ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


JAXAの太陽系惑星探査

将来はイオンエンジンも使って木星圏へ航行

Q. 「イカロス」によって、将来の惑星探査計画にどんな影響を与えると思いますか?

木星・トロヤ群小惑星探査計画(提供:池下章裕)
木星・トロヤ群小惑星探査計画(提供:池下章裕)

もともと2003年に発案された「木星・トロヤ群小惑星探査計画」という、ソーラー電力セイルで木星圏を探査するという計画があって、その技術の一部を宇宙で先行実証するために「イカロス」を打ち上げることになりました。そのため「イカロス」ではソーラーセイルの性能を正しく評価することに重点をおき、地球周回ではなく、惑星間飛行にこだわりました。「あかつき」と一緒に金星に向かって打ち上げてもらえるというのはとてもラッキーです。
木星圏を探査する計画では、直径約50mの大きさのセイルに、イオンエンジンを搭載する予定です。セイルを大きくすれば、その分、太陽電池の面積を大きくすることができますし、燃料も使わないのでとても効率的です。しかし、太陽光の力だけで加速したり、姿勢をコントロールすることはとても難しいので、燃費のよいイオンエンジンをソーラーセイルと併用することを考えています。ただし、イオンエンジンは電力消費量が多いのが弱点で、その電力を確保するのが問題になってきます。木星と太陽の距離は、地球と太陽の距離の5倍ありますが、距離が5倍離れると、太陽電池の発電効率が25分の1になります。そのため、これまで木星よりも遠くへ行った海外の探査機は、原子力電池を使用しました。しかし、私たちはあくまでも太陽電池を使って木星に行くことにこだわっています。そこで考えたのが、セイル自身で電気を発電させる機能です。「イカロス」でソーラー電力セイルの技術を実証して、次の木星圏探査につなげたいと思います。


「イカロス」の技術がエコにも役立つ

Q. 「イカロス」の技術は、惑星探査以外にはどのようなことに発展できると思いますか?

ソーラー電力セイル実証機「イカロス」
ソーラー電力セイル実証機「イカロス」

セイルに貼り付けた薄膜太陽電池は、通常の人工衛星に使われている太陽電池よりも軽量で、取り扱いやすいです。太陽光発電システムの電池開発の先駆けにもなります。今後、さらに安く大量に安定供給できるようになれば、一般社会にも普及し、環境問題にも貢献できると思います。また、大型の構造物を展開する技術は、テントを張る技術などに応用できるのではと思います。

Q. 子供の頃から宇宙に興味があったのでしょうか?

宇宙というよりは、周りまわりの自然すべてに興味がありました。例えば、昆虫が好きでしたし、海や山にも興味があり、自然のものの一つとして、星空を見るのも好きでした。私が宇宙の道に進みたいと思ったきっかけは、高校生の時にテレビで、アメリカの惑星探査機「ボイジャー」を知ったことです。ちょうどその頃、ボイジャー2号が海王星を通過して、これから太陽系外に旅をするということで、関係者が集まってパーティのようなものをやっていました。そのようすをテレビで見て、ボイジャー探査機はすごいと思ったのと同時に、こんなに大勢の人が惑星探査ミッションに関わっているのだと感動しました。そして、自分も宇宙ミッションに関わる一人になりたいと思いました。

身近な生活にも応用できる惑星探査技術

Q. 太陽系惑星を探査する意義は何だと思われますか?

究極的には、人間が持つ冒険心だと思います。「山になぜ登るかと言うと、そこに山があるから」と言う人がいますが、それに近いような気がします。実際に惑星に行って探査をすればいろいろなことが分かって宇宙科学が発展し、特に人類の生命の痕跡や、地球や宇宙の起源について知ることができますが、もっと根本には人間が持って生まれた探究心によるものが大きいと思います。私が木星圏を探査したいと思った一つの大きな理由は、これまで自分たちで行ったことがないからですし、きっと木星圏を探査したら、次には土星、天王星、海王星に行きたくなるでしょう。
ただし、税金を使う限り、自分たちの興味だけではできません。世界第一級の理学的・工学的成果を出せるようなミッションを遂行していきたいと思います。先進の技術開発は、宇宙分野のみならず、さまざまな分野に今後、応用できます。身近な生活にもつながると信じています。

Q. これからの夢を聞かせてください。

私の子供はまだ2歳ですが、電車やバス、車、船など乗り物に興味があります。特に電車が好きで、しかも、いろいろな電車に乗らないと納得できないらしく、週末に子供を連れて電車に乗りに行くととても喜びます。私は、宇宙船が一般の人の身近な乗り物になって、自分たちが作った宇宙船で、冒険の旅に出るような時代がくればいいなと思います。子供たちが乗れる宇宙船をぜひ作ってみたいと思います。

森治(もりおさむ)

JAXA月・惑星探査プログラムグループ 助教 博士(工学)
1999年、東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻修士課程修了。1999年、東京工業大学工学部機械宇宙学科助手。2003年、JAXA宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系助手。これまでに、小惑星探査機「はやぶさ」の運用やM-Vロケットの打ち上げ、S-310観測ロケット実験や大気球実験などに携わる。現在は、ソーラー電力セイル実証機「イカロス」の開発責任者を務めている。専門は、動力学・制御、宇宙機システム。

Back
1   2
  

コーナートップに戻る