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新しい有人宇宙活動の時代へ 〜10年ぶりの日本人宇宙飛行士募集〜
日本の代表として宇宙へ 柳川 孝二 JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 有人宇宙技術部 部長
今年8月に行われる北京オリンピックの日本代表選手が、現在、続々と選抜されていますが、国際宇宙ステーションは、ある意味で、科学技術のオリンピックの場と言えます。「日本を代表する選手として国際宇宙ステーションへ行くぞ」という強い気概を持って、ぜひ応募してほしいです。
国際宇宙ステーション
国際宇宙ステーション

軌道上の「きぼう」船内保管室にて。土井宇宙飛行士(右下)とSTS-123クルー(提供:NASA )
軌道上の「きぼう」船内保管室にて。土井宇宙飛行士(右下)とSTS-123クルー(提供:NASA )


Q.宇宙飛行士募集の応募条件に、自然科学系の大学を卒業とありますが、どうして自然科学系でなければならないのでしょうか?

「きぼう」で行う実験は、人文科学系の実験もありますが、ライフサイエンスや材料など自然科学系に属する実験が主流なので、そのような分野を大学で勉強・研究してきた経験がとても重要です。また、国際宇宙ステーション(ISS)は大きなシステムで、部品点数で言うと、大型旅客機の部品数の千倍程度といわれています。その巨大システムを操作し、維持するためには、やはり、機械が好きで、操作を得意とする技量が必要です。さらに、応募条件としては、社会での3年以上の実務経験を要求しています。自然科学に興味があり、かつ、経験もある人材を求めています。

Q.国際宇宙ステーションに長期滞在をする3名以内の宇宙飛行士候補者を募集していますが、スペースシャトルのミッションとは違う特別な専門性が求められるのでしょうか? また、3名が各々に違う専門性を求めているのでしょうか?

長期滞在だからといって特別な知識面での専門性を求めている訳ではありません。しかし、スペースシャトルでの2週間程度のミッションと、宇宙ステーションに3〜6ヶ月程度滞在するミッションでは、内容が大きく違います。これは、感覚的なたとえですが、陸上競技の100m走と42kmを走るマラソンの違いの様だと考えています。短距離走はほとんど無呼吸で一気に運動を終えますが、マラソンは有酸素運動を何時間も継続します。つまり、何らかの機能を停止してでも、内部蓄積を駆使して目的を達成する短期ミッションと、全てを定常的に稼働させながら実施する長期滞在の違いです。「だから、この資質が長期滞在には必要」と具体的には提示できませんが、国際宇宙ステーションという閉鎖環境で、チームワークを保ちつつ、数ヶ月の長期にわたって業務を遂行できる強い精神力が、特に、大切だと考えています。
また、今回選抜する飛行士候補者に、別々の専門性を要求することはありません。2009年以降は、1年半に1度程度の割合で日本の長期滞在の機会が発生します。日本人が長期滞在する場合、ロシア人が3名、アメリカ人が2名、日本人1名の計6名でチームを構成し、その6名で分担して、「きぼう」を含む国際宇宙ステーションのメンテナンスや操作、実験などの面倒を見なければなりません。ですから、日本人宇宙飛行士それぞれが異なった専門性を持ってミッションに従事するのではなく、全ての仕事を平均的にこなせる必要があります。ただ、それぞれが得意な分野を持っている事は非常に有益ですね。

Q.応募から最終選抜結果の発表までに約8ヵ月かかりますが、それほど時間をかける理由は何でしょうか? それぞれの試験の段階で何名選抜するかは決まっているのでしょうか?

船外活動の技術開発試験に参加する古川宇宙飛行士
船外活動の技術開発試験に参加する古川宇宙飛行士

スペースシャトルからの緊急脱出訓練を行う星出宇宙飛行士
スペースシャトルからの緊急脱出訓練を行う星出宇宙飛行士


書類審査、第一次、第二次、第三次選抜試験と段階を追って選抜するのは、いろいろな角度から宇宙飛行士としての適性を評価するためです。宇宙飛行士に求められる資質や能力、健康、精神面などを多角的に評価します。何故ならば、実際に宇宙へ行けるまでには、長くて厳しい道のりがあるので、知識的な能力以外にも、精神的、肉体的にタフである事が必要だからです。宇宙飛行士候補者として選抜された後は、NASAの宇宙飛行士候補者と一緒に2年間の基礎訓練を行います。その訓練の成果を評価されて、JAXA宇宙飛行士に認定されます。その後、基礎訓練よりも一段上のレベルのロボット操作や船外活動などの訓練を受けながら、国際宇宙ステーションの各システムの操作技術を学びます。
さらに、宇宙飛行士として重要な任務は、JAXAやNASAが行っている開発業務を支援し、最終的な操作者の立場から、開発システムに対してさまざまなコメントを行うことです。このような日常業務や訓練の成果によって宇宙飛行士の技量が総合的に評価され、具体的なミッションに任命されます。任命された後も、ミッションのクルーと一緒に1〜2年間ほど訓練を行い、やっとミッション遂行となります。このようにステップを積み上げていくので、通常の知識ばかりでなく、新しい分野に躊躇せずに取組む積極性、長い訓練を乗切る忍耐力などが大切です。これらを確認させてもらうため、若干、長い期間をとっています。
また、それぞれの試験の選抜人数については特に決めていません。前回の募集の実績では約850名の応募があり、書類審査後、第一次で約200名、第二次で約50名、第三次で約10名を対象として選抜を行い、最終的に3名といったプロセスを経ています。今回もそれほど違いは無いと思います。

Q.宇宙飛行士に求められる資質は何だと思われますか?

柳川 孝二


国際宇宙ステーションという大きなシステムを操作、維持するためには、応募される方が現在持っている能力だけでは十分ではありません。訓練などで、今持っているものを基にして、自分の能力をどんどん広げ、かつ、高めてもらわなければなりません。ですから、新しい世界に飛び込んで、新しいことをどんどん吸収できるような、柔軟性が非常に大切です。また、国際的なチームの中で共同作業をするためには、皆と自由に意思の疎通ができることや、チームワークを意識して、リーダーシップ、フォロワーシップ、セルフコントロールを考えて行動できることも重要です。特に、協調性や適応性、情緒安定性を強調したいと思います。
また、日本を代表して国際宇宙ステーションへ行くわけですから、日本のさまざまな情報を国際チームの仲間に伝えてほしいと思います。そして、軌道上で経験、体験したことを、日本国民の皆さんに分かりやすい言葉で伝え、共有して欲しいですね。そういう意味で、「美しい日本語など、日本人の宇宙飛行士としてふさわしい教養を有すること」との応募条件がある訳です。JAXA宇宙飛行士は日本の顔になるわけですから、良いスポークスマンであってほしいですし、国民に多様な成果を還元するという意識を持ってほしいですね。

柳川 孝二(やながわ こうじ)
JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 有人宇宙技術部 部長
1977年、早稲田大学大学院物理学専修課程修了。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)入社。H-Iロケット2段LE-5エンジンの開発に従事。1987年、国際宇宙ステーション計画の立ち上げに参加し、宇宙環境利用計画の検討に従事。スペースシャトルでの宇宙実験にも数多く参加。1998年、ヒューストン駐在員事務所。2001年、有人宇宙環境利用推進本部に復帰し、現在に至る。
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