宇宙ステーションプログラムマネージャ。2006年に執行役、2007年に理事に就任し、現在に至る。
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